第37話 まだ3時44分なのに
自宅に戻り、着替えて昼ゴハンを食べてゴロゴロしていたら、あっという間に時間が過ぎて午後3時となった。
エリカはそわそわし始めた。 ファビロサと会う時間が近づいている。 QSAを潜入調査した成果をファビロサに引き渡さねばならない。
ファビロサとのアポは午後4時。 エリカの家からハンター協会まで歩いて10分もかからないから、そわそわするにはまだ早い時間。 しかしエリカはファビロサとの再会に際して思うところがある。 そう、10分前行動の使い手であるファビロサに対し15分前行動でもって機先を制するのだ。
15分前行動を実現するには午後3時45分にハンター協会に到着する。 それには、その10分前すなわち午後3時35分に家を出る。 35分後には家を出るのだから、エリカがそわそわし始めても決しておかしくはなかった。
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エリカは午後3時35分きっかりに家を出て、3時43分にハンター協会に到着した。 予定より2分早かったので、1階フロアの隅に佇んで午後3時45分になるのを待つ。 到着が早すぎても先方の迷惑になるからだ。
そうして1分が経過したとき、ハンター協会に1人の女性が入ってきた。
(あら見覚えのある人...... って、あれはファビロサさん!? まだ3時44分なのにっ!)
ファビロサが依頼用窓口のほうへと歩いてゆくのを見てエリカはハッと気づく。
(いけない! これじゃ、せっかくの15分前行動が台無し!)
エリカは依頼用窓口に向かって猛然とダッシュ。 窓口に到着するやマイ・ベルをチーン!
依頼担当の窓口職員ビマルトがベルの音に気付く。
「やあ、ファントムさんですか。 ちょうどいいタイミングでファビロサさんもお越しですよ」
エリカは悔しくてならない。
(くっ、引き分け!)
ファビロサとビマルトが挨拶を交わす
「お早いお越しですねファビロサさん」
「たまたま近くで用事があったものですから、少し早いとは思いましたが」
エリカは思索に没頭している。
(相手の15分前行動に対して自分も15分前行動じゃ単に時間通り。 15分前行動だなんて非常識なコトをする相手に勝つには20分前行動が求められる。 でも...... そんな風にして人々がXX分前行動を競い合ったら世の中は一体どうなるの? 25分前行動が30分前行動に、30分前が35分前に、そしていつしか60分前70分前へとエスカレート。 くっ、とても時間がもったいない)
「じゃあ面談室にご案内しましょう」
歩き出したビマルトに付いて歩きながらエリカは達観した。
(もうXX分前行動にこだわるのはよしましょう。 時間通りでいいじゃない)
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エリカが録音した品質選定協会《QSA》の不正審査を聞き終え、ファビロサは満足げに言う。
「ムンド・セレクシオンの審査が不正に行われている証拠として申し分ないわ。 これだけの証拠を昨日の今日で入手するなんて流石はファントムさん。 報酬の200万ゴールドはファントムさんが協会にお持ちの口座に振り込んでおきますわね」
エリカは返事代わりにベルをチーンと鳴らし、面談室を出て行った。




