表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミュ障、異世界転生で存在消失す ~透明人間はスローなライフも思いのままでした~  作者: 好きな言葉はタナボタ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/30

第25話 サフィーのほうがヤバイ部分をやられているの

まだ日は高いが、エリカは町に戻ることにした。 初めてオークを退治したほとぼりが冷めて、自分がかなり疲れていると気付いた。 足腰の筋肉が疲労していたし、オークを殺すとき無自覚のうちに剣を強く握りしめたのだろう、右手もひどい疲労感があった。


「オークはラットリングよりも報奨金が高いはずだから、9匹も倒せば1日の稼ぎとしては十分よね」


オークの単価に思いを()せつつ歩いていると、4人組のパーティーに出くわした。 女性3人に男性1人のパーティーだ。 戦闘の直後らしく、周囲には数体のモンスターの死体が転がっている。


(ゴブリンっぽいモンスターね。 RPGの知識によればきっとゴブリン)


エリカの推察は正しい。 転がる死体はゴブリン。 ラットリングより少し強く、オークよりは格段に弱いモンスターだ。


このパーティーはゴブリン相手に苦戦したらしく、全員が怪我をしている。 ハンターたちの負傷っぷりがエリカの目に留まった。


(あらあら皆さん、大変な怪我だこと。 とっても痛そう。 私の《治癒》の出番かしら?)


《治癒》を試したい気持ちが耐え難く湧き起こる。 しかし焦りは禁物。 エリカは鋼の精神力で(もっ)て自らを律する。


(待ちなさいエリカ。 パーティーにはヒーラー(回復役)が付き物。 ヒーラーがいるなら私の回復魔法はいらぬおせっかい。 南門まで来るパーティーですもの、ヒーラーぐらいいるはずよね)


エリカが様子を見守っていると、案のじょう《治癒》の呪文を使えるハンターがいた。


「えっと、じゃあまずメノウさんから治しますね」


メノウと呼ばれたのは女性のハンター。 腹に槍で突かれたような傷口が開いている。 かなりの重傷である。


「ええ、お願い。 ちょっとヤバイ感じなの」


「では」と言ってヒーラーが呪文を唱え始める。「パメクルラクルロリロリポップン―」


(あー、私のと完全におんなじ呪文だ。《治癒》だよこれ)


エリカは複雑な顔つきである。 自分は不死身で怪我も勝手に修復されてしまうから、他人に使うのでもない限り《治癒》の出番はない。


(100万ゴールドもしたのになあ)


失意のエリカの目前で《治癒》の呪文が完成する。


「―ポッペンヒュームトローリシュー。 ヒール!」


ヒーラーの手から白く柔らかい光が放たれ、メノウの傷口を覆う。 光は傷の中に入り込んだり、傷口から溢れ出たり。 そうするうちに腹の傷が、まるで魔法のように治ってゆく。 いや「魔法のように」ではない。 正真正銘の魔法なのだ。


メノウの傷が完璧に治るのを見せつけられ、エリカは落胆を禁じ得ない。


(あーあ、成功しちゃった。きれいに治っちゃって)


「ありがと、ヒスイ。 助かったわ」


ヒーラーの名はヒスイというらしい。 線の細そうな男性だ。 身体能力は高くなさそうだから、魔法を得意とするハンターだろう。 少なからずエリカの好みのタイプである。


「早いとこ自分を治しちゃいなさい。 あなたの怪我もひどいわよ」


メノウに言われるがままに、ヒスイは自分の傷を治す。


「マナの残りは大丈夫?」


メノウの問いにヒスイは自信なさげに答える。


「ちょっと足りないかも」


(おっ?)


そわそわし始めるエリカのかたわらで、メノウは指示を出す。


「じゃあ次はサフィーを治してあげてちょうだい」


「でもサフィーさんより、パールのほうが重傷だと...」


ヒスイの弱々しい抗議をメノウが押し切る。


「パールが怪我しているのは足で、しかも打撲傷。 治療が遅れても死にはしないわ。 サフィーのほうがヤバイ部分をやられているの。 さ、サフィーを治してあげて」


サフィーはたしかにヤバイ部分をやられていたが、それは擦り傷のたぐいである。 痛そうではあるし6才児ことによれば8才児でも大泣きしているであろう程度にはひどい怪我だが、総じて見ればパールの怪我のほうが治療の優先順位は高い。


パールは打撲傷がひどく痛むようで、彼女の額には汗の玉が浮かんでいる。 それも無理からぬこと、パールの右膝は衣服の上からでも分かるほどに腫れ上がっている。 しかし、このパーティーではメノウが決定権を握っているようで、サフィーもパールも大人しくメノウとヒスイのやり取りを聞いている。


「...じゃあ、サフィーさんを先に治しますね」


そう言ってヒスイは《治癒》でサフィーを治したが、そこでマナが尽きた。


「ああ、もうマナが...」


「そう? じゃあ仕方ないわね。 パールは町に戻ってからお医者さんにでも診てもらいなさい」


エリカはメノウがパールに辛く当たる理由に気付いていた。 ヤキモチである。 ヒスイはパールを好いているようで、しきりに好意的な視線を彼女に投げかけている。 そのヒスイをメノウは狙っている。 ヒスイに微笑みかけたりヒスイの横顔を飽きずに眺めていたりする。 メノウは美人系でパールは可愛い系である。 ヒスイは可愛い系が好みなのだろう。


「そんなことより、急いで町へ戻りましょう。 《治癒》が使えなくなった以上、モンスターに出くわすと一大事いちだいじよ」


パールの怪我をそのままに出発しようとするメノウをヒスイが止める。


「ま、待って。 パールに《治癒》を」


ヒスイは必死でマナをかき集め《治癒》の呪文を唱え始める。 メノウはそんなヒスイにもどかしそうな視線を送るが、口では何も言わない。


「パメクルラクルロリロリポップン―」


ヒスイが詠唱を開始すると彼の手元が微かに光り始めた。 がしかし、光はそれ以上強くならず、何度かまたたいて消滅してしまった。


「マナが枯渇してるんじゃ、どんなに頑張っても無理よ」


ヒスイをなだめるようにメノウがそう言ったとき、さっきから周囲を警戒していたサフィーが告げる。


「ゴブリンの死体に野獣が集まって来てる。 急いでここを離れましょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ