14話
◆14話
彼女は、呼び止めた私に気付くと、一瞬、目を見開いて私を凝視した。
しかし、私が何か声をあげようとしたその時、長い黒髪をさっと翻して駆け出した。
−−やっぱりケンジのことを何か知っているんだ!
一目散に逃げ出した彼女を見て私は直感し、反射的に彼女を追った。
狭い階段を駆け上っていく黒髪を私は必死で追う。
トモミもわけがわからないままに、ついてきたが、ついに
「待ってえ、私もう動けないわ」
と、早々にへばってしまった。
しかし私は構わず、彼女を置き去りにして、無我夢中で女を追跡した。
ものすごいスピードだ。
色の白い、しとやかそうな女なのに、さすが地元の人だ、早い。
長崎の人は、この階段と坂のおかげで足が鍛えられていると聞いたことがある。
大学の同級生だったと思う。
『だから足の太いとがなおらんたいねー』
と長崎の同級生は笑った。
しかし目の前を駆けていく女のふくらはぎは白くて華奢だ。
私の足などよりよっぽど弱そうなのに、いっこうにスピードが落ちない。
むしろ私のほうこそ、足がもつれそうになりながらも必死でついて行った。
足は痛く、体中がきしみ、心臓が悲鳴をあげる。熱くなった血液は脳をどくんどくんと攻撃する。
だけど。
−−彼女はいったい、ケンジの何者!?
それを突き止めない限り、私は彼女の追跡をやめるわけにいかない。
苔むした塀が続く路地へ入り、今度は階段を下る。
私はとうとう彼女を
見失ってしまった
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