第35話 異世界劣等生
翌朝。 エリカは朝食を食べながら1日のスケジュールを考えていた。
「ファビロサさんと会うのは午後4時だから、それまではモンスター退治かな。 《魔物探知》が無いから効率は悪いけど、散歩がてら出かけましょうか」
エリカはコップに入ったオレンジ・ジュースを飲み干すと席を立って食器を洗い、外出の支度を始めた。
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家を出たエリカは南門を目指して歩き出した。 途中にある商店街で昼食を買い求めるつもりである。
「今日のお昼は何にしようかな。 サンドイッチ? それともお弁当?」
エリカは幾人もの通行人を追い越しどんどん歩いて行く。 のんびりと歩いているつもりだが、それでも常人の1.5倍の速度である。 マナにより強化された彼女の体は、人並み以上の歩行速度を自然と生み出す。
そうして歩いていて商店街の入口に差し掛かったとき、エリカの体に衝撃が走る。
「っ!」
何かにぶつかったような衝撃だ。 腹から胸にかけて軽い鈍痛がある。
エリカは謎の現象に首をひねる。
「今のは何だったのかしら?」
そして、前にも同じことがあったことを思い出す。
「そういえば前も同じことが...... 場所もこの辺りだった」
前回を思い返していてエリカは思い至った。 自分の後にファントムさんとなった者がいる可能性に。
「ひょっとして新たなファントムさんが来てる!? 私と同じように人嫌いで自殺した人が、この世界に送り込まれた?」
エリカは考えを整理する。
「何かにぶつかられたのに、ぶつかられたと思わない。 それは、ぶつかって来たのが知覚外の存在であるファントムさんだから。 そして、新ファントムさんが私によくぶつかるのは、新ファントムさんにも私が見えていないから!」
ピタピタと合う辻褄に、エリカの背筋をゾワゾワが這い上がった。
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商店街に入りお弁当屋さんへ足を向けると、怒鳴り声が聞こえて来た。 怒鳴っているのは弁当屋の店主だ。
「こうも立て続けに盗まれたんじゃ商売あがったりだぜ!」
「ファントムさんにも困ったもんですなあ」と隣の商店の主。
「気が向いたときにしかカネを置いていかねえってのは頂けねえぜ」
万引きの濡れ衣に、エリカはへこむ。
(私はいつもおカネをちゃんと支払ってますけど......)
その後すぐに気付く。
(そっか、さっきの謎現象。 新ファントムさんで確定だね。 こないだも謎現象の後で商店街に入ったら、お弁当屋さんが万引きに怒ってた。 あれも新ファントムさんが盗んだんだ)
(でも、新ファントムさんに前にぶつかられたのは何週間も前。 新ファントムさんは何週間も万引きで暮らしているの? この先もずっと万引きで暮らすの? そんなの皆が不幸じゃない。 新ファントムさんは惨めな境遇で不幸、商店街の皆さんは万引きされて不幸、そして私は万引きの冤罪で不幸)
エリカは新ファントムさんのために自分が一肌脱げないかと考え始めた。
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南門を出たエリカはモンスターを求めて歩き出す。 どこにモンスターがいるか見当も付かないので、散歩気分で適当に歩く。 《魔物探知》スクロールやミスリルの長剣の代金で大金が必要なエリカだが、生活費に困ってはおらず血眼になってモンスターを探すほどではない。
歩きながらエリカは、新ファントムさんについて考える。
「新ファントムさんを助ける方法は簡単。 ハンター協会の存在を教えるだけでいい。 新ファントムさんも透明で、それにたぶん不死身だから、ラットリングぐらいなら楽勝」
「察するに新ファントムさんは異世界劣等生。 つまり異世界IQが低いの。 だから冒険者ギルドでおカネを稼ぐ発想がなく、盗っ人を続ける羽目になるのよ。 平素からRPGやラノベでファンタジーに接していないから、いざ異世界に飛ばされたときにそうなるの」
モンスターが一向に見つからないので、エリカはさらに新ファントムさんについて考える。
「まずは、コミュニケーションの取り方よね。 私も新ファントムさんも互いの存在を認識できないからコミュニケーションはとても困難。 あと、新ファントムさんが住んでる場所とか... あっ、オーク見っけ」
4匹のオークは小川で水浴びをしていた。 粗末な革鎧と武器を岸辺に置いて、川のの流れの中で戯れている。
「さあいくわよ。 強くなった私の肉体を存分に味わいなさい!」
誰にも聞こえない叫び声を上げながら、エリカはオークに突撃した。 マナ酔いを経て肉体が強化されてから初めての戦闘であり、胸に期すものがある。
タッタッタと地面を駆け、ザブザブと水の中に入り、まるで無警戒なオークの心臓を長剣で一突きしたり、背後から忍び寄って首を刎ねたり。 エリカはあっという間に4匹のオークを皆殺しにしてしまった。
そして感想を述べる。
「あんまり変わらないかなぁ。 これまでなら突けなかったタイミングで心臓を突いたりできたけど。 ファントムさんがミスリルの長剣を持ってる時点で無敵だもんね」




