第14話 「命を救うなんて最大級の親切行為じゃない」
ハンター3人とラットリングの戦いは続いている。 しかし、エリカは体が麻痺していて視線をその方向に向けることもできない。 声と戦いの音から戦況を推測するのみである。
「くそっ」「くっ」「負けるものかっ!」
「ぐあっ」「くっ」「うわあっ」
3人が苦戦する様子が窺えるが、エリカの痺れは一向に去る気配がない。
(ひょっとして一生このまま? 不死身だから餓死もしない? 死ぬほどお腹が空いた状態でずっと生き続けるの? 姿が見えないから誰にも助けてもらえない。 どうしようヤバイどうしよう)
剣を握って立つ状態から身動きできないままエリカはパニックに陥りかけていた。 そしてハンター3人もいよいよピンチに追い込まれていた。
「うぐっ」「くっ」「もうダメだ...」
「ぎゃー」「くっ」「ごふっ」
ハンター3人が末期の悲鳴とも取れる声を上げエリカの目に移る範囲のラットリングの動きが慌ただしくなったとき、エリカの痺れがようやく治まった。 安堵感に包まれながらエリカがハンターたちの居場所に目を向けると、彼らは地面に倒れラットリングに群がられていた。 ラットリングがハンターを食べようとしているのだ。
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エリカは痺れが残る体で、ハンターに群がるラットリングたちを次々と殺していった。 敵討ちというわけではない。 殺されたハンターたちに親愛の情を感じてはいなかったから。 人を殺されて怒っているわけでもない。 人の命が他の生物の命よりも尊いと思ってはいないから。 それでもエリカはラットリングを殺して回った。 それが彼女の仕事で、ラットリングを殺せばおカネをもらえるからだ。 生まれて初めて(自分以外の)人の死に触れた動揺は少なからずあったものの、それ以上の感情はエリカの中になかった。
ハンター4人でも倒せなかったラットリングの集団をエリカはいとも簡単に殺戮してゆく。 知能が低いラットリングにとっても仲間の死は重大事らしいが、仲間が突然に血を吹き出して息絶えるという現象を理解できず騒々しく騒ぐばかりである。 サンショが倒しきれなかったチーフも魔法を唱えた小柄なラットリングも、エリカの長剣を急所に埋め込まれて絶命した。 ラットリングを殺すたびに金色の霧が立ちのぼりエリカの体に吸い込まれていった。
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エリカはラットリングをすべて倒すと、ハンターの死体に意識を向けた。
「これってやっぱり、どこかに通報したほうがいいのかな? 埋葬は面倒だけど、とりあえず一箇所にまとめとこう」
死体を一箇所に集めても意味はないのだが、エリカはハンターたちの死体に近づく。 そして気付いた。 1人まだ生きている者がいる。
「名前はフェンネルだったかしら? 息があるなら助けようかな。命を救うなんて最大級の親切行為だもんね。 意識が無いから感謝はされないけど」
しかしエリカは《治癒》の呪文 ――と言うか魔法全般―― を使えない。 ハンターたちの荷物を漁ってもHPを回復するポーションらしきものは見当たらない。
「この世界ってポーションがないのかしら?」
仕方がないので、エリカはフェネルを背負って町まで戻ることにした。
「よいしょっ。 いい? 気をしっかり持つのよフェンネルちゃん」
エリカは人助けっぽいセリフを芝居めかして言ってみた。
エリカが人の目に映らないため、エリカに背負われているフェネルは宙に浮いているように見える。 だがエリカは、フェネルが宙に浮いて見えることに気付いていなかった。




