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コミュ障、異世界転生で存在消失す ~透明人間はスローなライフも思いのままでした~  作者: 好きな言葉はタナボタ


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第92話 馬車を求めて

玄関に残ったシバー少尉は、ケータイを取り出し大佐に連絡した。


「もしもし、シバーです...」


こと次第しだいを聞いて大佐は驚いた。


「サワラジリがマベルスを攻撃した!? 《支配》が解けたというのか?」


「そのようです。 マベルス中尉の命令はサワラジリ中尉に強制力が無いようでした。 マベルス中尉が口答えを禁止しても効きませんでした」


「むう、とにかく人をやってマベルスを回収させよう。 緊急会議を開く。 お前も軍庁舎に戻ってこい。 大至急だ。 できればサワラジリに見つからんようにな」


                 ◇❖◇❖◇


リビングへ戻ったエリカはソファーに座って、今しがたの出来事を反芻(はんすう)していた。


(《支配》が解けたってことでいいのよね? )


まるで夢みたいだが、マベルス中尉をビンタした右の手の平はまだジンジンしている。


(けっきょく自殺で《支配》が解けたのかな? 自殺の効果が出るまでにタイムラグがあった?)


エリカは《支配》されていた一ヶ月を思い返し、ほうっと溜め息をついた。


(とうとう... とうとう《支配》から解放されたのね。 この一ヶ月間、ストレスばかりだった...)


エリカはすぐに今後について考え始める。 《支配》が解けたとはいえ、いま彼女は軍と抗争中の身の上だ。


(とりあえず軍を懲らしめないと。 二度と妙な真似をさせないためにも)


エリカが不死身であること、そして自殺により《支配》から逃れたことをマベルス中尉とシバー少尉に知られてしまっている。 今度また軍に《支配》されれば、自殺を「命令」により封じられ、不死身を前提とする過酷な任務を与えられる。 軍をきっちりと脅しておくのは必須である。


(でも、あの大佐のことだから脅すだけじゃ効果が無いかも...)


エリカの脳裏にガブリュー大佐の理知的で冷徹な面差しが浮かぶ。 残酷ではないが無慈悲な、油断のならない相手である。


ガブリュー大佐を思い浮かべるうちに、エリカは胸がざわめく出すのを感じた。


(あっ、なんだか妙な気分)


妙な気分と言っても決してトキメキなどではない。 あんな白髪の銀縁メガネにエリカが恋心を抱くはずがない。 もっと不自然な感覚である。 そう、ここ一ヶ月間ほどずっと感じていた――


エリカは胸のざわめきを無視して思考に集中する。


(とにかく、大佐は脅しても効果がなさそう。 あいつにはファントムさんの威光も通じないし。 となると、やっぱり大佐は殺――)


そう考えかけた途端である。 大佐に危害を加えるのを拒否する気持ちがエリカの心に飛来した。


(そんなことできない!)


「軍の関係者に危害を加えてはならない」という基本ルールが発動した。 解けたはずの《支配》が解けていなかった!


                  ◇❖◇


再び襲い来る悪夢。 エリカの胸がドクリと不安の鼓動を鳴らす。


(そんな! 《支配》は解けたんじゃなかったの? さっきは確実に《支配》が解けてた。 だってマベルスを攻撃できた)


エリカは《支配》の有無を確認すべく家から出ようとすることにした。 せかせかと廊下を渡って玄関へ行き、ドアノブをくるりと回転させて、ドアを開く。 ガチャリ。 はい、出れない。 無断外出を禁じる「命令」がエリカの足を前へ進ませないのだ。


(ああ、どうしよう......)


エリカの《支配》が残っていると発覚すれば、大佐がエリカの再支配を企むのは必定。 《支配》の運用も厳しくなる。


ちからなくリビングに戻りソファーに突っ伏したエリカは、必死で状況の整理を試みる。


(落ち着きなさい、エリカ。 落ち着くのよ。 まず、さっき《支配》が解けていたのは確実。 なんてったってマベルスを殴れたんだから)


マベルス中尉を殴れたという事実が、今のエリカの心の支えだ。


(そして、それにはきっと自殺が関係してる。 だって、これまで大佐やメカジキを殴れたことなんてなかった。 自殺のおかげで《支配》が解けかけてるのは間違いないはず)


(――たぶん今の私は《支配》がオフになったりオンに戻ったり。 とすれば問題は、そのオン/オフが切り替わるきっかけ......)


エリカはさっき心がざわめいた前後の状況を思い起こす。 そうするうちに思い出した。 前にも一度、同種の胸のざわめきを感じたことがあったと。


(あれは... そう、マベルス中尉を殴る前、自殺して《支配》が解けてなくてガッカリしてから家に戻って来るまでの間......)


あれはいつのことだったか? それを特定しようとエリカは記憶を振り絞り、頭から逃れそうな一瞬の記憶のイメージを捉えるのに成功した。


(思い出した! 自殺後に《支配》が解けてなくてガッカリして、そのあと長いことボーっとしてて、いつのまにか外出の自由時間を過ぎてて。 最初は時間を過ぎてるのを気にしてなかったのに、突然「早く家に帰らないと」って焦燥感に駆られたあのとき。 あのときにも胸のざわめきがあった)


                  ◇❖◇


《支配》がオフからオンに戻った2つの状況の共通点から、エリカは《支配》のオン/オフを左右する要因に目ぼしを付けた。


(不安感で支配》のオン/オフが切り替わるのかも。 ガブリュー大佐を思い浮かべてスイッチがオンになったのは、あの男が私の不安をかきたてる存在だから)


不安感だけでオン/オフが切り替わるのでもなさそうだが、エリカの精神状態がスイッチになっているとは言えそうである。


この仮説に基づいて心の持ち方を試行錯誤した末、エリカは《支配》がオフとなる精神状態にどうにか到達できた。


「よし! とりあえず《支配》をオフにできた」


だが現在は小康状態。 エリカの心が動揺すれば《支配》はオンに戻ってしまう。 外出中にオンに戻れば一目散に家に戻ることになるし、オンに戻っているときに軍の人間に出くわして「命令」されれば逆らえない。


(《支配》を完全に解除するには... やっぱりまた自殺かな...)


エリカは馬車を求めて家を出た。

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