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34話

猫はさらに階段を登っていった。


たどりついたそこは……いつかケンジと2人で来たK展望台だった。


あの時と同じように山の斜面を覆い尽くすように立ち並ぶ家を見渡した向こうに長崎港の眺望が開けていた。


猫はそこにつくと、気持ちよさそうに伸びをした。


猫の首についていたミサンガは、ほとんど汚れておらず、彼が付けていた時とあまり変わらなかった。


それを見ているうちに、彼にそれを渡した日のことが蘇ってきた……それを呼び水にして、


彼の思い出が波のように私の脳裏に打ち寄せて、それはいつしか、私が大好きな彼の笑顔に塗りつぶされた。


泣きそうにも見える、優しい笑顔。大好きな笑顔。


そして、その顔に似合わない温かくて低い、男っぽい声。


2年も一緒だったのに……。


不意に涙がこぼれ落ちた。涙はアスファルトに黒い水玉をつくった。


トモミが心配そうにこっちをのぞきこんだが、私は涙を止めることができなかった。


どこへ……行ってしまったの。





長崎には1泊した。


長崎につきあってくれたトモミのために、中華街に行ったり、夜景で有名な稲佐山に行ったりなど一通り観光を楽しんだ。


トモミは一生懸命、傷心の私を慰めようとしてくれていた。


しかし、神戸、函館と並ぶとされる長崎の夜景を見ても、私の心は癒されなかった。


ただ、付き合わせたトモミが喜んでくれたのがよかった、と思った。


でも、妙に赤い夕映えの中に、山々を覆うように散りばめられた煌きを見ながら、


『このどこかにケンジはいる』


と私は何故か確信していた。


ホテルのベッドで私はまんじりともしなかった。


翌日、私はトモミに、もう少し長崎にいて彼を探す、と宣言した。





→23話へ続く


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