終章3
◆終章3
彼が逢瀬の場所に指定したのは港のはずれの倉庫、しかも夜更けだった。
時計が23時を示したとき彼の車がやってくるのが見えた。
「ケンジ」
私は、懐かしくて彼が車を降りるのも待ちきれず、ドアへと近寄った。
けれども、車を降りた彼は、まるで別人のようだった。
3ヵ月前の少したよりないけど優しい感じじゃなくて、陰気な感じだった。
沈黙のまま私の前を通り過ぎて、海の近くで止まった。
「ねえ、いったいどうしちゃったの?」
彼は、私のほうを見ようともせずに、煙草に火をつけた。
港の三方を山が囲んでいる。その中腹まで灯りが散りばめられている。
紫煙をくゆらせた彼が、その中にシルエットで浮かび上がる。
ケンジはあいかわらず何も言わない。
「ねえ、ねえったら」
私は、ケンジに甘えるように、すがった。
ケンジは、ようやく私に向き直ると
「俺のことがまだ好きなのか」
ロクに吸ってない煙草を海に放り投げながら訊いた。
「……好き」
もう、あきらめているのに。思わず言葉がこぼれ出たのと同時に涙がこぼれてしまった。
私の涙を見てなのか、彼は困ったような顔をしてこちらへ歩いてきた。
そして何も言わず私を抱きしめた。
彼が手を首にまわしたときも、私は口づけされるんだ、と目を閉じて、その久しぶりの柔らかい感触を待った……。
「うっ!」
私が目を見開いた時は手遅れだった。
最期に私が好きだった優しい笑顔を見せてほしい、必死の形相の彼に思ったのはそんなことだった。