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表向きは被害者遺族を支援する宗教法人、裏では加害者を始末する組織に入った俺  作者: 八頭 たける
301 が308を始末した後の物語

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復讐の連鎖

雨は、終わったはずの出来事を連れ戻す。

血の匂いは、時間の奥に沈んだ記憶を呼び起こす。


一度、刃を握った手は、

何もなかった頃の形には戻らない。


日常の中に紛れ込んだ違和感は、

静かに、次の一歩を決めていく。


名前を呼ばれない者たちが、

それぞれの理由を胸に、同じ雨の下に立っている。


その距離は近く、

まだ、互いに見えてはいない。


第2話:「復讐の連鎖」


人は、痛みを抱えたまま歩き続ける。

それがどれほど重くても、手放す術を知らない。


雨の匂いが、ふと記憶を連れ戻す。

血の感触が、指先に蘇る。

忘れられない笑顔ほど、静かに息をしている。



組織が指定した地下鉄構内の多目的トイレ。

白く磨かれたタイルが蛍光灯を跳ね返し、音のない空間をつくっていた。


遠くで、水が一滴落ちる。

それだけが、ここが現実だと知らせている。


301は血に濡れた衣服を脱ぎ、圧縮袋に押し込んだ。

指先に残るわずかなぬめりが、脈と同じ速さで鼓動する。


鏡に映る顔を見つめる。

髪も、服も、化粧も、そこにあったはずの名前を映さない。


ガラスに触れると、冷たさが掌から腕へ広がった。

安心と、理由のわからない違和感が同時に流れ込む。


ロッカーに袋を預ける。

扉が閉じる音で、何かが一区切りついた気がした。


人混みへ出る。

ざわめきは遠く、足音は鈍く、鼓動だけが耳の奥で膨らむ。


革の湿った匂いが、過去の残響を引きずり出す。


商店街の外れ。

仏壇店の引き戸がわずかに光り、店先のカスミソウが揺れていた。


「カスミソウ七分咲」


声は、思ったより低かった。


床が静かに割れ、地下への階段が現れる。


湯気のこもる小部屋。

石鹸の匂いと、温かな湿気。

水に触れた血の痕が、薄く広がって消えていく。


水面に揺れる顔に、まだ消えきらない面影があった。

胸の奥が、わずかに疼く。


ポケットの端末が震える。

画面に浮かぶ文字の中で、名前だけが目に残った。


308。


その直後、もうひとつの冷たさが掌に触れる。

小さな金属片。

SDカード。


端末の光と、金属の重みが、胸の奥で沈黙したまま繋がった。



◆ 数年後 — 弟の七回忌


春の光が、墓地の石段を撫でていた。

苔むした灯籠が影を落とし、墓石には雨の記憶が残っている。


手には、弟が好きだったカスミソウ。

花が揺れるたび、懐かしさが胸をかすめる。


道を譲ろうと、わずかに身を引いた、その瞬間。


背後から、衝撃。


右肩を貫く痛みが骨に届き、息が詰まる。

柄杓が跳ね、雨粒と血が混じった。


刃の振動。

冷たさ。

血の熱。


世界が、一瞬だけ歪む。


落としたカスミソウが、雨の中で沈んでいく。

その光景が、遠くから見た一枚の絵のように、妙に鮮明だった。


次の瞬間、視界が揺れ、痛みの色だけが濃くなる。


左手の中に、まだ冷たさが残っている。

SDカード。


あの男がいなければ、弟は死ななかった。


その言葉だけが、胸の奥で繰り返された。


雨が跳ね、血が滴り、鉄の匂いが鼻を刺す。

視界の端で、白い花びらが揺れている。


声にならない息が漏れたが、すぐに雨に消えた。


血に濡れた石段の上で、

白い花びらだけが、まだ形を保っていた。


──第3話へ続く


この度は読んで頂きありがとうございます。


作中の境内の階段での復讐の連鎖は、映画ジョン・ウィック コンセクエンスのエンドロール後のアキラがケインに近づいて行き復讐を予感させるシーンから着想を得ました。


復讐は、終わりのない連鎖を生みます。

そしてその連鎖は、誰の心にも、静かに潜む可能性があります。


第2話で描いたのは、痛みが記憶を呼び覚まし、意思を身体に刻む瞬間でした。

刃を握る手、雨に濡れた衣服、掌に伝わる冷たさ

⸻すべてが、復讐の連鎖の中で生き続けます。


だがその中にも、希望の欠片は残ります。白い花びらのように儚く、控えめで、それでも確かに存在する光。

痛みの中で生きる者たちにとって、その光は次の一歩を示す道標でもあります。

次回は、明日の22:00に更新予定です。

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