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表向きは被害者遺族を支援する宗教法人、裏では加害者を始末する組織に入った俺  作者: 八頭 たける
301視点の物語

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3/7

最初から決まっていたのよ

雨は、何も説明しない。

ただ、降り続ける。


近づいたはずの距離は、

触れた瞬間に、別の形に変わってしまう。


似ていること。

置き換えられること。

選ばれなかったこと。


その境目に立ったとき、

人は、自分が何者なのかを言葉にできなくなる。


この夜に起きるのは、

答えではない。

触れてしまった、という事実だけだ。


雨は、静かに降り続けていた。

ざあ……と、アスファルトを叩く音だけが、夜を満たしている。


私は“301”。


そう呼ばれるようになってから、

自分の名前を声に出すことはなくなった。


鏡の前に立つと、

見慣れたはずの顔が、少しずつ遠ざかっていく。


髪の流れ。

瞬きの間。

笑うときの口元。


調整されるたび、

どこかが削られ、別の何かがはめ込まれていく感覚があった。


それが何なのか、

私はまだ、言葉にできない。



少女が事故で亡くなった日。

その少し後から、

私の時間も、同じ場所で足を止めた。


鏡に映る表情は、

泣いているのか、

笑おうとしているのか、

自分でも分からない。


ただ、

308が見るときの視線だけを、

私は知っていた。


その目に映る私は、

本当に私だったのだろうか。



ロッカーに残されたSDカード。

薄く、冷たい。


誰が置いたのか。

なぜ、そこにあったのか。


説明はなかった。


再生された映像に、

胸の奥が、ゆっくりと締め付けられる。


知らないはずの角度。

知らないはずの時間。


それでも、

確かに“そこにあった”瞬間。


308が画面を見るとき、

その視線が、わずかに揺れた。


私は、その揺れを見てしまった。


見てはいけないものを、

見てしまった気がした。



雨の夜。

加害者の家の前。


308は刃を握っていた。

その手は、わずかに震えている。


私は、少し後ろに立つ。

近すぎず、

離れすぎず。


この距離が、

ずっと決められていたような気がした。


彼が振り返る。


その視線が、

一瞬、私を通り過ぎる。


誰を見ているのか、

私は分からなかった。



次の瞬間。


刃が、308の肩に沈む。


KA-BARの重みが、

手首を通して伝わる。


濡れた衣服が裂ける音。

肉の感触。

自分の呼吸の音。


どれもが、

現実なのに、

遠い。


308は、私を見なかった。


その目は、

過去のどこかを見つめている。


私は、言葉を探した。


探して、

それでも見つからず、

決まっていた一文だけが口を出た。


「……悪いわね、308」


それ以上は、

言えなかった。



308が膝をつく。


雨に濡れたスマホの画面に、

少女の笑顔が映る。


「……ごめん」


その声は、

雨よりも小さかった。


胸の奥で、

何かが、静かに崩れる。


肩の痛みではない。

恐怖でもない。


もっと、

形のないもの。


少女と、私。


似ているはずなのに、

同じではない。


それなのに、

一瞬だけ、

境目が分からなくなる。



雨は降り続ける。


血を洗い、

足跡を消し、

それでも、何もなかったことにはしない。


白い花びらが、

地面に貼りついたまま、動かない。


私は、それを踏まないように、

一歩だけ、位置を変えた。


それが何を意味するのか、

まだ分からない。


分からないまま、

世界は静かに濡れていた。


──第4話へ続く


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


第3話では、

これまで輪郭だけが見えていたものに、

手が触れてしまう瞬間を描きました。


はっきりと分かることもあれば、

分からなくなってしまうこともあります。

そのどちらも、間違いではありません。


301が見たもの、

308が見ていなかったもの、

そして雨の中に残ったもの。


それらが何だったのかは、

この先の物語の中で、

少しずつ形を変えていきます。


もし読み終えたあとに、

言葉にならない違和感が残っていたなら、

それは、この物語がまだ終わっていない証です。


次の雨の中へ、

もう少しだけ、付き合っていただけたら幸いです。


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