第70話 トンカツ屋さん
ハンター協会まで来たエリカが窓口でベルを鳴らすと、ビマルトが即座に反応する。
「おやっ、そのベルの音はエリカさん。 塔はどうでした? エテルニウムの剣は? 金属モンスターは?」
《伝心》の効果はまだ続いており、エリカは思念で答える。
『残念ながら剣はなかったわ。 だから金属モンスターも退治できませんでした』
「これは...... まさか《伝心》?」
『塔でスクロールを入手したの』
「奥の部屋に行きましょうか。 スクロールのことも含め、詳しい報告を聞かせてください」
そう言ってビマルトはエリカを奥の部屋へ連れて行った。
◇❖◇
『――でね、そういうわけなの』
エリカは、塔での出来事をかくかくしかじかと報告し終えた。
「なるほど。 塔は謎の女性の自宅で、金属モンスターは防犯用の魔道具だったと」
『そうなの』
ビマルトは難しい顔をする。
「目新しい情報ではありますが...... これだけで依頼の掲示を差し止められるかどうかは微妙ですね」
『そうなの?』
「"塔が自宅だ" とは謎の女性の主張でしかありません。 依頼人に依頼の掲示を強硬に主張されると断りにくいです」
『エテルニウムの剣は無かったのよ? 依頼人がウソつきってことじゃない』
「エテルニウムの剣が無いというのも、女性の主張に過ぎないですよね?」
『塔に実際に住んでる人の言い分を信じなくて、いったい何を信じるのかしら?』
「客観的な証拠といいますか...... 『アーティファクト探索』の依頼が不純である証拠は見つかりました?」
そういえばビマルトは言っていた。 エテルニウムの剣が見つからない場合に、エリカが依頼が不純である証拠を見つけ出してくれば50万ゴールドの報酬を出すと。
『探してないわよ?』
「はい?」
『塔が女性の自宅なんだから、依頼が不純である証拠が塔にあるわけないでしょ? 悪いのは依頼人なのよ。 市会議員だっけ? 私が話を付けてきてあげるから名前を教えてちょうだい』
ビマルトは慌てて断る。
「いえっ、それには及びません。 大丈夫ですっ」
『何が大丈夫なのかしら?』
「いえ、エリカさんから頂いた情報でなんとかなるかもしれないので」
『そう?』
「ええ。 ご苦労さまでした。 それでは私はこれで失礼しますね」
そう言ってビマルトは逃げるように部屋から出て行った。
◇❖◇❖◇
その頃、シバー少尉はエリカの帰りを待っていた。 テーブルの上にはエリカの昼食が用意されている。
「エリカさん遅いなあ。 もうお昼を過ぎてるのに。 エリカさんの好物を作って待ってるのに」
だが、そのエリカの好物には痺れ薬が混入されている。 ついさっきガブリュー大佐に指示されたのだ。 麻痺薬をエリカに注射したりエリカの寝具に麻痺針を仕込んだりするよりも、食事に痺れ薬を盛るほうが確実だと大佐は考え直した。
「ハンター協会に報告に行くだけだから、そろそろ帰って来るはずだけど。 早く帰ってきてくれないとお料理が冷めちゃう。 この料理は冷めても美味しいんだけどね」
シバー少尉は「痺れ薬をエリカに盛りたい」という気持ちと同程度に「エリカに好物の料理を美味しく食べてもらいたい」という思いも持っていた。 美味しく食べて痺れてもらいたい、それが少尉の偽らざる気持ちであった。
◇❖◇❖◇
ハンター協会を出たエリカは商店街を歩くうちに思いついた。
「久しぶりに外でご馳走を食べようかしら。 過去3回の食事が携行食だったもんね」
まともな食事は昨日の朝にジビエの町で食べたきりだ。
「よし、そうしよう!」
エリカはトンカツ屋さんに入り、A定食とB定食を注文した。 2人前である。 時刻はもう午後1時近くで、エリカはとても空腹で、だから2人前を注文したのも何らおかしくない。 極めて自然である。
◇❖◇
「ふー、食った食った。 今日はもう晩ゴハンいらないなー」
携行食に飽きていたエリカの舌に、熱々のトンカツは大いなる喜びをもたらした。 揚げたてのトンカツにはドロリと重厚なソースがかかり、それを噛みしめるとジューシーな肉汁が溢れ出てソースと濃密なハーモにーを...... とにかく、とっても美味しかったわけだ。 ゴハンのお代わりが自由だったので、エリカはドンブリに3杯もゴハンを食べた。




