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異形戦記  作者: 四次元
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第4話 合流

もうプロローグじゃなくて序章ってことにしようか(汗)

後一話追加です。

「あれ、あんたら何で荷造りをしているだよ?」


 先程皆に暖かく出迎えられた赤髪の大男と、その友人らしき細目の男はいつもより豪勢な昼ご飯を堪能するのも程々に早々に自分達の荷物をまとめていた。


「ああ、あんなことがあった以上、もうしばらく石炭掘りなんて出来ないだろ?」

「僕らは出稼ぎの金がないと生活が苦しいので… 早めに失礼します」


 それを見た宿の女将は残念そうな顔をする。


「そうかい、あんたらも大変だねぇ。これからどこに行くんだい?」

「南東の炭田に行こうかと…」

「あそこはファーリーンとの国境が近いから危ないよ? いつ向こうが攻めてくるか分かんないんだしさ」


 ここで言う国境とは、両国を隔てるクストエ山脈の切れ目とも言うべき場所。険しい山脈の一部に大昔に山を切り出して造った、なだらかな道路が存在する。古くは二つの地域を繋ぐ交易路として発達していたが、ファーリーンとリムソーンの対立が激化してからは、両国が約1kmの間隔をおいて関所を建設し、今も睨み合いが続いている。その関所の間の1kmはまさに死へのデスロードと化しており、野生動物でさえも危険を察知して近づくことは無い。


 大軍をまともに送れる経路がここしかないので、それがそのまま戦争の長期化に繋がっていた。実際のところは冷戦とも言うべき、お互いに牽制することしか出来ない状態であるが。


「大丈夫だよ。これからしばらく冬が来るんだし。ファーリーンの奴らもそう簡単に攻めてこれないって」


 大男は笑いながら楽観的な考えを言う。しかし、周囲の人は誰もその考えに異を唱えなかった。だってその通りなのだから。これから水や食料、ひいては鼻水や小便さえも凍るような季節がやってくるのだ。そんな時に大軍を動かして攻め込むなんて馬鹿げている。自分達は慣れているからいいが、温暖なところで育った奴らにはその寒さはとても耐えられるものではないだろう。

 これが一般的なリムソーンの人々の考えであった。


「あんたらの言うとおりだなー おらももう少ししたら別のとこ言ってみっか」

「ちょっと、それじゃあウチの商売あがったりじゃないの」


 男達が同調すると、それに合わせて抗議する女将。こうなることが分かっていただけに、二人は苦笑いするしかない。


「それじゃあ、短い間だけどお世話になりました」

「女将さん、飯旨かったぜ! またな!」


 大男と細めの男はそう言って宿を出る。町の入り口には念のための警備兵の駐在所があったが、二人が事情を話すと兵も残念そうな顔をしながら道を通してくれた。彼もまたこの二人の勇敢な姿を見ていたためにすっかり信用しきっていたのであった。最後に二人の姿を見送りながら「炭鉱の運行が再開されたらまたこいよ」と別れの挨拶まで貰う。赤髪の大男は「おう、その時が来たらまた来るぜ!」と言って腕を上げて答えた。


 駐在所から離れて東側の山道に差し掛かったところで二人の顔つきが変わる。


「その時が来たら… か」

「僕はその時が来てもあまり顔合わせしたくないですね。良い人だと思っていた人に裏切られた時の気持ちなんて考えたくも無いですよ」


 この二人… ガラムとツォンはとりあえず自分たちの仕事が首尾よく運んだので肩の力が抜け、ゆったりと山道を歩いていた。

 後は自分たちの国まで無事帰るのみ。


「こっちだよ!」


 山道に入って、町の方角から完全に人目につかない所まで来ると、すぐに脇道からウマに乗った褐色肌の女性が現れる。


「おう、エドナ。時間もばっちりだな。へへ、二人仲好く国まで相乗りと行こうぜ」


 ガラムは早速エドナのウマに乗ろうと手をかけるが、彼女はその手をぴしゃりと叩いて、蠅で追い払うかのように手を振り「あっち行け」のジェスチャーをする。


「駄目だよガラム。あんたはあっち。そんなぶっとい体乗せたらウマがへばっちまうだろ?」

「んだよ、つれねぇなぁ。あっちって… ん?」


 ガラムはエドナに軽くあしらわれるが、これもいつもの事であった。あまり期待していないながらも、反対側から出てきたウマの方に視線を向ける。


「っておいおいおいおい! 何でウェルチがこんなとこいんだよ!?」


 ガラムとツォンは国までの出迎えに二人来るとだけ聞かされていて、一方は腕っ節が強く一人でもそれなりに立ち回れるエドナだとは知っていたが、もう一方はエドナが適当に見込んだ人間、というか兵士を連れて来ると言うことしか聞いていなかった。

 これは、もし内通者が国内にいた場合にこの潜入作戦のことをギリギリまで知られないようにするためである。


 旋風の騎士団の連中は裏切ることはまず無いが、城の兵士はあまり信用してはならない。隊長のエディオを含めた騎士団の面々は少なからずともそう思っている。そう心構えるように言われている。諜報活動にも関わってくる部隊なので当然である。だから人数も最小限。国側、そして隊長が信頼のおける者しか隊におかない。


 今回の任務はそれぞれの隊員が、別々の日にリムソーンに潜入する手はずになっていた。最初の一人はこの作戦の一ヶ月前には既に潜入している。

 余談だが、ガラムとツォンが仕掛けた爆薬を爆発させる前に彼が既に炭鉱が掘りつくされて閉鎖された第1、第2坑道で先に大きな爆発を起こしている。防音装置も前もって張っていたため、その時の音や揺れも他の坑道や町に住む者にはちょっとした地震にしか感じない。そもそも町にいるのが地震を実際に体験したことのない者ばかりなのでなおさらである。これによって炭鉱の落盤も地震によるものと人々に一時的に錯覚させることが出来たのだ。


 その後、エディオ、ガラムとツォンと別ルートから入り、その一週間後にエドナ達が最も安全な北の中立国ヴィルクン経由ルートで堂々と入国した。荷物は食料と護身用の短剣程度、二人とも女性でおまけに片方は子供と来ているから、驚くほどすんなりと入国審査をパスした。ちなみに入国許可証は騎士団の最後の一人、証明書偽造のスペシャリストに作って貰ったものである。


 話を戻すが、つまりのところガラムとツォンは自分たちの出迎えに、騎士団のただの使用人に過ぎないウェルチが来るなんて思ってもみなかったのである。彼女は行きたいとか抜かすだろうな、という考えは一応頭の片隅にはあった。だが実際にエドナが許して連れてくるとは本当に思ってもみなかった。


「私も行くって言いだして聞かなくてねー 城にちょうどよさような男もいなかったし一番信用おける奴ってことで連れて来たわけよ」

「…ちゃんとノーマさんの許可は取ったんですか?」

「いや… その…」


 ウェルチは何やら口をもごもごさせているがよく聞き取れない。だが、男達には意味は十二分に伝わる。


「でしょうねぇ…」

「大目玉確定じゃねぇか」


二人、いやエドナを入れて三人はこの娘の国に帰った後の安否を心配するのであった。説教の時間は? 罰は? どうなることやら。


(後で賭けようぜ)

(あなたって人は… いや、乗りますけどね)


「あの~ 私のことはいいんで、そろそろ行かないと不味いんじゃないんですか?」


 そんな様子を見ていたウェルチが至極真っ当な意見を言い、男達の会話が止まる。


「そ、そうだな!(おいおい、ウェルチにまともに注意されたぞ)」

「とっとと、ここを抜けないと後々面倒ですからね(いや~ 迂闊でしたね)」


 ガラムはウェルチのウマに、ツォンはエドナのウマにそれぞれ乗り、針葉樹に囲まれた細い山道を一気に駆け抜ける。自分達に続いてあの町を出るものが表れて、一緒に行くとか言われでもしたら後々面倒だ。この山道はすぐにでも抜け出したい。

 エドナとウェルチは途中で会った山賊たちがまだ道に転がってないか少し心配していたが、どうやらあの後山賊仲間が片付けてくれたようで、小道には障害物一つ無かった。流石にこの時は全員が真剣な表情になっていたので、道中では誰も口を開かなかった。寧ろ声が聞こえないくらいウマを飛ばしていたというのもあるが。


 空が赤みがかってきた頃、四人は山を抜け農村地帯に差し掛かっていた。これから冬が始まるので、畑の作物はほとんど刈り取られた後であり、今でも栽培されているのは寒さに強い大麦と、雑穀が少々といったところである。周囲に人影はほとんど見られない。この時期だと早々に野良仕事を切り上げて、家に入って夕食でも取っているのだろうか。たまに通り過ぎる人々に軽く会釈しながらも、一行は農村地帯を進んでいく。


 これまでほとんど会話の無かった一行であるがここに来てようやくガラムが口を開く。


「なぁ、そろそろ休憩しねぇか? ウマもだいぶ疲れてきてるみたいだしさ」

「そうだね、もう少し行ったところに人気の少ない溜め池があるから、そこで一旦夕食にしようか」


 エドナの提案を受け、大通りから外れた民家から少し離れた大きな溜め池に向かう。この溜め池は大昔にこの辺り一帯を開拓するときに作られたものだ。池は大きく深いので、子供はこの付近で遊ばないようにと看板も立てられている。


「こんな看板があると余計遊びたくなっちまうよな。よいせっと」


 ガラムは少年時代の自分の事を思い出しつつ、ウマから降り荷物を下す。ウマもやっと重い荷物から解放されたと言わんばかりに首を震わせ、二頭とも溜め池の方へ直行する。


「あの水飲めんの?」

「ウマは大丈夫さ。人だと腹を壊すだろうけどね」


 一行は太陽が完全に落ちる前の夕食となった。夕食と言っても内容は全て保存食。ビスケット、干し肉、ドライフルーツ、あと水。


「何か味気ねー食事だな… 農家から何か貰ってこようか?」

「駄目ですよガラム、ここまで来たら目立った行動は避けないと」

「あんたらは炭鉱街の宿に泊まってたんだろ? まともな飯は食えてたんだからこれくらい

我慢しときな。アタシらはずっとこれだったんだから」


「なぁ、ウェルチ?」とエドナは続け、ウェルチも干し肉を齧りながら小さく頷く。


「炭鉱のとこの飯は正直イマイチだったんだよ。味付けが妙に濃いっつーか。あーあ、ノーマさんの手料理が恋しいぜ」

「そりゃ贅沢言いすぎだよ。あの人の作る料理より旨いものはそうそうないって」


 一行はそのまま黙々と食事を続ける。これが暖かいご飯なら、会話も弾み一つの団らんとなるのだが… 保存食ばかりの簡素な食事となると、どうしても単なる栄養補給の作業に留まってしまう。いつの間にか咀嚼音だけが響く空間が出来あがってしまい、微妙に気まずい雰囲気が流れる。


「そ、そういえばエディオ様は? 一緒じゃないんですか?」


 ウェルチが微妙な間を破るかの如く話題を振る。心の中でナイス! と思いながらツォンは水で口の中を洗い流し答える。


「隊長は僕たちと別行動です。もう少し行ったところで合流できるはずですよ」

「実は私、この作戦についてあまり詳しく聞いてないんですけど… エディオ様の仕事って何ですか?」


 ウェルチはそう言うが、正直なところ隣にいたエドナも詳しくは概要を聞かされていなかった。それだけ彼のことを信用しているのではあるが。


「んー まぁ人目も無いし、別に言っても構わねぇか。隊長さんの仕事はあの町の領主を殺すことだ。つーかぶっちゃけ、俺たちの炭鉱の爆破は単なる囮ってわけさ」

「何でそんなこと… 炭鉱を封じてしまえば、相手側に経済的打撃を与えることが出来るのは解かりますけど、どうしてあの町の領主まで? 確かリムソーンの炭鉱って国営ですよね。領主さんをその、殺害したとしてもまた新しい人が来るんじゃないんですか? それに二人が爆破したって相手側にばれる可能性だって…」


 ウェルチは自分の疑問を一つ一つ挙げていく。彼女なりに色々考えていたのに三人とも内心驚いていたが、やがてツォンが詳しく説明する


「確かに、素人にしてはいい所を突いています。でもしかし先程ガラムが言った通り炭鉱云々の話は全ておまけなんですよ。人の手で爆破したしたことがいずればれるのも計算のうち。気づかずにあの炭田が営業停止になってくれれば、まぁそれはそれでいいんですけど」


 素人、という言葉に若干ウェルチはむっとしたが、それならば今回の作戦の本当の目的は何かと尋ねる。それと領主の殺害がどうつながるのか。


 それは… 言いかけた所でツォンは何かに気づいたような様子を見せ、言葉を止める。ウェルチがきょとんとしていると、ツォンは少し笑いながら後ろを指差す。


「え、エディオ様!?」

「あら? 随分とお早い合流だね?」

「ああ、思ったより早く片が付いた」



 そう言ってエディオはウマを降りてフードを取ると、肩まで伸びた青い長髪と、戦う者の顔とは思えないほどの端正な顔立ちが露わになる。その清々しさは、とても数時間前に人を殺した人間の顔には見えない。


「ウェルチ」

「は、はい!」


 エディオと目が合い、ウェルチの体は緊張と恐怖でがちがちに固まる。普段から騎士団の館で顔を会わせているにも関わらず、この時ばかりはウェルチの心臓が引っ切り無しに悲鳴を上げていた。ガラムもツォンもウェルチがここに来るとは知らなかった、と言うことは彼らよりも先に国を出たエディオは言わずもがな。

 ウェルチは今からどんな説教を受けるのかと、目を合わせつつも気が気でなかった。


「詳しい話は歩きながらしよう。お前たち、もう飯は終わったのか?」

「もう出発ですかい?」

「ああ、時間が惜しいからな。あ、干し肉を一つ俺にもくれ」


 エディオはそう言うと食料の入った袋から大きめの干し肉を一つ取って口にくわえながら再びウマに乗る。ガラム達もいそいそと片づけを始め、荷物をウマに積み始める。ウェルチはその場に立ちつくしていたが、ガラムに軽く頭を小突かれて我に帰り慌ててウマに乗った。そして日が暮れぬうちに一行は農村地帯を出発した。


「隊長」

「どうした?」

「彼女のこと… いいんですか?」


 ツォンがエディオのウマに近づき尋ねる。普段からエディオがウェルチを戦場に出したくないという考えを聞いていただけに、先程の対応に少し疑問を持ったのだ。


「ああ、アイツが来ることは大体予想が付いていた。下手に止めても無駄だからあえて放っておいたんだ」

「うわー」

「ってことはアタシの考え方も全てお見通しってわけかい。勘弁してくれよ」

「まぁ過ぎたことは仕方ない。今更俺が叱るのもなんだし、説教はノーマに一任することにする」

「…ご愁傷さま、ウェルチ」

「ご愁傷さま」


 ツォンとエドナは二人して祈る。この一見飄々とした対応もこの隊長の個性の一つだ。だが、話を終えると彼は固くは無いが真剣な表情になっていた。


 今の話は後ろの当人には聞こえていない。早朝からずっと歩きずくめだったので、よぼど疲れたのか、それとも説教されると思っていたのに拍子抜けして緊張が解けたのか、ウマの上でウトウトしている。勘弁してくれと言わんばかりに、ガラムが時折ウマの上からずり落ちそうになるウェルチをフォローする。


 ―国境まであと70km。


5話目にしてようやくもう一人の主人公エディオの登場です。


私はイケメンチートキャラはあまり好きではないので、意外に登場シーンがあっさりしてしまいました。(エディオはチートってほどでもありませんが)


正直ガラムやエドナとかのほうが書いてて楽しいですw


あと今更ですが主人公はウェルチです、はい。

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