第8話 「犯罪に手を染めずに生きるには、もっと蓄えが欲しいわね」
「さあ今日もお仕事をがんばろう」
たっぷりと眠ったエリカは元気だった。 そして勤労意欲に溢れていた。 前世で彼女が引きこもりだったのは、働くのが嫌だからではなく対人関係が嫌だからだった。 まったく誰とも顔を合わせず作業を完了できるモンスター退治は、そういう意味では彼女の天職であった。
宿を出た彼女は、朝食のコロッケパンを食べながら町の外へと向かった。 昨日いちど通ったから大体の方角はわかる。 背中に背負うは先ほど4千ゴールドで買ったナップサック。 中には食べ物と水が入っている。
「所持金の残りは1万ゴールドか。 犯罪に手を染めずに生きるには、もっと蓄えが欲しいわね。 ラットリング10匹で5万ゴールド、20匹で10万ゴールド」
皮算用を続けながらテクテクと歩くうちに、エリカは町の門を通過して町の外へ出た。 今日は1人である。 どこにラットリングがいるのやら見当も付かない。
「どっちに行こうかな。昨日は北に行ったから今日は南へ行ってみよう」
エリカは草むらをかきわけて南へ歩き出した。
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しばらく進むと戦闘音が聞こえてきた。
「私の力が必要かしら?」
親切チャンスを予感してエリカは足を早める。 しかし現場に到着してガッカリ。 ラットリング5匹に対してハンターが4人だったのだ。 これでは助けるどころか獲物の横取りになってしまう。 エリカは戦闘の場を迂回して先へ進んだ。
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さらにしばらく南に進んで、エリカは手つかずのラットリングの群れを発見した。
「いたいた、私の獲物」
群れの数は13匹。 エリカは恐れ気もなく至近まで近づき、銀色に光るミスリルの長剣を鞘から抜く。 手近なラットリング目がけて袈裟懸けに斬りつけるとラットリングの肉体は簡単に切断され、切断面から金色の霧を吐き出す。
軽い剣で軽く斬り付けただけでこうなのである。 剣で突くのみだった前回の狩りでは分かからなかったが、ミスリルの剣は途方もない切れ味を秘めていた。
「刃で触れるだけで切れちゃう感じね。 取り扱いに気を付けないと」
ラットリングたちは「ギュウギュウ」「ギュルリ」などと騒ぎ出した。 それはそうだろう。 仲間の体がいきなり血を吹き出して2つに分かれてしまったのだから。 しかしラットリングには何が起こっているのか見当も付かない。 嗅覚の鋭いラットリングが、臭いでエリカの存在を感知できずにいる。 エリカは視覚や聴覚だけでなく嗅覚においても知覚の範囲外にあるのだ。
エリカはラットリング集団の外側にいる個体から次々と血祭りにあげていった。 動きを止めているラットリングを選んでは、隙だらけの背中に剣を突き刺し、無防備な首を剣で刎ねる。 実に簡単なお仕事だった。
この戦いでもエリカは金色の霧をかなり体に取り込んでしまったが、彼女はもうあまり気にしていなかった。 昨日から今日にかけて体調が悪いということはなかったし、他のハンターたちも金色の霧を吸収しているわけだし。
「13匹で3万9千ゴールド。 まだ時間も早いし、狩りを続けよう」




