30話
◆30話
『閉じ込められている』という彼の話は、いかにも作り話じみていて信じがたかったけれど、
彼に逢いたかった私は地図の場所にやってきてしまった。
そこは市電の終着駅だった。何げない小さな車庫に車両が2つ納まっている。
昼間は忙しく街をにぎわしている市電とは別の物体のように真夜中の今は静かに沈黙しているのが物珍しい。
約束の時間を過ぎたのに、彼はやってこない。
人通りもほとんどない終着駅を夜風が吹き抜けていく。
……やっぱり彼はここであの女の人と新しい生活を……。そうなんだ。
あの女性が現れた時点で諦めていたけど、私は哀しくて涙が出そうになった。
鼻の奥が涙でつーんとした時、1匹の猫が飛ぶようにこっちへやってきた。
私の足もとに必死ですりより、尋常じゃない鳴き方だった。
「どうしたの?」
私はその三毛猫を抱き上げた。首に何か、コヨリのようなものがついている。それはケンジからの手紙だった。
『愛するユウコへ。信じられないと思うが、この猫は俺だ。
俺は化け猫の呪いを掛けられて猫にされてしまった。
もうたぶん人間には戻れない。この秘密を知ったとわかれば君はきっと殺されてしまう。
だから、この紙は燃やして早く福岡へ帰れ。幸せになれ。ケンジ』
「何これ!こんなことでごまかそうってことなのね!ようするにこっちで新しい女を見つけたんでしょ!」
思わず私は手紙を破り捨てた。三毛猫は
哀しげに鳴き続けた
→終章1
どこかに行ってしまった
→終章2