第2話 ツケ払いで買ったことにしよう
適当に歩いていると都合よく商店街が見つかった。 食料品店・雑貨店・衣料品店などエリカが期待していた店に混じって、武具や防具を扱う店や怪しげな薬屋なども見つかる。 この世界はRPGのようなファンタジーの世界らしい。
まことに都合の良いことにエリカはこの世界の文字を難なく読めるようで、商店街の看板に書かれている字を理解することができた。 通行人たちの発する言葉も理解できる。
店は見つけたがカネはない。 しかしエリカは最初から盗むつもりだったので今さら悩まない。 一文無しのうえカネを稼ぐ手段もないのだ。 盗むしかないではないか。 責められるべきはエリカをこの世界にこんな状態で放り込んだ神様である。
しかしエリカには1つの懸念があった。 エリカが売り場に置かれている商品を手に取ったとき、その商品は周囲の人の目にどう映るのか? エリカ本体はたしかに他人に知覚されない。 しかし、エリカが手にする物体はどうか? 仮に物体だけが認識されるなら、エリカが手にする物が空中に浮いているように見えるだろう。 同様にエリカが服を入手して着用したときにも、服だけが動いているように見えるはず。
しかし食べ物は必要だし、全裸だと風邪を引く。 考えていても仕方がない。 エリカは一軒の食料品店に近づくと、店先に置かれている柑橘系果実を手に取ってみた。
すぐ傍らに店の人がいるが何も反応を示さない。 エリカが手にした物もエリカと同じく他人に知覚されなくなるらしかった。 念のため店員の目の前で果実を振ってみるが反応がない。 見えていないのだ。 ならば自分が着用する衣服も他人に認識されないはず。 エリカは果実を手に持ったまま食料品店を去り、向かいの衣料品店に足を向けた。
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エリカは商店街を巡って生活に必要なものを揃えた。 どれも黙って店先から持ってきた。 盗んだわけである。 物が多くて持ちきれないのでリアカーを借用し、そこに乗せて運ぶことにした。 そしてリアカーを借用したときにエリカは気付いた。
「いいこと思いついた! 盗ってきた服とか食品とか全部ツケ払いで買ったことにしよう。 いつか代金を支払いに来ますからね」
盗んだ衣料品を身に着け、盗んだ食品や生活必需品を盗んだリアカーに積み込んだまでは良いが、エリカには行くあてがなかった。 どこに行こう? 途方に暮れたエリカは当て所もなくトボトボと、重いリアカーを引いて歩き始めた。
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商店街ではエリカの万引きは怪奇現象として扱われた。 食料品など万引きされやすい商品はともかく、途方もなくかさばる布団までいつの間にか消え失せていたのだ。 万引きであるはずがなかった。
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夕闇が迫りカラスがカアカアと鳴き出す頃、エリカは人が住んでいなさそうな家屋を見つけた。 幸いにも玄関の扉に鍵はかかっていなかったので、エリカはリアカーを門の内側に停めて屋内に侵入した。
都合の良いことに、家の中は小綺麗で十分に住めそう。 エリカはこの家に住むことに決めて、リアカーに積んだ荷物を家の中へと運び込んだ。
荷物を整理して落ち着いたところで、エリカはロウソクに火を灯し食事を摂った。 オレンジに似た柑橘系の果実2つとサンドイッチが今日の夕食である。
食べ終えたらもう何もすることがない。 エリカは寝台に上がり、盗んだ布団にくるまった。 自殺したり馬車に轢かれたり大量に万引したりで疲れが溜まっていたので、すぐに眠りに落ちた。




