あなたの愛、焙煎します。
〜紹介〜
喫茶潮風
愛を焙煎してコーヒーにできる喫茶店。
葉月(60)
店長。
芽亜(17)
依存し過ぎて彼氏に捨てられた女の子。
蘭丸(22)
愛が重過ぎて彼女に振られた青年。
静海(29)
尽くし過ぎて彼氏に振られた女性。
一話 喫茶潮風
喫茶潮風。
"あなたの愛、焙煎します。"
土曜日のお昼頃。
青い空にいわし雲が綺麗に並んでいた。
海岸から少し歩くと小道があり、その一角にお店がある。
潮風の匂いがする場所だ。
木目調のシックな喫茶店で名前は喫茶潮風。
この不思議な看板を目にした人たちは皆一様に喫茶店へと吸い込まれるように入っていった。
カランカランとベルが鳴り、お客が入ってきた。
葉月「いらっしゃいませ」
渋い声とともに現れたのは髭を綺麗に剃り、白髪を七三分けにした清潔感のある60代の男性だ。
カウンター席のみのこじんまりとしたお店だ。
店内はコーヒーの香ばしい香りがする。
二話 依存とカフェラテ
カランカラン。
葉月「いらっしゃいませ」
芽亜はカウンター席の真ん中に座った。
芽亜「カフェラテ下さい〜」
葉月「かしこまりました、それではこちらを持って頂けますか?」
葉月が芽亜に何かを渡す。
芽亜「何これ?」
葉月「焙烙です」
芽亜「焙烙?」
葉月「コーヒー豆を焙煎する道具です」
芽亜「へぇー・・・それで?私は何をするの?」
葉月「それを持ちながら悩みを話して下さい、
そうすると悩みが軽くなるんです」
芽亜「え、本当に?・・・なんかよく分からないんだけど」
葉月「はい、私も深くは分かりません」
分からないと言い切る葉月は嘘をついているようには見えない。
芽亜は占いか何かだろうと思うことにした。
芽亜「私ね、さっき彼氏に捨てられたの」
葉月「ほう・・・」
芽亜「理由聞いたら依存し過ぎで疲れたからって」
葉月「ふむふむ」
芽亜「やっぱり依存したら捨てられるんだよね」
葉月「そうでしょうか?」
芽亜「え?」
葉月「私は依存が悪いことだとは思いません、
単純にその彼とは相性が悪かっただけだと思いますよ」
芽亜「でも・・・」
葉月「愛は巡り合わせですから」
芽亜「あー、おじじカッコつけてる〜」
葉月「おじじ?」
芽亜「だって名前知らないもん、名前なんて言うの?」
葉月「葉月です」
芽亜「葉月さん・・・うーん、やっぱりおじじって呼んでいい?」
葉月「はい、構いませんよ」
芽亜「ありがとー、あ、私はね芽亜って言うの!」
葉月「芽亜さん、可愛いらしいお名前ですね」
芽亜「へへ、ありがとー!」
ポンっ!
するとその時、芽亜が持っていた焙烙の中が白い煙に包まれた。
焙烙がズシっと重くなり、思わず芽亜は両手で持った。
煙が消えるとそこには大豆のような色をした豆が入っていた。
芽亜「わ!?何これ豆!?すごーい!」
葉月「出来たようですね、後は私がやりますね」
芽亜「う、うん」
葉月が焙烙を火にかける。
豆が茶色くなったらコーヒーミルに入れてゴリゴリと挽く。
ドリッパーにペーパーフィルターを乗せる。
その上に挽いた豆を入れてお湯を注ぐ。
それをミルクと砂糖と一緒にマグカップに注ぐ。
葉月「どうぞ」
芽亜「ありがと・・・ごくっ、ん!今まで飲んだ中で一番美味しいかも」
葉月「ありがとうございます」
芽亜「あれ、なんかちょっと心が軽くなったかも!」
葉月「私があなたの愛を焙煎しましたから」
芽亜「おじじまたカッコつけてる〜、
あれ?でも悩みを出したのにまた飲んだら意味なくない?」
葉月「ですが、軽くなったでしょう?」
芽亜「うん、まぁ・・・」
葉月「愛はいらないものではありませんから」
芽亜「悔やしいけどそういうの好きかも」
葉月「ありがとうございます」
芽亜「また来ていい?」
葉月「はい、いつでもお待ちしていますよ」
芽亜はカフェラテを飲み終えるとお会計を済ませてお店を出た。
三話 愛とコーヒー。
カランカラン。
葉月「いらっしゃいませ」
蘭丸はカウンター席の左端に座った。
蘭丸「コーヒー、ホットでお願いします」
葉月「かしこまりました、それではこちらを」
葉月がニコニコしながら蘭丸に焙烙を渡す。
蘭丸「え、どうして俺に渡すんですか?まさか俺が作るとか?」
葉月「いいえ、ただ、最初だけはお客様に手伝ってもらわないとコーヒーが作れないんです」
蘭丸「へ、へぇ・・・、それでこの後はどうすれば?」
葉月「それを持ったまま悩みを話して欲しいのです」
蘭丸「悩みを・・・?」
葉月「はい」
何が何だか分からないまま蘭丸はポツリポツリと話初めた。
蘭丸「分かりました・・・あの、俺、昨日彼女に振られて・・・」
葉月「ほう・・・」
蘭丸「理由を聞いたら愛が重過ぎるからって言われたんです」
葉月「ふむふむ」
蘭丸「最初は我慢してたんです、
でも、心を開いていくうちに段々とタガが外れて気付いたら振られていました、
愛ってどうやったら軽くなりますか?」
葉月「単純にその方とは相性が悪かっただけではないでしょうか?
愛は巡り合わせです、必ずしも出会えるかと聞かれたらはいとは言えませんが、
あなたのように一途に思ってくれる方がいいと言ってくれる方はいると思いますよ」
蘭丸「うっうっ・・・優しいですね・・あの、お名前を聞いてもいいですか?」
葉月「はい、葉月です」
蘭丸「俺は蘭丸って言います」
葉月「蘭丸さん、素敵なお名前ですね」
蘭丸「ありがとうございます」
ポンっ!
するとその時、蘭丸が持っていた焙烙の中が白い煙に包まれた。
焙烙がズシっと重くなり、思わず蘭丸は両手で持った。
煙が消えるとそこには大豆のような色をした豆が入っていた。
蘭丸「おぉ!?凄い、今のマジックどうやるんですか?」
葉月「これはマジックではなく魔法ですよ」
蘭丸「ま、魔法?そうですか・・・」
葉月が真顔で言う。
とても嘘をつくタイプには見えない。
これ以上水を刺すのはどうかと思った蘭丸はマジックだと思うことにした。
葉月が焙烙を火にかける。
豆が茶色くなったらコーヒーミルに入れてゴリゴリと挽く。
ドリッパーにペーパーフィルターを乗せる。
その上に挽いた豆を入れてお湯を注ぐ。
それをマグカップに注ぐ。
蘭丸「うわ、美味しい・・・」
葉月「ありがとうございます」
蘭丸「少し気持ちがスッキリした気がします」
葉月「それは良かった」
四話 母性とほうじ茶
カランカラン。
蘭丸「あ、お客さん来ましたね」
葉月「はい」
葉月「いらっしゃいませ」
静海はカウンター席の右端に座った。
静海「ほうじ茶をホットでお願いします」
葉月「かしこまりました、それではこちらをお持ち下さい」
そう言って葉月は静海に焙烙を渡した。
静海「あ、あの?・・・」
静海が戸惑っていると葉月が喋る前に蘭丸が話しかけた。
蘭丸「それを持って悩みを話すと中身が出来上がるんですよ」
静海「え?」
蘭丸「なんかマジック、じゃなかった魔法らしいです」
静海「へ、へぇ・・・教えてくれてありがとうございます?」
蘭丸「いえいえ・・・あ、悩み話すなら俺聞かない方が良いですよね、
しばらく外に出てましょうか?」
蘭丸が立ち上がる。
静海「そんな悪いです、それに私なら聞かれても大丈夫ですから」
蘭丸「そうですか」
蘭丸がストンと座る。
葉月「お気遣い感謝します」
蘭丸「いえいえ」
静海「あの、実は私、数年前に恋人に振られたんです」
葉月「ほう・・・」
静海「尽くし過ぎで疲れたからって言って」
葉月「ふむふむ」
静海「それから怖くて恋愛をしなくなりました、
最近は可愛いものを買ったり見たりするのが趣味でなんとか気持ちを保ってますが」
葉月「あなたは母性がお強いのですね」
静海「こういうの母性って言うんでしょうか・・・
でも、彼にとってはいらないものだったのかもしれませんね」
蘭丸「お姉さん、俺はいいと思いますよ」
静海「え?」
葉月「はい、私もそう思います」
静海は二人の顔を交互に見るとお礼を言った。
静海「ありがとうございます・・・」
ポンっ!
するとその時、静海が持っていた焙烙の中が白い煙に包まれた。
焙烙がズシっと重くなり、思わず静海は両手で持った。
煙が消えるとそこには綺麗な緑色をした茶葉が入っていた。
静海「え、す、凄い・・・」
葉月「後は私がやりますね」
静海「は、はい・・・」
葉月が焙烙を火にかける。
葉が茶色くなったら急須に入れてお湯を注ぐ。
それをマグカップに注ぐ。
静海「ん〜いい香り・・・ごくっ、美味しいです」
葉月「ありがとうございます」
静海「はぁ・・・なんだかホッとしますね」
葉月「それは良かった」
静海がお会計を済ませて外へ出る。
そのすぐ後ろを蘭丸が歩いていく。
蘭丸「あの、お姉さん」
静海「はい、何でしょうか?」
蘭丸「また会えませんか?」
静海「え?」
蘭丸「急にすみません、でも、お姉さんなら俺の気持ち分かってくれそうだなって・・・勝手にそう思っただけなんです、すみません」
静海「・・・来週の今日と同じ水曜日、同じ時間にまた来ます」
蘭丸「え・・・あ、俺も来ます!」
蘭丸は勢いよくペコリとお辞儀をすると走って行ってしまった。
静海はその後ろが見えなくなるまで秋風とともに見守っていた。
半年後。
桜の木の下。
蘭丸「すみません、お待たせしました!」
俺が声を掛け、
振り返ったその人はこちらを見てニコッと微笑んだ。
五話 三年後
蘭丸&静海
蘭丸「静海さ〜ん」
蘭丸のアパートの部屋。
静海が部屋に入るや否や蘭丸が抱き付く。
しばらくゴロニャンゴロニャンしてからはたと気づく。
蘭丸「はっ・・・すみません、俺最近会うたびずっとベタベタしてますよね、重かったですか?」
咄嗟に蘭丸が離れる。
眉毛が八の字に下がっていた。
静海「全然重くないわよ」
蘭丸「ふふ、静海さんならそう言ってくれると思ってました」
静海「分かってて聞いたの?」
蘭丸「だって不安で・・・ごめんなさい」
静海「違うの、責めたんじゃないわ、不安にさせてごめんね」
静海が蘭丸の頭を優しく撫でる。
蘭丸は気持ち良さそうに目を細めた。
蘭丸「あの、これ聞くの怖くて迷ってたんですけど・・・怒らないで聞いてくれますか?」
静海「ええ、もちろんよ」
蘭丸「俺、この先もずっと静海さんと二人きりで生きていきたいと思ってるんです、ダメですか?」
静海「ダメじゃないわ、私もそうしたいと思ってたの、
ただ、蘭丸君が同じ気持ちじゃなかったら無理をさせてしまうと思って合わせるつもりでいたわ」
蘭丸「そんなの・・・俺の願いが叶ったって静海さんが同じ気持ちじゃなかったらダメですよ」
静海「ありがとう、だけど同じ気持ちだって分かって良かったわ」
蘭丸「あの、本当にいいんですか?・・・」
静海「ええ」
蘭丸がぎゅーっとし直すと静海をそのままベッドに押し倒す。
静海「ねぇ、あれから三年経つけど私とするの飽きないの?」
蘭丸「飽きないですよ、だって一日経つごとに好きが増してくんですから」
ギラギラした目で蘭丸が言う。
静海「ビクッ・・・お手柔らかにお願いね」
蘭丸「はーい♪」
芽亜&葉月
葉月「最近、彼氏さんとはどうですか?」
芽亜「仲良くやってるよー」
葉月「それは良かった」
芽亜「はーあ」
葉月「どうかしましたか?」
芽亜「私ね、今まで歳上で頼り甲斐のある人しか付き合いたいと思わなかったの」
葉月「ほう・・・」
芽亜「だけど今の彼氏は全然違うんだ」
葉月「と言いますと?」
芽亜「タメだし、慌てやすいからすぐ転びそうになるし、気が弱いし、いっつも寝癖酷いし、
だから私がいつも直してあげてるの、
それにね、一緒にいる時はいっつも私の後ろくっついて回るんだよ」
葉月「おやおや・・・それならば何故お付き合いを?」
芽亜「なーんか放って置けないんだよね、変かなぁ?」
葉月「いいえ、お二人は相性が良いのだと思いますよ」
芽亜「そうかなぁ?」
葉月「はい」
芽亜「ねぇ、ずっと気になってたんだけど、
おじじって愛が重いタイプ?」
葉月「さぁ、芽亜さんからはどう見えます?」
芽亜「んー、重いってゆーか一途そう!」
葉月「そうですね・・・一途かはさておき、妻以外とお付き合いをしたことはないですね」
芽亜「え!嘘!?でもでも、遊んだことくらいはあるでしょ?」
葉月「ないですね、妻以外にそういった感情を抱いたことがないので」
芽亜「マジか・・・おじじってめちゃくちゃレアな生き物じゃん」
葉月「そうですか?」
芽亜「ひょっとしておじじ、このお店の中で一番愛が重かったりしてー?」
葉月「さて、どうでしょうね」
芽亜「おじじ生意気〜」
葉月「すみません、無駄に歳を取っていますので」
芽亜「でもー、そういうの好きかも〜」
潮風喫茶。
"あなたの愛、焙煎します。"
カランカラン。
葉月「いらっしゃいませ」
海の近くのどこかにある喫茶店。
今日も彼は愛を持て余している人を救っている。




