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10話

◆10話


『ケンジ!』


私は、ケンジの姿を古民家の中に見つけるなり、叫び声をあげそうになったが、次の瞬間凍りついた。


奥の間から、エプロン姿の若い女が現れたからだ。


女は、楽しげにケンジになんやかやと話し掛けながら、仕事に出かけるらしい彼の着替えを箪笥から出している。


そして、着替えを手伝っている。


ケンジも今日の仕事について、女に打ち解けた感じで話している。


……どうみても仲むつまじい夫婦だった。


私の好きなケンジの声なのに、私に向けられていない。


何かで頭を殴られたようなショック。私の視界はぐらり、と歪んだ。


さすがのトモミも息を飲んで、私の様子を伺っているのがわかる。


私だって


「どういうこと!」


と叫びたい。


しかしそんな衝動を私はかろうじて押さえて、突っ立ったまま様子を伺っていた。


脇の下にじっとりと汗をかいている。


彼が仕事に出かけるのを見届けてから、玄関のブザーをおす。


『ブー』という音が鳴る旧式なものに呼ばれて出てきた女は、家に似合うような古風な日本美人だった。


色白の肌に、黒目がちの瞳。


地味な顔立ちだが、眺めているうちにその美しさに目が離せなくなる。そんな顔立ちだった……。


女に話を訊くと、もう結婚6年にもなるという事実が判明した。


−−だまされてたんだ。


私は、女にもトモミにも取り繕うことさえ出来ず、ふらふらと通りへ出た。


頭は混乱していたがもやもやしたカオスのような思考の中から徐々に湧き出てきた感情がある。


それは





怒りだった

→終章2へ続く



哀しみだった

→終章3へ続く


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