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コミュ障、異世界転生で存在消失す ~透明人間はスローなライフも思いのままでした~  作者: 好きな言葉はタナボタ


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第47話 魔法剣

翌朝、エリカがモンスター退治に出かけるときアリスはまだ就寝中だった。 アリスが眠るベッドの枕も掛け布団もシーツも存在感を失い、ベッドだけがエリカに見えている。 アリスがまだベッドの中にいるあかしにほかならない。


「私が寝てるときもベッドはこんな感じに見えてるんでしょうね」


寝ているアリスを起こすのも忍びないし、ベルの音だけでアリスを起こせるかどうか心許ない。 だから、エリカはアリスを寝かせたまま出かけることにした。


「アリスちゃんが帰るとき、玄関の鍵は... 開けっ放しでいいか。 貴重品もないし」


エリカの財産はハンター協会の口座に貯金しているし、財布はエリカが常に携帯している。 泥棒が来ても盗るものがなくて困るだけだ。


エリカは書き置きを残して家を出た。 『仕事に行ってきます。 玄関の鍵は開けっ放しでOKです』


                ◇❖◇❖◇❖◇


南門からフィールドへ出たエリカは、他のハンターの姿が見えない辺りまで来ると《魔物探知》の呪文を唱え始めた。


「ニョムニョムニョクマム――」


呪文を唱え終わったエリカの全身をほのかな光が包み、やがて霧散する。 そうして霧散した光は瞬く間に広範囲に拡散して、モンスターの所在と大まかな強さをエリカに伝える。


「あっちに小さい反応が3つだけ。 不作だなー」


エリカは《魔物探知》の呪文で把握した場所まで駆けてゆく。 のんびりしていると、モンスターが別の場所へと移動してしまう。


しばらく走って、エリカはモンスターの姿を見つけた。


「やっぱりゴブリンだったか」


3匹のゴブリンが灌木かんぼくから何かの果実をもぎ取っては口に運んでいる。 エリカは3匹の背後に忍び寄ると、次々と首をねていった。 首の切断面から血しぶきが噴出し、金色の霧が漂出する。


「普通の剣でも切れるようになってきた気がする」


エリカが鋼鉄製の剣に慣れ始めているのは事実である。 殊更ことさらに力を込めるタイミングや、刃を当てる角度といったコツを掴み始めているのだ。


だが、それだけではない。 エリカが普通の剣でゴブリンの首を簡単に撥ねれた理由は。 彼女は無意識のうちに魔法を使っていた。 体内に蓄積されているマナを剣にまとわせ、それによって剣の切れ味を高めているのだ。 そうでもなければ剣の腕前が未熟なエリカが普通の剣で、いくらゴブリンとはいえ首をスパッとねられはしない。


エリカが魔法剣を習得できた理由は2つある。 1つは、魔法の呪文を唱えた経験。 これによりエリカはマナを操る感覚を体得した。 もう1つが、「斬りたい、でも切れない」という経験だ。 切れ味がよくない普通の剣で四苦八苦していたときに、何かの拍子にマナが剣にまとわりついて切れ味が増すことが何度かあり、エリカはそれで魔法剣のコツを掴んだ。


                  ◇❖◇


エリカはその後3時間ほど、場所を替えては《魔物探知》を使って獲物を探したが、はぐれオーク1匹を狩れただけだった。


「今日はここまでね。 《魔物探知》でマナ切れになっちゃった」


                ◇❖◇❖◇❖◇


町へ戻ったエリカはハンター協会へとやって来た。 今日の稼ぎはゴブリン3匹とオーク1匹で3万2千ゴールド。 エリカの稼ぎとしては、とても少ない。


「こんな不作も珍しいわね。 なんかいい依頼でもないかなー」


依頼ボードをチェックしようと思うが、まずは換金だ。 窓口カウンターへと向かいマイ・ベルをチンと鳴らすと、マロン君がすぐに応対してくれる。


「やあエリカさん、換金ですか?」


ええ、そうよ。 そんな気持ちを込めて、エリカはベルをチン。


マロン君はエリカのハンター・カードを受け取り、今日の戦果をスキャンする。


「ゴブリン3匹とオーク1匹ですか。 今日は不猟だったんですね」


そうなの。 チン。


「あっ、そうそう、エリカさんに少し話があるんですが、奥の部屋へ来てもらえませんか?」


イヤよ。 奥の部屋には辛い思い出しか無いの。 そんな思いを込めてエリカはベルをチンチン。


「まあそう言わずに。 今回は嫌な話じゃありませんから」


(本当かしら? 嘘だったらひどい目に遭わすわよ?)


                  ◇❖◇


奥の部屋までやって来たマロン君とエリカ。


エリカが席についたのを察してマロン君が口を開く。


「実はですね、エリカさんに軍に籍を置いて欲しいという――」


(軍って軍隊のことよね? ミザル市に軍隊なんてあるの?)


「――要望が国から来ているんです。 ファントムさんたるエリカさんがハンターをやっているのが軍の幹部の耳に入ったらしくて」


(いま国って言った? この町はどこかの国の一部だったのね。 今まで考えたことなかったけど)


「軍に籍を置くと言っても、常に軍人として活動するわけではありません。 予備役のようなものですね。 普段はこれまでの生活を続けて頂き、非常時にのみ軍の指令で動いてもらうわけです」


(それって私に何の得があるのかしら?)


「ハンターには予備役をやってる人が結構いますよ。 普通の予備役は定期的に軍の訓練に参加しますが、エリカさんは初回の講習だけでいいそうです。 透明のファントムさんに軍の訓練はムリですしね」


(軍に籍を置いて私に何の得があるの? 行動の自由を奪われるだけじゃないの?)


「そうそう、軍籍に入ることのメリットですが、まず、月給がもらえます。 普通の予備役だと月額5千~3万ゴールドなのですが、エリカさんの場合は、なんと月額20万ゴールドです。 軍はよほどエリカさんを手元に置きたいようですね」


(何もせずに20万ゴールドなら悪くないわね)


「あと、軍の作戦に参加したときには現役兵としての日当が支払われます」


(戦争とかあるのかな?)


「この話に興味がおありでしたら、軍の担当者が詳しい説明をいたしますが?」


(うーん、軍の人に会っちゃうと断りづらいかも)


やめておくわ。 エリカはマイ・ベルをチンチンと二度鳴らした。


「そうですか...... 軍の担当者が別室で今か今かと出番を待ち構えているんですけどね」


(えっ、どうして?)


「特殊な人材を是非(ぜひ)とも確保したいとおっしゃって、今朝からハンター協会の一室でエリカさんが来るのをずっと待ってるんです」


エリカは何とも言えない気持ちに襲われる。


(......軍は本気で私を欲しがってる?)


そのとき、ドアをノックする音が応接室に響いた。 トントン。

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