29話
◆29話
彼も私を見つけて驚いたようだ。サッシをあけて縁側に私を入れた。
「どうしたんだ!ユウコ!こんなところで」
「ケンジ!」
すべての隔てがなくなった私達は抱き合った。
久しぶりの……ケンジのぬくもり。広い肩。
しかしそれも一瞬で、ケンジは私から身体を離した。
「シ!隠れて!」
ケンジは押入れの襖を開けると、私にその中へ入れとうながした。
「どうしたの?」
「いろいろ事情があるんだ」
私が隠れた押入れの襖が閉まったのとほぼ同時に、誰かが部屋に入ってきた。
私は襖の隙間から漏れる、一筋の明かりに向かって耳を凝らした。
「どうしたの?サッシが開く音がしたけど」
若い綺麗な声の女性だ。
「ああ、蛾が一匹、部屋に入ったから追い出していたんだ」
ケンジが言い訳をしているのが聞こえる。
「そう」
女は疑わなかったようだ。
「ところで今日のお夕食は肉と魚とどっちがいい?」
「どっちでもいいよ……、うん、どっちかというと魚が……いいかな」
「わかったわ」
女性は出て行ってしまったらしい。
私は、押入れの暗闇の中で、どうしようもない不安に捕われていた。
どうやらこの家で、その綺麗な声の女性とケンジは暮らしているらしい。
すっかり日常的になった会話のようすだと、かなり長いのか。
目の前の暗闇と同様、心が真っ暗になっていくのと裏腹に襖がカラリと開いて明るくなった。
「今の、どういうこと?」
「シ!今は言えないんだ」
ケンジはあたりをうかがった。女が戻ってくる気配がないのを確かめると、
「実は……事情があってここに閉じ込められているんだ。信じてくれ」
私にしか聞こえないような小声で囁いた。
「でも……」
「夜なら出られる。今夜ここで待っていてくれ」
彼は私に紙切れを渡した。
私は彼を
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