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表向きは被害者遺族を支援する宗教法人、裏では加害者を始末する組織に入った俺  作者: 八頭 たける
始動

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4/7

組織誕生の瞬間

雨の前には、いつも静けさがある。

声にならなかった祈りが、

形を持つ直前の、あの沈黙。


これは組織の始まりではない。

誰かが「守らなければならない」と

気づいてしまった、その瞬間の記録だ。


正しさも、許しも、まだ名前を持たない。

あるのは、

失われたものを抱えたまま立ち上がる

ひとりの人間の、決意だけ。


第4話 組織誕生の瞬間


⸻5年前


息子たちを失ってから、

紗江は多くの場所を訪れた。

遺族会、相談窓口、祈りの場。

だが、どこにも「戻ってくる未来」はなかった。


夜になると、涙は理由を失い、

ただ身体の奥から溢れ出した。


「法も制度も、いつだって遅い」


誰かの呟きに、紗江は反論しなかった。

その言葉は、すでに彼女の中で

何度も繰り返されていたからだ。


そのとき、怒りではない何かが、

胸の底で静かに形を持ち始めた。


⸻守られない人を、守る。


それは復讐ではなかった。

祈りとも少し違った。

ただ、「あの日できなかったこと」を

この先で繰り返さないための意志だった。


防刃ベストの重さが、肩に伝わる。

冷たいが、確かだった。


これは武装ではない。

祈りが、形を持ってしまった結果だ。


鏡の中の自分は、

もう普通の母ではなかった。

だが、怪物にもなりきれない。


その曖昧な境界に、

紗江は静かに立っていた。



光苑会という名前が決まった夜、

彼女は一つの原則だけを胸に置いた。


「理解できる人には、手を差し伸べる。

理解しようとしない者には——

立ち止まらせる」


それ以上の言葉は要らなかった。

理念は、説明するものではなく

選択のたびに試されるものだからだ。


組織は、最初から二重だった。

祈りの顔と、沈黙の顔。

どちらか一方だけでは、

守れない人がいると知っていた。



祭壇に並ぶ写真の前で、

紗江は小さく息を吸う。


「守れなくて、ごめんね」


それだけで、十分だった。

誓いは、声に出すものではない。


ローブの下で、

装備の重みが静かに伝わる。


彼女は歩き出す。

まだ名前も形も曖昧なままの組織の、

その中心として。


影は、このとき生まれた。

誰かを裁くためではなく、

誰かを取り残さないために。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


第4話では、

「光苑会が何をする組織か」ではなく、

「なぜ生まれてしまったのか」を描きました。


紗江は強い人物ではありません。

ただ、戻れない場所を知ってしまった

ひとりの母です。


この時点では、

正解も完成形も存在しません。

あるのは、

選ばれてしまった一歩だけです。


組織の全貌や仕組みは、

これから少しずつ明らかになります。

それは、正しくなっていく過程ではなく、

歪みが積み重なっていく過程かもしれません。


次の話では、

この影が「人を巻き込み始める瞬間」を

描くことになります。


もう少しだけ、

一緒に歩いてもらえたら嬉しいです。


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