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11話

◆11話


私は夢中でその家のブザーを押した。中から出てきたのは浴衣姿の若い女性だった。


小柄でいまどき珍しい真っ黒な髪が腰まである。


血管が青く透けそうなほど色が白く、潤んだような瞳は黒い部分がほとんどだった。


浴衣はたぶん木綿の藍染、プリントではなくきちんと染めたものだろう。


紺と白のシンプルな古典柄は、彼女の肌のきめ細かさを強調する。


奥へ案内してくれる横顔が、また美しい。伏目がちで睫がうっとりするほど長いのだ。


私は同じ女性同士なのにドキドキと胸が高鳴るのを感じた。


トモミもだまりこんで見とれているようだ。


やっぱりケンジのカメラがそこにあった。


「まあ……。このカメラが。あなたの大事な方の」


彼女は、このカメラが寺に置き去りになっていたのを、雨に濡れたらいけないと、持ってきたという。


「どうぞお持ちください」


といとも簡単に返してくれた。


ただ、私たちが帰ろうとすると、さっきの三毛猫が激しく鳴いたのが耳に残った。


ミギャー、ミギャー、と猫がこんなに激しく鳴くのを私は初めて聞いた。


帰り道。


「綺麗な人だったねえ。私こっそり写真とっちゃった」


トモミは得意げに写メールを取り出した。


「いつのまにとったと?」


「ふふふ。ほら!」


その画像には横顔の彼女が写っているはずだった。


しかし……私たち2人は凍りついた。女は浴衣だけ写っていて体がない!


私はハッとした。あの猫の背中の模様……。


私は、彼の裸の背中を思い出した。


平原のようになだらかな褐色の彼の背筋の中には、赤ん坊の手のひらほどのアザがあった。


その特徴のある形を彼は嫌がっていたけど、私は好きだった。


よく、ベッドの上でそれに口づけた。すると彼はくすぐったがって体をよじったものだ……。


その、アザの形によく似ている気がする。いや、そのものの形!


気がつくとトモミをそこに置き去りにして、私はその家に駆け戻っていた。


「ホホホ、やっぱり戻ってくると思ったわ」


女は妙に紅い口を薄く開けて笑った。その後ろにはケンジが……!




→終章4へ続く


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