第42話 ファントムさんのベル行列
だが翌日、アリスは来た。
午後3時きっかりにエリカが鳴らしたマイ・ベルの音に呼応して、すぐ隣でチーンとベルの音が聞こえたのだ。 ハンター協会のカウンターに置かれていた卓上ベルの安っぽい音だ。
(来たのね、アリスさん)
ベルの音は当然、商店街の人たちにも聞こえた。
「現れやがったな! 万引きファントムさん!」「最初のベルが1号さんで、二度目のベルが2号さんてわけか」「今のベルがファントムさんなの?」「すげえ、ファントムさんが2人も......」
エリカはアリスとの筆談を開始する。 弁当屋の店先の手頃な平面を借りて、筆記用具でアリスへのメッセージを書き綴る。
『初めまして、アリスさん』
これに対するアリスの返事はベルの音だった。 チーン。
(そう言えばアリスさんは筆記用具を持ってないかも)
『筆記用具は持ってます?』
しばらく待っても反応が無い。
『Yesならチン1回、Noならチン2回でお願いします』
そう書くと、ベルが2回鳴った。 チーンチーン。
『じゃあ、まずアリスさんの筆記用具を買いに行きましょう。 はぐれないよう互いにベルを鳴らし続けましょう』
そして2人は文房具屋に向かって旅立った。 物見高い商店主や通行人を引き連れて、チーン、チーンと一定の間隔で鳴らされるベルの音が文房具屋へと接近してゆく。 注意深く聞くと、ベルの音が2種類だと分かる。 高級なベル音と安っぽいベル音である。 高級なほうがエリカのマイ・ベルで、安っぽいほうがアリスの卓上ベルだ。
ベル音の当事者であるアリスは、否応なくエリカのベル音との差に気付かされる。
(安っぽい音やなー、私のベル。 私も素敵なベル音を出したい)
エリカも当然、2人のベル音の差には気づいている。
(アリスさんのベル音との差は歴然ね。 うふふ、高いベルを買ってホント良かった)
エリカは美声を誇示するかのようにマイ・ベルを鳴らす。 チーン、チーン。
ファントムさんは姿が見えず声も聞こえないから、周囲の人たちはベルの音からファントムさんのイメージを思い浮かべる。 高級ベルの音色から思い浮かべるのは高級ファントムさん、安物ベルの音色なら安物ファントムさん、というわけだ。
自信たっぷりな高級ベルの音と健気に頑張る安物ベルの音は文房具屋へと入っていった。 後を付いてきた群衆が文房具屋の外で待っていると、チーン、チーンというベル音が文房具屋から出てきて、今度は近くにある喫茶店へと入って行った。
エリカとアリスがベルで互いの存在を確認しながら連れ立って歩いたこの一件は、「ファントムさんのベル行列」という名の怪奇現象として世に知られることになる。 行列と言っても2人だけだが。




