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創造世界  作者: ナンパツ
第四章 ロジバルト
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第六十五話


 その記憶を観測した時、ユアンは絶句し、慟哭する。一人の男の人生が詰まった空気を、彼は数秒のうちに吸い上げてしまったのだ。心身が麻痺して、とても正常な心を維持出来なかった。

 

 「........ぁ?」


 数分の慟哭が終わると、いつか見た男の周囲のように、ロジバルトの民が血溜まりに倒れていた。あれだけ活気のあった町並みも、男の化体が無に帰してしまった。


 「ああああぁ...!」


 ユアンには、創造する力など残っていなかった。己の脳天を突く剣を想像しても、現実に現れることは無かった。

 男の死体がそこにある。観測した記憶の持ち主は、人間の形を辛うじて保っている。息をしていない身体の近くに、注射器が転がっているのが認められた。

 ユアンはそれを手に取るのだ。その時には、死なないといけないという強迫観念は薄まっていた。


 「...?」


 啜り泣きのような音が、誰もいない空間に響く。ユアンはいくらか呆然としたまま音のする点を眺めていたが、音の意味を理解した瞬間、覚醒したように身体が動く。

 瓦礫の間に挟まっていたのは、小さな小さな男の子であった。頭を抱えて怯える男の子は、ゆっくりと顔を上げる。

 恐怖に染まった瞳が、ユアンを映す。

 二人の人間が、男の過去を見たのである。

 その後、ユアンは英雄となり、貴族の称号を貰うことになる。己の力で獲った悲願を、彼はどこか上の空で受け取った。

 注射器のことを誰にも言わずに、彼は何食わぬ顔で生活する。


  ◯


 意識が戻れば、目の前の景色は一変していた。王都を覆い尽くした風船は綺麗さっぱりなくなっており、絢爛たる王城が、権威を一纏めにして聳え立っている。


 「今のは」

 「な、なななんで..?!」

 「何よこれ!」

 「頭痛ぇ..」


 各々が、ユアンの記憶を観測したのだ。彼等は困惑しているが、ただ一人だけ、ナキだけが、王都を見据えていた。

 ネリアから飛び上がり、目と鼻の距離になった王都を駆け上がる。足場を飛び上がり続けると、漸くナキは帰国した。遠くに聳える王城の化体が、秘めた郷愁を刺激する。帰ってきたという感慨が、全身に溢れてくる。

 しかし、幸福はいつまでも続かない。必ず終わりが来るし、そも、人は本当に見たくないものを見てしまった時、都合の良いように錯覚してしまうものだ。

 ナキの目の前に起こっていることは、とても信じたくないことだったし、信じられないことだった。

 少なくとも。

 ナキの視界範囲のロジバルトに住む人間達は、自殺を試みていた。

 

  王律法


 第一法 

 ・王は、我々ロジバルトの民の象徴であり、絶対的に正しい。

 

 創造した得物を脳に突き刺し、自身の生命活動を停止する。訳も分からず取り残されているのは、まだ年端もいかない子供達。次々と死んでいく大人達を、彼等は直視していた。


 「ママ!やめて!」

 「死ななきゃぁ...、死ななきゃぁ!!」

 「なんでこんなこと..!」

 

 二人の兄妹は、自殺しようとする母親を必死に制止する。母親は狂乱し、創造された短剣を脳天へと定めている。子供達の声など聞こえず、王律法を守ることにのみ焦点を置いていた。


 「ママっ、ママあぁぁ!!!」


 幼年二人の力は大人一人の力に勝てず、ずるずると母親の創った短剣が、乱雑に脳へと入っていく。母親の死を目の当たりにした被保護者達は、脇目も降らず絶命した母親の身体にしがみついていた。彼等はまだ、生きていると信じている。


 「嘘だ...」


 ナキは、蹌踉めく足取りを懸命に堪えながらも、速度を上げていく。自殺していく群衆の中を、目まぐるしく見回しながら全速力で走る。

 どれくらい走っただろうか。頭の中にあるのは、ロジバルトにいる家族や友達のことである。もはや自殺する者は皆無だ。王律法に遵死する人間達は、もはやこの世にいないのだから。残された者達が泣き喚き、呆然とし、事態を飲み込めずに突然の艱難辛苦を飲み込むことを強要された。


 「!」

 

 絢爛な町並みに、死体達が不似合いに地面を飾っている。かつては商店街として栄えていたであろう通りは、地獄の園へと変貌してしまっていた。

 その通りに、ぽつんと一つ、佇む人影がある。ナキは息を呑み、頭の中で想像していた人物を生み出すために、焦りと希望に蹌踉めきながらも走り続けた。

 背中を向ける少女が、死体の中に立っている。

 生きている。


 「アイザっ!」


 背中に呼びかけ、少女の後姿を凝視する。息を継ぐのも億劫に、ナキは懇願するように、少女の顔を見たかった。

 少女は振り返る。

 赤く大きな瞳。快活な調子を孕んだ少女は、彼の幼馴染だ。いつでも彼の支えとなり、ナキがこれまで耐え抜いてこれたのは、間違いなく彼女のお陰だった。

 アイザは片手を上げていた。片手は彼女自身の脳の辺りに止まっている。握った手のひらの中に飛び出すのは、創造されたナイフである。

 目を見開くナキに、彼女は笑いかけた。まるで全てが報われたみたいな笑顔を、アイザはナキに向けるのだ。


 「やっと会えた」


 脳を刺す音が、やけにゆっくりと、強烈にナキの胸を斬り刻み打ち立てる。

 目の前で自身の脳を刺した幼馴染は、抵抗なく地に伏せた。


 「アイザ...?」

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