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コミュ障、異世界転生で存在消失す ~透明人間はスローなライフも思いのままでした~  作者: 好きな言葉はタナボタ


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第57話 商店街の寄り合い

商店街の寄り合いが開かれる日がやって来た。 今日の寄り合いでアリスが商店街の万引きGメンになれるかどうかが決まる。


午後5時半を過ぎたころ、エリカはアリスを寄り合いに連れて行くため外出しようとしていた。 寄り合いは午後7時からだが、アリスの家から寄り合いが開かれる公民館までアリスの足だと1時間近くかかる。


身支度を済ませて、テーブルの上に『外出します』と書き置きを残し、エリカはそそくさと家を出た。 シバー少尉が住み込むようになってからの数日間、それが外出時の習慣だ。


               ◇❖◇❖◇❖◇


シバー少尉がエリカの家に住み始めエリカが初めて外出するとき、シバー少尉は当然のようにエリカに付いて来ようとした。 が、エリカはそれを拒否した。


『無理よ。 私の居場所をどうやって把握するの? ずっとベルを鳴らし続けろっていうの?』


「いえ、この指輪を身に着けて頂ければエリカさんの居場所が私にわかるので」


エリカはシバー少尉がテーブルに置いた指輪を拾い上げ、手の平に載せて見る。 重くゴツい指輪で、デザインも洗練されていない。 指輪を着ける側ではなく着けさせる側の都合で作られた一品である。


『イヤよ、そんなフンコロガシの力作みたいな指輪』


「でも、上司に着けさせろって言われてて」


『なんなのその上司。 そいつの居場所を教えなさい。 文句の1つでも言わないと気が済まないわ』


「やめてくださいやめてください。 お願いです。 私が叱られちゃいます」


『とにかく指輪は着けない』


そう書いたノートをテーブルに叩きつけるように置くと、その拍子にテーブルの上の指輪がコロコロと転がり床に落ちてしまった。 カツーン。 コロコロ。


「あっ、指輪が」


シバー少尉は泣きそうな顔で床から指輪を拾い上げると、懐から出したスマホのような装置を操作する。 指輪が発する位置情報を表示する魔道具なのだろう。


「よかった壊れてないみたい」


ちょっぴり罪悪感を感じつつエリカは再び書く。


『とにかく、指輪は着けない』


「でも」


『イヤなものはイヤ』


「でも」


『なんであたしが軍の都合に合わせなきゃなんないわけ?』


「だって...」


そこでシバー少尉の動きが止まった。 片手に指輪を握りしめて、じっとうつむいている。


(ヤバイ、土下座されそうな気がする)


土下座されると断りきれない。 危機感を抱いたエリカは手早くメッセージを書く。


『じゃあ私は出かけるから。 留守番よろしくね』


そう書いたページをノートから破り取ってシバー少尉のポケットに押し込んで、エリカは家を出た。


このとき以来エリカは、外出時には書き置きを残してこっそりと家を出るようにしている。 エリカのこれまでのコッソリ外出成功率は100%。 隠密行動にけるファントムさんだから当然である。


               ◇❖◇❖◇❖◇


家を出たエリカはずアリスの家に行ってアリスと合流し、しかるのちに町の南部にある公民館へ向かった。 2人の数メートル後ろには、フロスト中尉が付いて歩いている。 中尉はアリスが持つ指輪型の発信器が放出するシグナルによりアリスの位置を把握している。


                ◇❖◇❖◇


公民館には7時10分前に到着した。 すでに数名の商店主が来ていて、座布団にすわってお茶を飲みながら雑談をしている。


2人が互いの所在確認のため鳴らし合うベルの音で商店主たちはファントムさんの到来に気付くが、誰も近寄っては来ない。 エリカとアリスは床にノートを広げて筆談を始めた。


『あそこにお茶セットがあるわ。 私たちもお茶を頂きましょう』


『勝手に飲んでいいんですか?』


『大丈夫よ。 誰が飲んでもいいはず』


                 ◇❖◇


エリカとアリスが茶をすするうちに、30名ほどにも及ぶ商店主が出そろった。 全員が座布団に着席したのを見計らって、商店街の会長が口を開く。


「じゃあ、寄り合いを始めましょうか。 今回の議題は、近く建設予定である大型店との競合問題・商店街の活性化・万引き対策・消費税増税が引き起こす売上減少の問題――」


エリカとアリスは雑貨屋さんの近くに移動し、ベルでチンと挨拶した。


「やあ、いらっしゃったねファントムさん。 1号さんと2号さんお揃いで?」


エリカとアリスはそれぞれ1回ずつベルを鳴らして肯定する。 チン。 チン。


雑貨屋さんはフロスト中尉を見て尋ねる。


「あなたはファントムさんのお知り合いですか?」


「ザルス軍に所属するフロスト中尉です。 アリスさんの付き人をしております」


「ほう、軍人さんですか」


商店街会長はまだ喋り続けている。


「それでは、まず大型店との競合問題について――」


                 ◇❖◇


退屈な話し合いが続きウトウトするエリカを呼ぶ声が聞こえる。


「ファントムさん、ファントムさん。 まいったな、帰っちゃったのかな?」


ハッと目覚めたエリカはベルを鳴らして自分の存在を示す。 チーン。 ここにおりますよ。 エリカに遅れてチーンとアリスのベルの音も聞こえる。 アリスも居眠りしていたのかもしれない。


「ああ、いらっしゃいましたか。 いよいよ万引きGメンの話題ですよ」


そう言われてエリカは商店街会長の声に注意を向ける。


「――そこで一石二鳥の解決策として、ファントムさんを万引きGメンとして活用しようという案が出ているわけですが――」


                 ◇❖◇


話し合いの末に行われた多数決で、アリスを商店街の万引きGメンに採用することが可決された。 アリスは万引きGメンとして毎月60時間活動し、商店街は月額20万ゴールドを支払う。 時給3千ゴールド超の高収入アルバイトである。


アリスに集中的にターゲットにされた弁当屋や、万引き被害にいにくい商品を扱う墓石屋や庭石屋などは、アリスを万引きGメンとして雇うことに反対した。 でも、賛成する商店のほうが格段に多かった。 賛成の理由は、次のように人それぞれだったが――


「商店街全体で月に20万ゴールドなら安いものだ」 「そうそう、20万でファントムさんが万引きしなくなるんだから」 「いや、ファントムさんが監視してくれるなら心強い」「客寄せ効果が期待できそうだ」


採用が決まった後にも、弁当屋は文句を言う。


「みかじめ料みてーなもんだな。商品をられないようにカネを与えるんだから」


それを雑貨屋の主人がなだめる。


「ここしばらく2号さんも万引してないじゃありませんか」


「うん、まあな」


「万引き防止の効果も期待できると思いますよ」


「かもな」


                 ◇❖◇


こうしてアリスは、軍の給与と併せて月に30万ゴールドを稼ぐ身となった。 軍から与えられる10万は税金など諸々《もろもろ》を天引きした後の金額だし、商店街から与えられる20万ゴールドはお賽銭(おさいせん)という名目なので非課税である。 したがって、この30万ゴールドは丸々アリスの懐に入る。


加えて、家賃はタダだし、フロスト中尉が持参の材料で三度の食事を作ってくれるから食費もかからない。 掃除も洗濯もフロスト中尉がやってくれる。 アリスは全人類があこがれる楽チン生活を獲得した。

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