終章1
◆終章1
プアン。
と、警笛がなり、止まっていた電車がごとり、と動き出した。
私は目を疑った。
運転席に……誰も乗っていない!
電車は急速にスピードをあげて私の方に近づいてくる。
『軌道の横に逃げればいい』とわかっているのに、身体が動かない!
電車は私を跳ね飛ばそうとした。
轢かれる!
そのとき。私は何かに力いっぱい突き飛ばされた。
間一髪、軌道の脇に倒れこんだ私が振り返ると、月の空に一匹の猫がロングシュートのような長い弧を描いて高く飛ばされるのが見えた。
猫の体は、次の瞬間、地面に叩きつけられた。
電車は猫をはねると消えてしまった。
私は恐る恐る、終着駅を振り返った。
信じられないことだが……そこには何事もなかったように、電車が2台、動いた形跡もなく静かに沈黙していた。
私はぼろきれのように横たわる猫に駆け寄った。
昼間の三毛猫だった。
弱弱しく「ニャア……」と一声鳴いてこときれた。
その次の瞬間、信じられないことが起こった。
猫の死体がむくむくとふくらんでいく。
死体の膨張が終わって私は、がっくりと膝をついた。
それは、ケンジだったのだ。ケンジがそこに横たわっていた。
「ケンジ、ケンジ……、ケンジってば!」
私は、呼びかけながら、血がこびりついたケンジの頬を手で包んだ。
まだ温かい。だけど急速に冷えていくのがわかった。
しかし、ケンジに戻ったその身体をいくら揺さぶっても、もはや動くことはなかった……。