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コミュ障、異世界転生で存在消失す ~透明人間はスローなライフも思いのままでした~  作者: 好きな言葉はタナボタ


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第52話 殺す覚悟

(やってくれたわね、隊長サン)


エリカは男たちを殺す覚悟を決めていた。 隊長に致命傷を負わされて腹を立てたわけではない。 アリスを《支配》から救うには男たちを殺すほか無いとエリカなりに判断した結果である。


《支配》の使い手といい、隊長が示した剣の腕前や馬車に追つく身体能力といい、この男たちがマナ輸送体を体内に蓄える強化人間であるのは明らか。 さらに、「隊長」という呼称は軍事組織を彷彿ほうふつとさせる。 身体能力以外は素人のエリカと違って、彼らは戦闘訓練を受けているに違いない。


そんな3人を相手にアリスを救出して町まで連れ戻る手段をエリカは思いつかなかった。 いや、もっと考えれば思いつくだろうが、隊長に殺されたという事実がエリカの中に「殺すのもアリ」という意識を作り出していた。 その意識ゆえにエリカは、男たちを殺さずに問題を解決するための努力を半ばで放棄している。 男たちはエリカの怠慢に殺されるのだ。


                   ◇❖◇


《支配》の使い手が再び詠唱を始める。


「ロブドブロプストリケラス――」


詠唱する隊員を守るようにして、残る2人が周囲に注意を配っている。 グレムリンの気配を捉え、詠唱の邪魔をするなら叩き切ろうというのだろう。 認識外の存在であるグレムリン(ファントムさん)の気配を捉えることなど不可能だが、彼らはそこまでグレムリンに詳しくない。


どの男のどの部位に攻撃を加えようか? なるべく苦しまないように殺してあげよう。 そんなことを考えるエリカの頭に、ひょっこりと1つの考えが浮かぶ。


(隊長が持ってるはずの馬車の鍵を盗み、それで馬車のドアを開けて、それでアリスちゃんを連れ出すのは? それって、どうなるのかなあ? それで人殺しを回避できる? やってみようか)


「――コリトスポリッキーメトール――」


エリカはスタスタと隊長に歩み寄り、隊長の身体検査を始めた。 隊長は真剣な顔で油断なく周囲を警戒しているが、エリカに体中をまさぐられていることに、まるで気付かない。


「――クールミトンポリカスエート オオヌカセヤーク――」


(あったあった。 この鍵じゃないかな。 上着のポケットに入ってましたよ)


鍵を手にしたエリカは詠唱中の隊員の脇をすり抜けて、客車のドアの前へ。 鍵穴に鍵を差し込むと、鍵は油が塗られているかのようにスルリと鍵穴に収まる。 鍵を回すとスムーズに回転し、ガチャり。 錠は解かれた。


「――カロリーメテオクリムサンドストーム――」


非常に長い呪文だが、そろそろ詠唱完了が近付いているかもしれない。 エリカは急いで車体のドアを開け、ベルをチンと鳴らした。


                   ◇❖◇


エリカのベルの音に反応したのは《支配》を詠唱する隊員を除く全員だった。 アリスはベルをチンと鳴らして返答す。 ジョウン隊長と隊員の1人は、馬車のドアが開いていると気付き駆け寄って来る。


「やはりグレムリンがもう一体!」


「――ミニストプコロケバガル――」


「馬車のドアを閉めろ! 詠唱はもうすぐ終わる」


(どうせ私の存在ももうバレたし!)


エリカは詠唱者の腹部にかかとで蹴りを叩き込んで詠唱を中断させた。 「ぐふっ」との音を口から漏らし、詠唱者は腹を抑えてうずくまる。


隊長は客車のドアに駆け寄り、ドアを閉めようとする。 が、エリカの体が間に挟まっているせいでドアが閉まらない。


「くそっ、何故閉まらない! ここにグレムリンがいるってのか?」


隊長は客車のドアを閉めようと焦って、何度もドアをエリカの体に叩きつける。


「痛い! 何すんのよ!」


エリカは隊長の腹部に踵蹴りを叩き込んだ。 「ぐふっ」 隊長も腹を抑えてうずくまる。


(なんだ、けっこう楽勝じゃないの)


男たちはマナで肉体が強化されているが、それはエリカも同様なので、まともに当たるならエリカの攻撃でもキチンとダメージを与えられる。 そして男たちはエリカの姿が見えないから、完全に無防備なところに蹴りを食らってしまう。


エリカは残る1人の隊員にも襲いかかり、下腹部に踵蹴りを叩き込んだ。 男は腹を抑えてうずくまる。「ぐふっ」


(アリスちゃんは、もう逃げたかな?)


客車から逃げさえすれば、アリスを決して再び捕まらない。


「くっ、任務は失敗だ」「グレムリンが2体いるとは」「撤退だ」


(逃さないわよ)


彼らにはアリスを、いやファントムさんを捕まえようと企んだ理由を訊かなくてはならない。 踵蹴りの効き具合からしてエリカは男たちを失神させられるだろうし、失神させた男を1人なら持って帰れる。


(お持ち帰りするのは、やっぱり隊長サンかな。 知ってることが多いだろうし)


エリカは馬車に乗り込もうとする隊長の背後に近づき、左膝の裏をドスッと蹴りつけた。 「ぐっ」と声を出して隊長は体勢を崩す。 崩れ方が不十分だったので、同じ箇所をもう一度蹴りつける。 ドスッ。 隊長はたまらず背後に倒れ込み、左手を地面に突いて体を支えた。


「隊長!」


隊員2人が隊長に駆け寄り、隊長の体を引き起こそうとしゃがみ込む。 エリカは低い位置に下がった彼らの頭部を狙って爪先で蹴りつけた。 ガスッ、ゴスッ。 隊員2人はエリカの蹴りをまともにくらい、仰向けに倒れて動かなくなった。 気絶したのだ。


隊員2人を蹴っている間に隊長が立ち上がっていたので、エリカは再び彼の左膝の裏を蹴りつけた。 ドスン。 「ぐあっ」と声を出して隊長はまた背後に倒れ込んだ。


「このっ、同じところばかり狙いやがって」


罵る隊長のコメカミを爪先で蹴り飛ばすと、隊長も地面に横たわり動かなくなった。


(ふう、けっこう面倒だったけど上出来じゃない。 殺すんじゃなくて半殺しが正解だったのね)


こうしてエリカは、自分が人を殺さずして無力化できることに気付いた。

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