第13話 「エリカの誤算」
チーフと戦うのに乗り気だっただけあり、サンショはチーフ相手に優勢に戦いを進めていた。 しかし、並ラットリングの邪魔が入るため決定的なダメージを与えられずにいる。
仲間の3人が並ラットリングの数を減らしてくれれば、チーフと完全に1対1で戦える。 それまでは我慢だ。 そう自分に言い聞かせるサンショの耳に、シモンナの悲鳴めいた叫び声が届く。
「後ろからもラットリングの群れが!」
合計20匹のラットリングに加えてラットリング・チーフまでいるのでは、この4人には荷が重い。 逃げるのが得策である。 しかし、がっぷり4つに組んで戦っていたところに新手が後ろから襲いかかったのだ。 逃げられるはずがない。 彼らはすっかり包囲されてしまった。
「グギュギュ」「ギュキュー」などと鳴きつつ襲いくるラットリング。 それを4人は剣で追い払うが、一時しのぎにしかならない。 ラットリングを倒して数を減らすには、速度と力が乗る一撃を放たねばならない。 だが、そんな一撃を放てば他のラットリングの攻撃を食らうのは目に見えている。
ただ、このままでは死を待つばかり。 意を決したフェネルが手近なラットリングめがけて斬撃を放った。 十分に体重が乗った倒せる一撃である。 その一撃はラットリングの肩口をまともに捉え、そのまま数十センチほど下に肉を切り裂いた。 傷口から血しぶきと金色の霧が放出され、ラットリングは絶命する。
ラットリングの数を1匹減らせたのは良かったが、フェネルはその代価を身をもって支払うことになった。 長剣の刀身が未だラットリングの体に埋まっているフェネルを狙って、何匹ものラットリングが巨大な門歯で、あるいは棍棒で襲いかかったのだ。
「フェネル!」
3人の仲間はフェネルのピンチに気づきながらも自分の身を守るのに精一杯である。 フェネルはラットリングの棍棒で打ちのめされ門歯に噛みつかれ、地面にくずれ落ちた。
◇❖◇❖◇
エリカが戦闘の現場に到着したのは、ちょうどフェネルが倒れたときだった。
「ああっ、のんびり見守ったりしてたから1人やられちゃった」
しかし過ぎたことを悔やんでいても仕方がない。 エリカは残る3人の窮地を救おうと、ラットリングの群れの真っ只中に飛び込んだ。
誰にも存在を知覚されないのをいいことに、エリカはラットリングの群れを手でかきわけて進む。 エリカに強引に押しのけられてもラットリングはエリカの存在に気付かない。
グイグイとラットリングの間に体をねじ込むようにして進み、エリカはようやくハンター3人の近くへやって来た。 3人とラットリングが戦う最前線では双方が武器や門歯を振り回していて危なっかしいので、エリカが陣取ったのは最前線の一歩後ろ、3人と武器を交えているラットリングたちの背後である。
「よし、ポジション確保」
あとはこれまでに幾度となく繰り返してきた作業を行うだけ。 エリカは白銀に光る長剣を鞘から引き抜いた。 そのときである。 エリカの耳に異様な鳴き声が聞こえてきたのは。
「ギュゲギュギュルーリューギャリギュゲゴ」
エリカはラットリングがこんなふうに鳴くのを聞いたことがない。 独特の抑揚があり、ラットリングには発音が難しいと思われる音も混じっている。 鳴き声の出どころは包囲網の外側にいる小柄なラットリングだった。 なぜ鳴いているのだろうか? エリカが注視していると、そのラットリングの手元が黄色く光り始めた。
(魔法!? ラットリングが魔法を使うというの?)
膨れ上がった光はラットリングの手元を離れ、背丈の低いラットリングの群れの頭上を超えて飛んで来る。 エリカのほうへ飛んで来るが、エリカではなくエリカの後ろにいるハンター3人を狙って放たれたのだろう。 エリカが魔法を回避するのは可能だが、そうするとハンターに魔法が直撃してしまう。
(何の魔法か知らないけど、不死身の私なら魔法に当たっても大丈夫よね?)
痛いだろうけど死にはしない。 エリカは剣で身をかばうようにして、魔法に対し踏みとどまった。
エリカの長剣はミスリル製で魔法もかかっている相当に魔法的な代物だ。 それでもラットリングの魔法は彼女の剣に干渉されず、剣をするっと通過してエリカの胸元に直撃した。
魔法の光が直撃した瞬間、エリカは激しい衝撃に襲われて体全体が痺れ、身動きが取れなくなってしまった。 剣を手落とさないようにするのが精一杯で、座り込むことすらできない。
(痛くはないけど動けない!? なんなの、この魔法)




