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コミュ障、異世界転生で存在消失す ~透明人間はスローなライフも思いのままでした~  作者: 好きな言葉はタナボタ


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第24話 生きていけなくなって自殺した先で、また生きていけないなんて

エリカは悩みながら昼食を食べ終え、指についた米粒を舐め取りながら悩んだ。 思考の材料が乏しい単純な問題ゆえ思考は早々と堂々巡りに突入しており、もはやエリカは解決不可能な問題を前に苦しむだけだった。


「嫌になっちゃう。 生きていけなくなって自殺した先で、また生きていけないなんて」


食後に小一時間ほど苦しんだ末、エリカは前世で自殺をしたときに似る心境に到達した。 追い詰められたのである。 しかし今度は自殺もできない。 神に不死身にされてしまったから。 二進にっち三進さっちも行かない状況にエリカは腹が立ってきた。 癇癪かんしゃくを起こしたと言ってもいい。 逆ギレに近いノリだ。


(一体どうしろってのよ! 神はどうして私をこんな目に遭わせるわけ?)


前世で人嫌いで自殺する直前、エリカの心に怒りはなかった。 自分が立たされている苦境の原因が自分にあるという自覚があったからだ。 人々が自分に向ける冷たい視線は自分が招いたものだった。


しかし今回は違う。 今回の窮地は自分が招いたものではない。 その思いが彼女の心に怒りを芽生えさせた。 怒りは探知機のレーダー波のように心の中を広がり、怒りの矛先を探す。


いまエリカの心の中に浮かぶのは今回の一件に関わる事物だ。 数は多くない。 エリカのラットリング退治を禁じたマロン君、オーク、北門の外に広がる田園風景、閉ざされた東門、そして神。 これだけである。


エリカの怒りのレーダーはマロン君には反応しなかった。 彼が無実だからだ。 マロン君が意地悪でラットリング退治を禁じたのでないとエリカは承知していた。 同様に、田園風景と東門も無実である。 神は有罪であったが、エリカが怒りを抱く対象として偉大すぎたのでレーダーはこれをスルーした。 怒りレーダーが著しい反応を示したのはオークである。 知性的でありながら悪意に満ちたオークの目をエリカは思い出す。


(そもそもオークなのよね。 オークが私をビビらせるから悪いんだわ。 オークの分際で。 オークごときが! この私を? ビビらせる? ふざけるんじゃないわよ!)


エリカは決然として立ち上がるとナップサックを引っ掴んで背中に背負い、猛然と丘を下り始めた。 どこへ行こうというのか? 決まっている。 オーク退治だ。


                 ◇❖◇❖◇


丘の斜面に獣道が描く緩やかな曲線を無視して、エリカは直線的に丘を駆け下りる。 彼女の背中を丘の上から吹く風が押す。 まるで丘の風が祝福してくれているよう。 追い風に背中を押され、エリカは飛ぶように斜面を駆け下りた。


あっという間に丘の麓まで降りたエリカは北門を駆け抜け、そのまま一息に町の北端から南端まで縦断し、南門を通過して町の外へ出た。 丘の上から南門エリアに到着するまで30分もかかっていない。 長距離走アスリート並みの走力である。


町の外に出たエリカはオークを求めて闇雲に駆けまわり、ほどなくしてオークの集団に出くわした。 運が良かった。《魔物探知》の呪文を持たないのに、広大なフィールドで早々にオークと出会えたのだから。 実のところ、オークに出会えないままにエリカの怒りエネルギーが底を突く可能性が高かった。


                 ◇❖◇❖◇


ただ、エリカが見つけたオークの集団は数が多かった。


(いったい何匹いるの? ひい、ふう、みい... なな、はち、9匹も!?)


9匹のオークは巨大なイノシシを追って森の中から出てきたところだった。 巨大イノシシは何を思ったか進路を変えてエリカのいる方角を目指し、それに追いかけてオークたちもエリカのほうに向かって来る。


武装したゴツいヒューマノイドの集団と巨大イノシシが土煙を立てて爆走して来る迫力に、エリカは尻込みしそうになる。 が―


「ここが勝負どころよ!」


エリカは怒りを(かて)に踏みとどまった。 長剣を鞘から抜き放ち、オーク集団の到来を待ち構える。


巨大イノシシとオーク集団が、エリカの立つ場所に急速に近づく。 むろん、イノシシもオークも前方に立つ彼女の存在を知覚していない。 オークから逃げようと猛進するイノシシをやり過ごし、エリカが狙うは集団の右端を走るオーク。 そいつが傍らを通り過ぎようとする刹那、エリカは無警戒な腹部めがけて長剣で斬りつけた。「えいっ!」


オークはエリカの長剣に自ら突っ込んだも同じ。 エリカのスイング速度とあいまって、オークは革鎧ごと背骨ごと胴をスパッと切られてしまった。


剣術も筋力もベテラン・ハンターの域に達していないエリカである。 鋼鉄の剣であればオークの革鎧すら満足に断ち切れず、オークの突進に弾き飛ばされるか巻き込まれるかして大怪我を負っていた。 しかしエリカの剣はミスリル製。《先鋭化》の魔法まで付与されている。 革鎧やオークの肉体など刃に軽く触れるだけで切ってしまう。


エリカに斬られたオークは胴体の半ば以上が千切れた状態で絶命し、傷口からおびただしい量の血と金色の霧を流出させている。 流出する金色の霧はラットリングのときより遥かに多く、目を凝らさなくてもはっきり目に見える。


金色の霧を浴びながら、エリカは苦手だったオークを斬り伏せた感慨にふける。


「オークを斬れた。 これで... これからも...」


しかし余韻に浸れる時間は短かった。 残る8匹のオークが「フゴッ」「ブゴッ」などと恐ろしい声を立てながら、エリカが倒したオークのほうに何事かと集まってきたのだ。 仲間が突然血を吹き出して倒れたのが不思議でならない。


エリカは長剣を握り直すと集まって来るオークに向き直った。 残る8匹すべてを斬り伏せて、オーク恐怖症を克服するのだ。


                 ◇❖◇❖◇


3分後、オークの集団はエリカに皆殺しにされていた。 落ち着いてさえいれば、彼女にとってオークなど物の数ではない。 オークたちは何が起こっているかもわからぬまま、次々とエリカに(ほふ)られていった。 背後から心臓を一突きにされて絶命していった。


殺戮を終えたエリカはオーク9匹ぶんの(おびただ)しい血溜まりの中で呆然と立ち尽くす。 数十分間も続いたハイテンションが途切れ、頭の中が真っ白だ。 辺りに大量に立ち込める金色の霧が、エリカの体を求めて寄ってくる。


「ふ~、倒せた。 9匹も」


エリカは晴れ晴れとした顔になった。 オークに対する苦手意識はすでに無い。


「それにしても金色の霧がすごいわね。 ラットリングとは桁違い」


エリカは『魔法の基礎』で読んだ内容を思い起こす。


「金色の霧はマナ輸送体... か」


                   ◇


モンスターを倒したときに放出される金色の霧の正体はマナ輸送体である。 マナ輸送体はモンスターの体内でのみ作られる物質で、マナを吸着する性質を持つ。


ではマナとは何か? マナはあらゆる場所に存在するエネルギー。 魔道具も魔法の呪文もエネルギー源はマナである。 マナには生物の肉体を強化する作用もある。 魔物が普通の動物より強いのもそのためだ。


ハンターはマナ輸送体(金色の霧)を体内に取り込むことでマナを体内に蓄積し、超人的な能力を発揮する。 マナ輸送体はモンスターの体外に放出されると速やかに分解されるが、放出時に生物が付近に存在するなら生物に引き寄せられて体内に取り込まれる。 体内に取り込まれたマナ輸送体は消滅しにくく、また消滅するまで体内を循環する。


                   ◇


オークの血の匂いを嗅ぎつけた鳥獣が集まり始めたので、エリカはその場を離れた。

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