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創造世界  作者: ナンパツ
第三章 龍人の里
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第五十五話


 目が覚めたような気がした。あれだけ身も心も地獄に苛まれていたというのに、覚醒した意識は沈着そのものだった。長い走馬灯はナキの記憶ではなく、レッドレットという謎の男の記憶である。だからこそ冷静になれたのだ。

 

 「くたばれ。永遠に」


 ジキラの剣が、ナキの首元を差し向ける。

 

 「.....」


 ナキはこの時、友の剣を認識することを怠っていた。切断された四肢も、溢れる血液も痛みも忘れ、ナキは、確かなヒントを掴んでいたのだ。

 

 「そうか」


 怒り狂った獅子の仮面の、ひび割れた隙間から、ナキはレッドレットの記憶を掴んだ。そしてそれは、最悪の状況を打開し得る切り札として機能する。レッドレットの人生の終着点に、それはあった。

 ナキが何故、人と違ったのか。

 ナキが何故、悪魔と成っても生きているのか。

 ナキが何故、別の人間の記憶を持っているのか。

 遠くには獅子がいる。壊れかけた仮面と同じ顔を持った、馬鹿らしくなるほどに強い化体が、人影の前に立ちはだかっていた。

 獅神ライギルド。守護神と呼ばれた獅子の化体は、数多の生命を屠ってきた鉤爪を、座り尽くす人影へと誅殺せしめようとしていた。

 ジキラの剣が、無機質に振り上げられる。瞳には感情の色は見えず、何の価値の無い悪魔の命を絶とうとしていた。

 ナキは想像する。

 大蛇の中にいた、大男となったジェメド。彼女は創剥により、強大な力を得た。なりたいものになったが、代償として正常な判断を失うことになった。ロドスの話においても、創剥という特性は恐れられてきたのだ。意思を忘れ、理性の飛んだ化物として語られていた。

 しかし、現在、常識は覆されようとしている。

 目の前には、幼い頃から知っている、獅子の化体が存在していた。


ーー 「ナキナキ!じゃん!」

 「うぇ!!なんだぁそれ!」


 アイザの声に振り返ると、鬼のような形相の、獅神ライギルドがそこにいた。どうやら、仮面のようだ。守護神様とはいえ、鬼のような形相ともなれば、流石に吃驚してしまう。

 ナキの反応に満足したのか、仮面を取ると、アイザが楽しそうに笑っている。


 「これ、あげる」

 「え?」

 「ナキに合ってるよ?」

 「いつも怒ってるってこと?」

 「ぐつぐつ何か疑ってるみたいな!」ーー


 ナキは創造する。

 獅子の両脚は、踏み込みをせずとも大地が歪み、着地でさえ敵に恐怖を抱かせる。獅子の両腕は、勇猛な鉤爪をその地に下ろし、荒れ狂う高波だって切り伏せるだろう。獅子の胴体は、暴走しかねない精神を繋ぎ止め、どんな攻撃にだって耐え得る鉄壁である。獅子の尻尾の切先で、幾人幾体が犠牲になったことか。ダイヤモンドを軽々とのける貫通力は、夥しい数の死骸をつくりあげた。

 怒り狂った様相も、覇気を伴う逆立つ毛並みも、全てが圧倒的。一噛みするだけで万物を砕けるのに、溢れ出る気骨が獅子を更に強くする。

 ナキの被る仮面は、その獅子を模したもの。

 亀裂が塞がっていく。拡がり四散しかけた仮面が、創造により崩壊を免れた。

 ナキの両脚が、大地を揺らす。


  ◯

 

 意識が朦朧としている。鈍い思考を懸命に動かしながら、ルフリアは周囲を見渡していた。戦斧を持った暴虐の化体はどうなってしまったのか、それすら判然とせぬままに、死骸の宝庫と化した里にいる。

 視界を阻む血濡れた銀髪を掻き上げもせず、ルフリアはようやく生存者達を認めた。キノが、土塊に収まり悪く倒れている。頭部だけとなった大蛇が、うつ伏せとなったガランを守るように、周りを彷徨いていた。遠くにネリアの影が見え、傍には二人の人影がよろけながらも動いている。


 「....」


 残る二人を見つけようと、傷ついた身体を叱咤して立ち上がる時、銀髪の少女は異様な空気を感じ取る。

 

 「....はぁ」


 ロジバルトの鬱陶しさといったらキリがない。立ち上がるだけで疲労する体力を無視して、蟠る殺意に目を向けた。

 力の塊が、ルフリアを睨んでいる。鋭気に孕む獅子の瞳が、銀髪の少女を映し出していた。

 獅子は悠然と、一歩一歩地面を踏み締めていく。獅子に跨る糸目の想起士が、冷厳な眼光をルフリアへと突きつけた。

 右腕を上げる。銀の細剣を創造し、なけなしの敵意を相手にぶつけてみせた。挑発を込めて笑顔を向ける。小さくなっていた獅子を馬鹿にするような笑みは、想起士のプライドを大いに傷つけた。

 獅子の鉤爪が上がる。振り下ろされる速度に、彼女は反応することが出来なかった。意識だけが死を理解するが、最後の最後まで、思考を止めることは無い。連続する時間の中でルフリアは、勝利の軌跡を創り続けていた。

 その時。

 大地が揺れる。

 圧倒的な獅子の顔面が、急激な変化と同時に歪んでいく。頬に当たる何者かの拳が、獅子の体躯を空中へと放り出した。森の大木は受け皿とならず、獅子の化体は大きくぶっ飛んでいく。

 掲げた右腕を、だらりと垂らす。ルフリアは静かに、到底信じることが出来ない光景を目にしていた。

 目の前には、人型の獅子が立っている。それは両脚で立ち、前傾姿勢に両腕を垂らしていた。

 顔を隠す仮面が、正体を鮮明に告げている。

 同世代の少年は、圧倒的な力を持って、この場に飛来した。

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