第45話 シャリンシャリン
家に戻ったエリカはシャワーを浴びて部屋着に着替えると、夕食のサンドイッチを食べ始めた。 ムシャムシャ。
◇❖◇
「サンドイッチと牛乳でお腹が一杯になっちゃった。 デザートはまた後ね」
食事で膨らんだ腹をさすっていると、玄関の呼び鈴が鳴る音が聞こえてきた。 シャリンシャリーン。
エリカの家の呼び鈴は、玄関の外で紐を引っ張ると家の中でシャリンシャリンと涼やかな音を鳴らす。 でもエリカの家を訪れる者など誰1人としていないから、エリカがこの家に住み始めてから一度も鳴ったことがない。
(ええっ? お客さん!?)
エリカは少なからず狼狽した。
(どうしよう。 居留守する? いや、居留守を使うまでもなく私の姿は誰にも見えないか)
エリカはおずおずと台所を出て廊下を進み始める。 とりあえず誰が来たのか確認してみよう。 玄関に到着し、ドアに備え付けられている覗き穴から外を覗く。 が、誰も居ない。
(誰もいない...... 呼び鈴の誤作動? 誰かのイタズラ? でも、こんな時――)
シャリンシャリン!
(きゃあっ! また鳴った)
覗き穴からは呼び鈴を鳴らす人の姿が見えるはず。 呼び鈴が鳴ったのに、誰の姿も見えない。
(やっぱり誤作動? でも単純な機械仕掛けの呼び鈴が誤作動を起こすことってある? もうオバケの仕業としか......)
シャリンシャリン。
(ああっ、また。 もうやめて! 堪忍してっ!)
にわかに自分の身に生じた超自然現象に、エリカは体をすくませ腰を抜かさんばかりであった。
◇❖◇❖◇
ちょうど同じ頃、エリカの家の玄関の前ではアリスが困っていた。
(おかしいなあ、エリカさんの家ってここやんな? で、これが呼び鈴の紐やろ? こうして引っ張ったら家の中で音が聞こえるもんなあ。 シャリンシャリンって)
シャリンシャリン。
◇❖◇❖◇
(きゃあ、またっ!)
悲鳴を上げるエリカ。 だが、同じ怪異が何度か繰り返されるうちに、怪異に慣れた。 エリカの感情が裏返る! 恐怖心が怒りへと180°転換ッ!
(いい加減にしなさいよねっ! 何度も何度もシャリンシャリン! そっちがオバケなら、こっちはファントムさんよ!)
実はどっちもファントムさんだが、エリカはそうと知らない。 ドアの鍵を開け、怒りに任せてドアを開け放った!
◇❖◇❖◇
(あれ、ドアが開いた? ボヤけててよくわからへんけど、閉まってはいーへんやんな?)
エリカが玄関のドアノブを握っているので、いま玄関のドアは存在感が希薄となっている。 だがドアに神経を集中していたアリスには、ドアが開いたらしいと感じ取れた。
(あっそうや、ベルを鳴らさな。 エリカさんには私の姿が見えへんからベルでお知らせせんと)
アリスは手に持つ卓上ベルをチーンと鳴らした。
◇❖◇❖◇
勢いよくドアを開け放ち、周囲に威嚇的な視線を投げ散らかすエリカの耳に、安っぽい音が聞こえる。 チーン。 今日いく度となく聞いたベルの音だ。
(アリスちゃんの卓上ベル......? そういうことだったのね)
エリカは真相に気付いた。 無人のシャリンシャリンは謎の怪奇現象ではなく、アリスが呼び鈴を鳴らしていただけだった。
しかし、次なる疑問がすぐエリカの脳裏に浮かぶ。 アリスは一体なぜエリカの家にやって来たのか? しかも、こんな時間に。 外はそろそろ真っ暗だ。
訪問の理由を尋ねたいが、手元にマイ・ベルがなく意思の疎通ができない。 エリカは一旦ドアを閉めて、マイ・ベルを取りに家の中へ戻って行った。




