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創造世界  作者: ナンパツ
第三章 龍人の里
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第五十九屋


 逃げるという選択肢もあった。逃げないことの方がおかしいかもしれない。ナキ達生き残りは、いつの間に綺麗になった里を眺めている。丘の上から見る景色は既に暗澹としていて、踏みしめるごとに鳴り響く揺動が耳朶をはためかせた。ゼラニムの正確さに息を呑みながら、ナキは懐かしき王城に相まみえる。

 王城の周りに大地が付いており、その上に家屋が建ち並んでいる。他にも、雑多な店頭が並んでいるに違いない。動いているのは城だけではなく、王都そのものも然りだった。


 「はは...」


 誰もが笑うしかない状況で、全員腹を括る。

 正直、彼等にはどうすることも出来なかったのである。大陸の外に逃げるにしても、頼みの龍人は四人しかいなくなってしまったし、彼等もその気は微塵もない。この地のどこかに雲隠れをするというのが現実的ではあるが、しかしそれは一つのことを試してからである。

 

 「あの中に、ロジバルトがいるんだね」

 「ああ」


 答えながら、彼女の過去を思い出す。

 カイルでは、闇取引なるものも横行していたようで、人身売買だって当然だった。ルフリアは幼い頃に両親から売られ、商品とされていたのだそうだ。


ーー「そこで、教育をうけたの。勉強をやらされて、殺し合いをさせられて、自我なんて出したら即刻首を切り落とされる。そんな場所」


 ルフリアの送られた場所は、済世の陣と呼ばれる宗教施設だった。それは細々とした、小さな宗教団体だ。会員になれば誰でも高等教育を受けた頭脳や、戦闘能力に優れた能力になれるという。


 「私は戦闘課に入れられた。どんな創造でも破れない堅固な牢屋の中に数人で入れられて、戦闘レベルを測られながら生きてた。選別された後だから殺しは無かったのが唯一の救いだけど」

 

 頭脳課は、頭のいい人間になれる。高水準の学校に入れるし、仕事にも困らない。戦闘課は、主に獣の討伐をするハンターや、王宮を守る兵士などになる為に使われる。

 創人や無創人を対象に、済生の陣は活動していた。まず、買った子供を教育する。彼等は最初に、自分達の子供を対象にしたそうだ。効力を目の当たりにした信徒達を集め、裏の町を知っている者達は口々にこう言うのだ。

ーー「改造屋」

 人格を改造する施設として、済生の陣は一定の立場を得ていた。

 そして、人格はどうやって変わっていくのか。


 「創人や無創人が、幼い頃から私達の血を飲み続けること。そうすれば、飲んだ人間は段々と、知識や技能を身につけていく」


 血は濃ければ濃い程、吸着する度合いが変化する。血液型が同じであれば、効能は速く現れたり、効果が増大したりする。


 「自我もなく生きていた私を外に出したのが、皮肉なことにあの紫色の大男だった。あいつは牢屋を破壊して、済生の陣は跡形も無くなったの」


 突如現れたフツルギドウシの襲来に、済生の陣は一瞬で崩壊した。生き延びたルフリアを拾ったのが、セディア・ゴッドラメアという、まだ少女だった頃の彼女だったのである。

 セディアはルフリアに色々なことを教えた。フツルギドウシがカイル中を壊滅させているなか、彼女の包容力が、少なからずともルフリアの心を開花させたのだーー

 だから彼女は、逃げる訳にはいかない。

 ナキ、ルフリア、イト、キョウ、ネリア、キノ、ガラン、大蛇、ハロドラ、ハクビ、ベーレ、センプウ、そしてゼラニム。後の二人を除き、十一人の生き残りは本質的に、立ち向かう選択肢しか残されていない。

 地鳴りは増大の一途を辿り、彼等は対抗する様に精神を統一させる。雫が一滴落ちる感覚がすると、ナキは目を開く。

 ロジバルトの王都が、目の前に君臨した。

 四足歩行で動く王都は、大樹の付近に四足を畳む。王都自体が化体だったなんていうことは、今更驚いても益は無い。

 ここからは、無益な信頼かもしれない。

 ナキは仮面を被り、深呼吸する。背後からガランの声が、冷たく反響する。


 「そんなに長く待てないよ」

 「分かってる」

 「駄目だったら逃げるから。まあ、逃げれるかも分からないけど」

 「あぁ」

 「...本当に君の記憶が正しいのか、僕には分からないけど」

 「...?」

 

 ガランは傍迷惑そうに、ナキの仮面を見つめた。視線が交差したのはこれが初めてではないか。ささやかな幸福が漲るなか、ガランの目は更に窄められた。


 「君も色々あったんだな」

 「?!」


 脳が弾けたような感覚がした。世界が爆発したような衝撃は、仮面に伝導する。震える仮面を君悪そうに見届けて、ガランはしかめ面になってしまった。それでもナキは、ガランのたった一言が嬉しかった。あれだけ嫌われていたと思っていたのに、彼の方から歩み寄ってくれたことが、途轍もなく嬉しかったのだ。


 「はっはは。これはどうにかなる気がしてきたぞ」

 「キノ。どういう意味」

 

 暫く這う這うの体で喜んでいたナキであったが、王都を見れば、段々と冷静になっていく。

 これからナキがしている事は、ユアンとの約束だった。九年前の大事件により両親を失ったナキを、養子として受け入れてくれた貴族。英雄ユアンとの約束を、ルフリアに問われるまで何故思い起こせなかったのだろう。

 

 「準備は良いか」

 「ああ、頼む」

 

 ゼラニムの不機嫌な問いに、ナキは当然の如く答える。

 ユアンは、何をもってあんなことを言ったのだろう。少なからずあの一言は、ちょっとやそっとの覚悟じゃ言うことは出来ない。何故ならロジバルトの民なのだから。

 希望と不安をないまぜにした心境で、ナキは王都を見守っていた。

 

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