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コミュ障、異世界転生で存在消失す ~透明人間はスローなライフも思いのままでした~  作者: 好きな言葉はタナボタ


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第69話 「帰還」

ガーゴイルの塔を訪れた翌々日、エリカは西の街道からミザル市へ戻ってきた。 街道を進むにつれ町の外壁がはっきりと見えて来る。


「エテ剣はなかったしガーゴイルも倒せてないけど、新しい呪文を2つ覚えたし全くの無駄足でもなかったわね」


ミザル市の西門が見えるところまで来ると、男性が何かを数えていた。


「しーち、はーち、きゅー」


(あの人は1人で何をやってるんだろう?)


エリカは足を止め、男性の意味不明な行為に見入った。 数人のハンターも立ち止まって男性に奇異の目を向けている。


「あの人、さっきから何してんの?」


「さあ? 罰ゲームかも」


実はこの男性、アリスの戦闘講習の教官である。 いま彼は、基礎体力づくりの一環としてアリスに腕立て伏せをさせている。 むろん彼にはアリスが見えないから、アリスの腕立ての回数を数えているのではない。 教官の掛け声に合わせて腕立て伏せをしなさいということだ。 アリスが実際に腕立て伏せをしているかどうかは神のみぞ知る。


教官の頬は少し赤い。 通りすがるハンターたちに奇異の目で見られるのが恥ずかしいのだ。アリスの姿は誰にも見えないから、事情を知ってでもいない限り教官が1人で数をかぞえているようにしか見えない。


せめてフロスト中尉が傍にいれば何かのイベントと解釈される余地もあった。 だが中尉は無情にも25mほど離れた場所にしゃがみこみ、野に咲く花を観察中だ。 ときおりメモ帳に何かを書き込む仕草をしている。


アリスは教官の掛け声を聞き流しながら物憂げに考える。


(エリカさん、いつ帰って来るんやろなあ。 軍の人より先にアタシが会わなあかんのに)


ちょうどそのときエリカはアリスの背後3mの地点を歩いていたが、エリカとアリスはファントムさん。 互いの存在に気付くはずもなかった。


                 ◇❖◇❖◇


市内に入ったエリカは自宅に直行した。 ハンター協会に報告する前にシャワーを浴びて旅の汚れを落としたい。


鍵を開けて家に入ると、シバー少尉がリビングのソファーに寝転がって雑誌を読んでいた。


エリカがベルをチンと鳴らして帰宅を告げると、少尉は雑誌を閉じてキョロキョロと周囲を見回す。


「エリカさん? 戻ってきたんですね?」


チン。


「お帰りなさい。 依頼はどうでした?」


チチン。(まあまあね)


「そうですかー。 お疲れ様でした。 お茶を淹れて差し上げましょう」


エリカは浴室へ向かい、シバー少尉はソファーから立ち上がって台所へ向かう。


                  ◇❖◇


シャワーを浴び終えたエリカは台所へ行くが、そこにシバー少尉がいない。


(お茶を淹れてくれるって言ってたけど...?)


エリカが椅子に腰掛けてしばらくすると隣の部屋のドアを開けて少尉が出てきた。


「いよいよ今夜かー」


そうつぶやいた後で、シバー少尉はエリカがすでに台所にいることに気付いた。 台所に4脚ある椅子のうちの1つがエリカに座られて見えなくなっているのに気付いた。


「ぎょっ、エリカさん? も、もうお風呂から上がってたんですね」


チンーチチ。(シャワーだったから)


「すぐにコーヒーを淹れますから少し待ってて下さい」


                  ◇❖◇


コーヒーを飲んで一服したエリカはベルを鳴らす。


チッチ、チンチン。(ちょっと出かけて来るわね)


「えー、どうしてですか? いま帰ってきたところじゃないですかー。 おうちにいましょうよ」


チンチンチンチンチンチンチチンチチン(ハンター協会に用があるのよ)


「......パンサー協会に洋画あり?」


(ここまで複雑なメッセージは、さすがに無理か。 《伝心》の呪文の出番ね。 でもいつかきっと......)


エリカはベル技術の向上を心に誓いつつ、《伝心》の呪文を唱える。


「トキメキドキドキトルキリティス オトメノハートドキンチャン。 でんしんっ!」


そして改めてシバー少尉にメッセージを伝える。


『ハンター協会に依頼の結果を報告に行くの』


シバー少尉は驚いた。


「うわっ、ナニコレ!頭に声が響いてきたっ」


『《伝心》の呪文よ。 塔で覚えたの』


「《伝心》で語りかけられるの初めてです! エリカさんって、こんな声だったんですね」


《伝心》のターゲットに伝わるのは声ではなく思念。 しかし思念にも声と同じように個性があり、思念の個性には声の個性が反映される。 術者が自分の声のイメージで思念を思い浮かべるからだ。


『思ってた声と違うかな?』


「声があると思ってませんでした」


『あー、そうかもね』


「なんだかエリカさんに親しみが湧いちゃいました」


(もうすぐ出てってもらうんだけどね)


「そんなこと言わないでください。 仲良くしましょうよ」


(あー、また思念が漏れちゃった。 こんなことが続くと人嫌いが再発するかも)


「エリカさん人嫌いだったんですか?」


シバー少尉の何気ない問いにエリカは鋭く反応した。


『まあね。 そこは私のデリケートな部分だから触れないでくれる?』


「すいません」


少尉はエリカのこんなに冷たい声を初めて聞いた気がした。 厳密に言えば、これまで彼女はエリカの声を聞いたことがないし、いま脳裏に響いたのも思念であって声ではない。 しかしエリカの普段のベルの音から受ける印象はもっと柔らかい。


『じゃあ、私は出かけるから』


しゅんと項垂うなだれた少尉を後に残して、エリカは家を出た。

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