23話
◆23話
私は、彼を探して長崎の町をさまよった。
探すあては何もない。
考えてみたら私は、彼に宿泊先も聞いてなかったのだ。
もっとも、彼のこなす安い仕事は、安宿代ですらケチらないといけないような仕事も多かった。
彼はそのたびにボロくなったマイカーで寝泊りしていたのだ。
自発的な作品になる今回も、そんなに長期になるとは思わなかったから、いつものように車で寝泊りパターンなのだろうな、と私は思い込んでいた。
それで、宿泊先を聞かなかったのだ。
そんな私の道しるべはただ1つ。
彼が『猫の写真集』といっていたことだけだった。
だから私は、猫がいるところを人に聞いては歩いた。
もしも猫が口を聞けたなら猫に聞くのが一番なのだろうが……。
必死の形相の私に反して、猫は目の前を悠然と横切ったり、門柱の上で丸くなっていたりと、のびのびと活動していた。
彼だったらシャッターチャンスの宝庫だっただろう。
……ダメだ。
もう夕方だが、彼の手がかりは何もつかめなかった。
一日中歩き回った足は、すっかり棒になっていて、もう感覚がない。
私は狭い石造りの階段の途中に座り込んだ。
山肌の中腹まで住宅が建て込んでいる一角だ。
目をあげると夕暮れの長崎港がよく見える。
下のほうから人があがってくるのが見えた。
上がってきたのは
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