3話
◆3話
音が聞こえた方に目をやると、ミーコが窓を叩いていた。
ミーコはウチに出入りしていた野良猫で、ケンジによくなついていた。
私は窓を開けてあげた。ミーコはぴょーん、と部屋に入ってきた。
人懐っこく足の周りに体を摺り寄せて1週したあと、気持ちよさそうに伸びをした。
「ミーコ……。今日もケンジは帰ってきてないんだよ」
私はミーコにミルクをあげながら頭を撫でた。
半野良のミーコの毛並みは撫でるとすべすべとしている。
粉の中に手をうめるようなそんな柔らかさに、私は少し癒された。
そのときだ。
急にミーコが『フーッ!』とうなって身を固くした。
「どうしたの、ミーコ」
私の声も聞こえないのか、ミーコは飾り棚のあたりを見据えて威嚇するのをやめない。
尻尾と一緒に、滑らかだった毛が逆立っている。
次の瞬間、飾り棚の上から写真立てが落下したのだ。それはケンジが写っているものだ。
私は駆け寄って拾い上げた。
さして重いものでもないのに、取り上げた写真立てには見事にヒビが入っていた。
しかもケンジの顔の部分に。
額にヒビが入ったままの泣きそうなケンジの顔。
不吉な予感がした。
−−まさか、まさかケンジに何かあったのでは!
一度、芽吹いた不安は、風呂場に生えたカビのように黒々と根深くて、消そうとしてもなかなか消えなかった。
ついに私は……長崎に行くことを決意した。
長崎へは
ひとりで行く
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友達を誘って2人で行く
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