17話
◆17話
私は必死だった。
その甲斐あって、女性をとうとう追い詰めた。
追い詰めてみると、意外に小柄な女性だった。色白に長い黒髪がひときわ目立つ。
私は逃げないように、彼女の腕をつかんだ。
しばらくお互い息が切れて言葉が出てこない。
だけど、はやる私は息を切らしながら彼女に訊いた。
「……私を……、ケンジを……知っているんですか?」
すると、女は私の手を振り払うように向き直り、黒目がちのひとみで私をキッとにらんだ。
「ケンジ、もう福岡には戻らないって!それに私……!」
叫ぶようなその先の言葉に、私は一瞬耳を疑った。もう一度訊きなおす。
「何度でも言うわ! 私のお腹には、ケンジの子供がいるんだから!」
彼女は強い口調で、確かに口にした。
私は地面が揺れるのを感じた。
……ケンジの……子供?
空と、港が逆転する。すべての音が消えた。
風が木々をゆらす、ざざっという音がして私は我に返った。
気がつくと私はしゃがみこんでいた。
「そう……。そんな身体で……。こんなに走って……。走らせて……ごめんなさいね」
私は地面を這うアリに話し掛けるように言った。
私のそんなようすに同情したのか、意外にも女は
「……ケンジもあなたにちゃんと話すべきだったのよね」
などと言った。さっきの強い口調とは違う、少し優しい口調だ。
私はうなづくと、立ち上がった。
「私、彼から何も知らされていないんです。せめて彼に会わせてもらえないでしょうか」
女は、本当に可哀想に、という目で私を一瞥すると、寛大にも彼に電話を掛けてくれた。
そんな同情的な態度をされている時点で私は負けた女なのだ。
彼との将来などもうみじんもないに違いないのだ。でも……ひとめ逢いたい。
彼は私と
逢ってくれない
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