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コミュ障、異世界転生で存在消失す ~透明人間はスローなライフも思いのままでした~  作者: 好きな言葉はタナボタ


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第5話  「この長剣であの背中を突き刺すぐらいなら私にもできそう」

武具店の外に出たエリカは、手に持つ長剣を鞘から少しだけ抜いてみる。 そうして覗いた刀身は日光を反射して美しい銀色に輝く。


「なんて綺麗なんでしょう。 まさに名剣。 私の愛剣にふさわしい」


エリカはミスリルの長剣の軽さにまず惚れ、次にその美しさの虜になったわけである。 その長剣の真価は切れ味にあるというのに。


長剣の鑑賞会を終えたエリカは次の行動を考える。


「時間はまだ午前中、今日のうちにモンスター退治をしてみよう」


そして気がついた。 モンスターってどこにいるんだろう?


「とうぜん町の外にいるんだろうけど、外への出口はどこにあるのかしら? そう言えば、この異世界に来てから一度も町の外に出てないわね」


そのときである。 ハンターらしきグループがハンター・ギルドから出て来るのが見えた。


「あの人たちに付いて行けばモンスターの居場所に辿り着けそうな気がする」


そう言ってエリカはいそいそとハンターの一団のほうへと向かった。



ハンターたちの後に付いてしばらく歩くと町の出口が見えてきた。 両開きの巨大な扉が開け放され、大勢の人や荷馬車が出入りしている。


エリカに後を付けられているハンターの人数は4人。 全員が男性で、名前をブロッコ、キャベジ、ケール、そしてカリラーという。 パーティー名は『ブラジカ』だ。 エリカはこうした情報を彼らの会話から入手した。


『ブラジカ』の面々に続いてエリカも町の門をくぐり、彼女は異世界に来て初めて外の世界に足を踏み入れた。 足元には草むらが茂り、遠くには森が見える。 転生前の世界と同じような自然の風景だ。


外に出れたのは良いが、辺りにモンスターの姿は無い。 ここはベテラン・ハンターである『ブラジカ』に案内してもらうのが良いだろう。 エリカはさらに彼らの後に付いて行くことにした。


『ブラジカ』は町の門から西に伸びる街道を進まず、町の防壁に沿って北に移動し始めた。 草をかきわけて進むので少々歩きにくい。


そうしてしばらく進むと『ブラジカ』が立ち止まった。


「いたぞ。 ラットリングの群れだ」


「20匹近くいるな」


前方にはネズミのような頭部を持つモンスターが群れていた。 あれがラットリングなのだろう。 巨大な門歯が特徴的である。 頭部はネズミだが二足歩行のヒューマノイドで、物を掴むことができるらしい。 多くの個体が棍棒を手にしている。


「よし突撃だ」


『ブラジカ』の戦士4人はラットリングの群れに向かって突撃を敢行した。 あの数を相手に突撃なんて無謀では? そう思いながらエリカも少し遅れて後に続く。


ラットリングの身長は130cmほどなので一対一であれば人間の戦士が負けることはない。 しかし、この戦いではラットリングが数において圧倒的に優勢である。


『ブラジカ』の面々はそれなりの手際でラットリングを倒すものの、巨大な門歯で噛みつかれたり棍棒で殴られたりしてダメージを受けてもいる。 ラットリングと『ブラジカ』では身長差が大きいためラットリングの攻撃は『ブラジカ』の下半身に集中する。 このままでは彼らは足を負傷して満足に動けなくなるだろう。


戦闘が初めてのエリカは戦いの模様をしばらくジッと観察していた。 やはりラットリングもエリカの存在を知覚できないらしく、戦闘の現場にかなり近づいてもエリカには襲いかかって来ない。 ミスリル製の長剣を持つエリカの目前に無防備な背中をさらけ出し、『ブラジカ』に攻撃を加えている。


(この長剣であの背中を突き刺すぐらいなら私にもできそうよね)


エリカはそんな風に考えながら、白銀に輝く刀身を少し鞘から抜いてみる。


(ああ、とっても綺麗。 でも刀なんだから鑑賞だけじゃだめ。 何かを切らないと)


エリカは刀身の全部を鞘から抜き放った。 シャラッと音を立てて、ミスリルの刀身が周囲に美麗な反射光を撒き散らす。 しかし、せっかくの美しさもエリカ以外には視認できない。 エリカだけでなくエリカが手にしたり着用したりする物も知覚外の存在となるからだ。


「うぐっ」


カリラーが足を押さえてうずくまった。 防具に覆われていない部分をラットリングに棍棒でしたたかに打ち据えられたのである。 そして、もう一匹のラットリングが彼の頭に棍棒を振り下ろそうとしている。 長剣を手に背後に立つエリカの存在にも気付かずに。


(戦闘に参加するには絶好のチャンスね)


エリカはミスリルの長剣を振りかぶると目前のラットリングの背中に突き刺した。「えいっ!」 長剣はほとんど抵抗もなくラットリングの肉と背骨を貫く。 血に濡れた剣の先端がラットリングの胸から顔を出し、ラットリングはうめき声すらほとんど立てずに絶命した。


そしてエリカは気付いた。 剣で刺したラットリングの傷口から淡い金色の粒子のようなものが放出されていることに。 よく見なければ分からないほどに微かだが目の錯覚などではない。 確かに金色の霧っぽいものが傷口から流出している。


「何なのこれ? 綺麗っぽいけどモンスターの体から出てきたと思うと気味が悪いわ」


放出された金色の粒子の一部がエリカを求めるかのように寄って来る。


「うわっ! こっちに来た」


エリカは手でパタパタとあおいで金色の粒子を払おうとするが、粒子はエリカの手が作り出した小さな風にまるで無反応で、あおぐ手や腕にまとわりつき消えてしまった。 金色の粒子がエリカの体に吸収されてしまったかのようである。


「なんだったの今の?」


不安に思うエリカだったが、金色の霧が吸い込まれた手や腕に痛みも異常もない。 他のラットリングはどうなのだろうかと改めて辺りを見回せば、『ブラジカ』も同じように、ラットリングの傷口から放出される金色の霧にさらされている。 まるで避けようともしていないが、彼らには金色の霧が見えていないのだろうか? それとも金色の霧は体に悪くないのか?


そうして戸惑ううちにも『ブラジカ』はラットリングに追い詰められ、彼らは今や防戦一方。 エリカは懸念を後回しにして彼らを助けることにする。


エリカはミスリルの長剣を握り直すと、『ブラジカ』を取り囲むラットリングたちの輪の外側に立ち、背後から次々と刺し殺していった。 エリカの存在に気付かないラットリングは、彼女にとって格好の獲物であった。 一匹殺すたびに傷口から金色の霧が立ちのぼりエリカの体にまとわりついたが、エリカはあまり気にしないようにした。


エリカが6匹目を殺したところで形勢は完全に逆転、『ブラジカ』は勢いを取り戻し、逃げ出そうとするラットリングを追い詰め、全滅させた。


エリカは初陣にして合計7匹をも仕留めた。 ラットリングは全部で20匹だったから、1/3ほどをエリカが倒したわけだ。 不意打ち攻撃とミスリル製の長剣があればこその戦果である。


『ブラジカ』は、エリカに獲物を奪われたというよりもエリカに救われた格好である。 エリカがいなければ死者が出ていてもおかしくなかった。

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