28話
◆28話
大群の猫が両側に分かれはじめた。
真ん中にできた道の向こうから、和服の人が歩いてくるのが見えた。
銀髪を美しく結い上げた上品な老婦人だった。
私を見つけると早足で、近づいてきた。
早足なのに、着物の裾が乱れない。
「アナタ……、大丈夫?」
老婦人は、大木に寄りかかって呆然とする私に声をかけた。
髪こそ銀髪だが、しわがれることもなく、張りのある声だ。
「擦りむいているわ」
肘のあたりを墓石で擦ったのか、血がにじんでいた。
私は言われて初めて気付いた。逃げるのに夢中だったのだろう。
ようやくほっとした私は、今ごろ大きくため息をついた。
「……大丈夫です」
「そんな。若いお嬢さんが。消毒しないと跡になってしまうわ。すぐそこだから寄ってらして」
老婦人は自宅に私を誘った。しかし、たった今会ったばかりの人だ。私は遠慮した。傷も本当にたいしたことなかったし。
「いえ、本当に大丈夫なんです」
「でも、せっかくだから……ね?」
老婦人の誘いは、なぜか断れないような感じだった。目力、というのだろうか。
身なりからも悪そうな人じゃないし、せっかく親切なんだし……。
と私は彼女の好意を素直に受けることにした。
婦人に従って歩き始めた私に、
「ニャー!」
私を呼び止めるかのようにさっき、私を助けてくれた三毛猫が叫んだ。
婦人は、その猫をチラリと一瞥したが、追い払うでもなく、無視して
「さあ」
と私に寄り添った。
その三毛猫はずっとついてきた。
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