12話
◆12話
ちょうどすれ違ったその女性を見て私が息を飲んだのは、その人がきれいだったから、ではない。
そのときは、あることに気をとられて、その顔まで見るゆとりはなかったのだ。
私の視線と意識は彼女の腕の一点に、集中していた。
女性の腕についているのは……私が彼にプレゼントしたミサンガとそっくりなものだった。
それは私が以前、スペインの田舎町を旅行したときに買ったものだった。
本当はケンジと一緒に行きたかったスペイン。
だけど、例のごとくお金のないケンジは、計画だけ立てておきながら、私を見送るしかなかった。
彼が勧めたスペインの田舎町は素晴らしかった。
どこまでも広がるなだらかな乾いた沃野に、突然現れる名もない小さな町。
レンガが埋め込まれた通りの両側に並ぶ白い壁の民家。
そこではタペストリーのようなカラフルな布がドアがわりをしていた。
人々は素朴で、マドリードのような大都会のように犯罪対策をする必要もなく、心からのんびりとできた。
私はせめて彼にたくさんのお土産を買った、ミサンガは、そのうちの1つだ。
「ええー、これつけんのー?」
照れて抗議する彼に
「かわいーじゃーん!おしゃれやーん!」
私は押し付けた。彼は結局、ぶーぶーいいながらも着けてくれた。
複雑な織り方は日本、しかも九州では絶対に目にするはずがなく、男性が着けてもお洒落なものだから。
「待って」
私は女性を呼び止めた。
そのとき初めて、その女性がとてもきれいな人だということに気付いた。
色白で、長いストレートの黒髪に、大きくないのに印象的な瞳を持っていた。
彼女は私が呼び止めたことに気がつくと
逃げた→14話へ
立ち止まった→15話へ