16話
◆16話
さすがに日頃の積み重ねなのか、地元の人の足にはついに勝てなかった。
全力で追ったにもかかわらず、私は彼女を完全に見失ってしまった。
全力つまり文字通り、全ての体力を使い果たした私は、しばらく下をむいたまま顔をあげることができなかった。
息が完全にあがっている。荒い息は肺をきしませている。
額から流れた汗が、簡易アスファルトの階段に水玉の染みをつくる。
心臓が頭に移ってしまったように脳がドクンドクンと音をたてている。
……ようやく、風が吹き抜けていくのを感じられるようになって、私は顔をあげた。
いつのまにか、まったく知らない場所へ来てしまっていた。
観光客がいくような場所から大きく離れてしまったらしい。
ただ港を見下ろす高台にいる、それ以外、自分がどこにいるのか、わからない。
地図はトモミが持っているから私は場所を確認することもできない。
誰か通ったら道を聞こうとも思ったが、こういう時に限ってだれも通らない。
考えたあげく、あまり常識的な行動ではないが、一般の民家の扉をたたくしかないか、とそこまでに至った。
迷った挙句、緑がこんもりと肩の高さまでの塀をつくっている一つの家のブザーを押した。
ブロック塀などに比べると、門構えが優しげにみえたからだ。
誰も出ない。
しかし庭に面した窓にテレビの画像が反射してちらちらしているのが見える。
庭のほうにまわってみた私は驚いた。
そこにはケンジがいたからだ。
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