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ファンタジー小説だった気がします

勇者パーティーから聖女の私が追放されたら、パーティーは勇者一人になりました

作者: 堀吉 蔵人
掲載日:2026/06/27

 

「聖女エリアナ。お前は今日で勇者パーティーを抜けてもらう」


 魔王城へ続く黒森の入口で、勇者レオンは高らかにそう言った。


 私は少しだけ考えてから、持っていた治癒杖を下ろした。


「承知しました」


「……え?」


 勇者様が、なぜか驚いた顔をした。


 追放すると言ったのは、そちらなのに。


「いや、待て。もっと取り乱すところだろう。泣いて許しを請うとか、考え直してくださいと言うとか」


「必要ありませんので」


「必要ない?」


「はい。追放されるのでしたら、私はパーティーを離脱いたします」


 私は荷物袋から自分の水筒と薬草包みを取り出した。聖印のついた予備の外套も畳む。勇者パーティー共有の物資と、私物はきっちり分けてある。


 三年も旅をしていれば、こういう整理は早くなる。


 勇者様は口を開けたまま、私を見ていた。


 隣に立つ新入りの癒し手、ミレーユ様が小さく笑う。


「エリアナ様、強がらなくてもいいんですよ。回復しかできない聖女なんて、勇者様にはもう必要ないんですから」


「そうですね。では、あとはお願いいたします」


「えっ」


 なぜそこで驚くのか。


 私は魔法使いのルシアへ向き直った。


「ルシア様。いままでありがとうございました」


「いいえ。こちらこそ」


 ルシアは涼しい顔で杖を抱え直した。


「では、私も抜けます」


 勇者様が振り向いた。


「は?」


「聖女様がいない黒森に入るほど、私は命知らずではありません」


「おい、ルシア。お前は宮廷魔導士だろう。毒霧くらい魔法でどうにかできるはずだ」


「できますよ。一回だけなら」


 ルシアは淡々と言った。


「ただし二回目で魔力が尽きます。これまで連戦できていたのは、エリアナ様が私の魔力循環を整えてくださっていたからです」


「そんなもの、聞いていないぞ」


「勇者様が聞かなかっただけです」


 戦士ガルドが大剣を肩に担いだ。


「じゃあ、俺も抜ける」


「ガルド!」


「俺の呪傷を押さえていたのも聖女様だ。あんた、知らなかったのか?」


 勇者様は私を見る。


 私は微笑んだ。


「ご説明はいたしました。三回ほど」


「聞いていない!」


「三回とも、勇者様は『細かい話はいい』とおっしゃいました」


 斥候のニコが、腰の短剣を外した。


「僕も抜けます」


「お前まで!」


「黒森の罠は、半分以上が瘴気式です。聖女様の浄化なしで先行偵察なんて、死ねと言われているようなものですから」


 荷運び兼料理番のトマも、背負子を下ろした。


「俺も帰ります」


「トマ、お前は戦闘員ですらないだろう!」


「だからこそ帰るんですよ。聖女様の保存祈祷なしで、この食料は三日で腐ります。あと、勇者様は野草と毒草の見分けがつきません」


 勇者様の顔が、だんだん青くなっていった。


 私は自分の荷物をまとめ終え、最後に勇者様へ頭を下げた。


「では、レオン様。どうぞご武運を」


「待て、待て待て待て!」


 勇者様は両手を広げた。


「おかしいだろう! なぜ全員抜ける!」


 ルシアが首を傾げた。


「聖女様を追放するからでは?」


「エリアナは回復しかできないんだぞ!」


「その回復がないと、勇者様は昨日の狼の爪傷で発熱しています」


 ガルドが言った。


「あと、聖剣の光が弱くなってるぞ」


 勇者様は慌てて腰の聖剣を抜いた。


 昨日までまばゆく輝いていた白銀の剣は、今はなんとも地味な鉄色をしていた。


「な、なぜだ」


「毎朝、私が祝福しておりましたので」


 私は答えた。


「勇者様は『朝からぶつぶつ祈るな、気が滅入る』とおっしゃっていましたが」


 勇者様は絶句した。


 ミレーユ様が慌てて一歩前へ出る。


「で、でも! 私だって癒しの魔法は使えます!」


「はい。お任せいたします」


「え、あ、でも、聖剣の祝福とか、瘴気浄化とか、魔力循環とかは……」


「聖女認定を受けていない癒し手には、難しいかと」


「そんなの聞いてません!」


「私も今、追放を聞いたところです」


 ニコが小さく吹き出した。


 勇者様はミレーユ様を見て、私を見て、抜けていく仲間たちを見た。


「勇者パーティーはどうなるんだ」


 誰も答えなかった。


 仕方なく、私が答えた。


「勇者様がお一人で続ければよろしいのではないでしょうか」


「そんなことができるわけないだろう!」


「では、追放を撤回されますか?」


 勇者様の顔に、ほんの少し希望が戻った。


「そ、そうだ。撤回してやる。エリアナ、お前は今まで通り俺のために――」


「お断りします」


 私はきっぱり言った。


「なぜだ!」


「一度追放された者が、なぜそのまま戻ると思われたのですか?」


 勇者様は言葉を失った。


 私は治癒杖を抱え直す。


 もう黒森へ入る必要はない。魔王城へ続く道も、勇者様の背中も、私が祈りで支える必要はない。


 不思議なほど、肩が軽かった。


 ルシアが私の隣に並ぶ。


 ガルドも、ニコも、トマも続いた。


 ミレーユ様は少し迷ってから、勇者様の隣に残った。けれど、その顔はすでに泣きそうだった。


「エリアナ!」


 背中に、勇者様の声が飛んでくる。


「俺は勇者だぞ!」


 私は振り返らなかった。


 勇者であることと、人を雑に扱っていいことは、少しも同じではない。


 黒森の風が、私の白い外套を揺らす。


 勇者パーティーから聖女の私が追放された日。


 その日、勇者パーティーは勇者様一人になった。


 そして私たちは、初めてまともな相談ができる仲間だけで、新しい旅を始めることにした。


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― 新着の感想 ―
ミレーユが残っているなら勇者一人ではないのでは…?
忠告は聞かない、勇者ってだけで自分の思い通りになると思ってる、気にくわなければ追放 そりゃ抜けるし、戻らないでしょと思います 面白かったです
どんな旅に出るのかな~ヾ(≧∀≦*)ノワクワク……
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