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1. 言い伝えの巫女と苦労性の従者

少し短めです。

(いにしえ)より、翡翠の瞳に、輝くような金髪を持った女性が、フィクタール帝国の皇族に現れるーーーーー」



 そして、現れたらその者は、必ず国を豊かにするだろう。


♢♢♢


「言い伝え? そんなものバカバカしいわ、信じる方が馬鹿ってものよ」



 ざっくりと言い切ったのは、翡翠の瞳に輝くような金髪を持った第一皇女、アリシア。



「殿下、それはぜーーーーーーーーったいに! 人々の前で決して! 言わないでくださいね! 貴女の評価が落ちますから!!!」



 ぐ、と力を込めてアリシアに厳重注意したのは、彼女の従者、ケヴィン・ルミシエだ。



「あら、思ったことを言って何が悪いと言うの? この国では表現の自由が保障されているはずよ」

「そう言う問題じゃありませんって!」

「じゃあ、どういう問題なの?」



 しれっと返したアリシアに、ケヴィンはため息をつきながら説明する。



「殿下の、周りからの評価が落ちるんですよ? 貴女さまは皇女さまでいらっしゃいますから、周りからの信頼が重要なのです。特に、殿下は『言い伝えの巫女』にそっくりでいらっしゃいますから、信者のように崇拝してくれている貴族たちが何人もいます」



 そこまでは分かりますよね、とケヴィンが確認する。



「ええ、分かるわ」

「もし、その方たちが、殿下の支持をやめたらどうなるか分かりますか?」

「さあ・・・? どうなるの?」



 どうしてもすっとぼけたような返答を繰り返すアリシアに、ケヴィンが青筋を立てる。



「殿下も、皇族として皇位継承権をお持ちです。今は、皇太子殿下がいらっしゃいますし、貴女さまにも、支持層がいますから、パワーバランスが安定しているのですよ」



 今は兄は皇太子という名を受け継いではいるが、今後の状況によってはアリシアや妹が皇太女として立太子することだってあり得る。



「ふうん、なるほど。それが崩れることを恐れているのね?」

「そうです。パワーバランスが崩れてしまうと、内戦になりかねない。そういう火種をお持ちなんですよ、殿下は」



 それをご自覚ください、とケヴィンが言うと、アリシアは意外にも真面目な顔で頷いた。



「分かったわ、言わなければ良いのね?」

「心の中で思って、態度に出すのもダメです!」



 すかさず、ケヴィンが牽制すると、アリシアはにこっと笑うと、あら残念、とちっとも悪びれずに呟いた。


 その姿に、ケヴィンがまたもや青筋を立てる。



「まあ、怖いわ。少しは穏やかな顔をなさいよ、ケヴィン? それより、わたくしは少し休むわ。庭園にお茶会の用意をしてくれるかしら?」



 うふ、とわざとらしく上目遣いで微笑むアリシア。ケヴィンは仕方なさそうなため息をつき、



「すぐにご用意いたします。皇太子殿下もお誘いになりますか?」

「あら、良いわね。お兄様、お忙しくなければぜひ、と言ってちょうだい」

「かしこまりました」



 頷くと、すぐにメイドたちに指示を出し、自身は皇太子の執務室に向かうケヴィン。後ろ姿を見送りながら、完璧な笑顔を浮かべていたアリシアは、完全に部屋から彼がいなくなったのを確認して、ほうっとため息をついた。



(良かった・・・。今日も格好良すぎて、心臓がもたないかと思ったわ)



 そっと悩ましげにため息をつくその姿は、はたから見れば、とても優雅で美しい景色だった。まるで、絵画になりそうなほど、うっとりしてしまうほど。


 理知的で、どこか抗えない魅力を兼ね備えたような、不思議な翡翠の瞳。美しい光をたたえたその瞳は、慈悲深いものだった。艶があり、綺麗にまとめられた金髪。しっとりと濡れたような唇。ほっそりとしたフェイスライン。


 どこをとっても、アリシアは完璧な容姿をしていた。だが、彼女はそのことに一切気づいていない。自分の魅力に気付かぬまま、柔らかな笑みや悪戯っぽい笑み、可憐な笑み、などなどを浮かべるたびに、ケヴィンの心臓が爆発しそうなほど激しく鼓動を打っていることも、もちろん気づいていない。


 もうお分かりだろうか。


 この二人はいわゆる、『両片想い』というやつなのである。


 しかし、お互いに主と従者という立場であることや、「相手が自分のことを好き? そんなわけないだろ! 精神」で、全くお互いの気持ちに気づいていないのである。


 ややポンコツなこの二人の恋路の行方は、天の声である()()()にも分からないのであったーーーーー。

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