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コミュ障、異世界転生で存在消失す ~透明人間はスローなライフも思いのままでした~  作者: 好きな言葉はタナボタ


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第98話 安全地帯

ガンッという硬質の音はアリスにだけ聞こえた。 アリスが腰から下げる剣のミスリル製の鞘にゴーリキ軍曹の振るう剣が激突する音である。


床の上をゴロゴロと転がったアリスは壁際で止まり、床に手を付いて立ち上がる。


(痛かったー、なんやったん今の?)


アリスは自分がさっきまでしがみついていたロープのほうへ振り向き、事態を把握した。 部屋に飛び込んで来た兵士に斬り付けられたのだ。


(あの人の攻撃が私の剣に当たったんか。 腰と太ももがむっちゃ痛い。 ぜったい打ち身になってるわ。 剣の鞘に当たってなかったら、わたし死んでた。 軍は私を《支配》したいんちゃうん?)


アリスはファントムさんが不死身であることをまだ知らない。 エリカと違いアリスは、この異世界に来てからまだ一度も死んでいないし、怪我らしい怪我をしたこともなかった。


                 ◇❖◇


剣の刃を点検していたゴーリキ軍曹がセコイヤ大尉に告げる。


「大尉、私の剣はヒロサセの体を斬れていません」


「なんだと?」


「この剣を見てください」


ゴーリキ軍曹の主張を理解したセコイヤ大尉は新たな指示を出す。


「パナソン、ボイッシュ、この部屋のドアを閉めてドアを守れ。 ヒロサセの逃亡を封じるんだ」


セコイヤ大尉に指名された二人の隊員は直ちにハンカチをポケットにしまい、ドアを閉めてその前に陣取った。


アリスは6人の軍人と共にこの部屋に閉じ込められてしまった。 だが、この時点で彼女に危機感はなく、ドアを守る二人の隊員をわりと呑気に眺めていた。


しかし、セコイヤ大尉の次の命令でアリスは自分の危機的な状況に気付くことになる。


「よし剣を抜け。 闇雲でいいから振り回し続けろ。 いつかヒロサセの体に当たるだろう」


隊員たちはセコイヤ大尉の指示に疑問を抱く。 すでにヒロサセは小部屋から逃げているのでは? だが彼らは大尉の有能さを信頼していたので、異議を唱えず命令を実行し始めた。


「メカジキ少尉、貴官はやらなくていい。 何しろ君の剣の腕は―― いや、《支配》の呪文のために体力を温存しておいてくれ」


                 ◇❖◇


小部屋の中で盲滅法めくらめっぽうに剣を振り回す3人の軍人。 ドアを守る二人とメカジキ少尉を除く3人である。 その3人で6畳間ほどの広さしかない小部屋の隅々までカバーするように剣を振り回すから、アリスが安心してたたずめる場所はどこにも無い。


(ピンチや、どうしよう)


追い詰められたアリスは安全地帯を求めて小部屋を見回し、手頃なスポットを見つけた。


(あった。 あそこに隠れよう)


アリスはメカジキ少尉の背後に飛び込み、彼の背中の布地を鷲掴みにしてしがみつく。 そうされてもメカジキ少尉は気付かない。


セコイヤ大尉を始めとする3人は1分間ほど闇雲に剣を振り続けたのちハンカチ・チェックを実施。 アリスの体が床に落ちていないかとハンカチを床に落としては拾い、また落とす。 しかし床中をくまなく探してもアリスは見当たらない。 彼女はずっとメカジキ少尉の背後にへばりついていた。


「大尉、ヒロサセはもうこの部屋には居ないのでは?」


ゴーリキ軍曹が皆の気持ちを言語化するが、セコイヤ大尉は聞き入れない。


「諦めるな。 この部屋には、まだ我々が一度も切っていない空間がある」


そう言ってセコイヤ大尉はメカジキ少尉に目を向ける。 大尉の視線に少尉は少したじろぎつつ尋ねる。


「そ、その空間とは?」


「その空間とはな――」


言いながら大尉はメカジキ少尉の横手に回る。


「お前の後ろだ!」


叫ぶや否や背後の空間を目がけて剣を振るう。 ドンピシャでアリスがいる場所だ。


(きゃあっ!)


メカジキ少尉の背中に隠れるアリスは彼の軍服の背中の布地をいっそう強く握りしめ、それによってメカジキの体の位置がズレた。 大尉はメカジキ少尉の位置の変化に気付いて剣の軌道を修正したが、剣を御しきれず少尉の肩を浅く切り裂いてしまった。


セコイヤ大尉は苛立たしげに怒鳴る。


「なにやってんだメカジキ! 動くなよな!」


怒鳴られた少尉は「体が勝手に動いた」と抗議しようとして出来なかった。 セコイヤ大尉の剣にタップリと塗られていた麻痺薬が早々と効果を発揮し彼の口を麻痺させていた。


セコイヤ大尉は1つ舌打ちをして気持ちを切り替えると、どこからかケータイを取り出して誰かと連絡を取り始めた。


「増援をよこしてくれ。 大至急だ」


                 ◇❖◇


麻痺して立っていられなくなったメカジキ少尉の体重がアリスにかかり始める。 重さを(いと)うアリスがメカジキの背後の空間から退くと、彼の体は床に倒れ込んでてしまった。 ズシーン。


「麻痺しやがったか。 肩の傷も治療しなきゃならんし... ヤラハタ、メカジキ少尉を庁舎まで連れ帰ってやれ。 パナソン、ボイッシュ、ドアを開けろ」


(やった、ドアが開く!)


アリスは脱出の希望を膨らませたが、せっかく膨らんだ希望は大尉の次の言葉で(しぼ)んでしまう。


「ヒロサセに逃げられんように注意しろ。 足元の隙間に気を付けるんだ」


                 ◇❖◇


パナソンとボイッシュは大尉の指示を忠実に守り、ヤラハタがメカジキ少尉を部屋の外に連れ出すときにもアリスが通れそうな隙間はできなかった。


アリスが持つミスリルの剣で兵士を切り倒せば脱出は可能だが、剣で人を斬るという発想がアリスにはついぞ浮かばず仕舞いであった。

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