18話
◆18話
女は私から離れたところでしばらく彼と話しているようだった。
きれぎれに聞こえてくる会話は、とても親しげ……というよりもはや家族のようだった。
信じたくないけれど、彼女とケンジの関係は、堅固なものなのだ、と私は再確認せざるを得なかった。
私は、立っている力もなく、階段に腰掛けて港をぼんやりと見る。
それは少し、かすんでみえた。
あの港が見える階段の踊り場でケンジと長いキスをした日もこんなふうに少しかすんでいた。
思い出は鮮やかなのに、あれは幻だったのだろうか……。
戻ってきた彼女は、憐れむように私を見ながら言った。
「やっぱり会えないって」
彼女は
「私もちゃんと話したほうがいいと思うんだけど……彼、そういうところがだらしないのよね」
と、申し訳なさそうに続けた。
私は黙って立ち上がった。
目の前の視界が、砂嵐に包まれて、私は全身が冷たくなっていくのを感じた。
くらくらと頭が揺れる。ひどい貧血だった。
「大丈夫、あなた」
そんなに暑いわけじゃないのに冷や汗がどっと噴き出した。
彼女は私の汗をスワトウのハンカチでふき取ってくれた。
恋敵をもこうやって思いやることができる優しいひとなのだ……。
その細い腕に鮮やかな飾り。
私がケンジにあげたミサンガだ。
白い細い腕にあざやかなそれを見て私の中に憎悪が沸き起こった。
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