13話
◆13話
ミサンガはその三毛猫の首に巻きついていた。
猫は私を見て立ち止まった。
「おいで、おいで」
私はしゃがみこむと、猫に呼びかけた。猫は私に飛びついてきた。
「ヤダ、その猫、泥だらけじゃない」
トモミが顔をしかめた。
「見て、私が彼にあげたミサンガよ」
それは私が以前、スペインの田舎町を旅行したときに買ったものだった。
本当はケンジと一緒に行きたかったスペイン。
だけど、例のごとくお金のないケンジは、計画だけ立てておきながら、私を見送るしかなかった。
彼が勧めたスペインの田舎町は素晴らしかった。
どこまでも広がるなだらかな乾いた沃野に、突然現れる名もない小さな町。
レンガが埋め込まれた通りの両側に並ぶ白い壁の民家。
そこではタペストリーのようなカラフルな布がドアがわりをしていた。
人々は素朴で、マドリードのような大都会のように犯罪対策をする必要もなく、心からのんびりとできた。
私はせめて彼にたくさんのお土産を買った、ミサンガは、そのうちの1つだ。
「ええー、これつけんのー?」
照れて抗議する彼に
「かわいーじゃーん!おしゃれやーん!」
私は押し付けた。彼は結局、ぶーぶーいいながらも着けてくれた。
複雑な織り方は日本、しかも九州では絶対に目にするはずがなく、男性が着けてもお洒落なものだ。
たぶん彼は気に入ったんだと思う……。
「何でそんな猫が……」
トモミはいぶかしげな目を変えないが、私には猫がしきりに何かを訴えるように首をしゃくるように見えた。
「あっ!」
猫は私の腕からぴょーんとバネじかけのように飛び出た。
「ど、どこ行くの!待って!」
私たちは猫を追った。
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