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創造世界  作者: ナンパツ
第一章 違和感
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第五話


 戦闘訓練、乗馬訓練、講義、遠征、創造教科...兵舎が終われば牧場に行く。その繰り返しを、かれこれ三ヶ月は続けている。未だに、リリーは乗馬させてくれそうもない。全く仲良くなってもいないのに、早々に名前まで付けて虚しい始末だ。

 

 「あっははは!」


 後ろでロックがはしゃいでいる。それを見て、少し安心する。一人でこんなに長い間悩んでいたら、焦って足元が狂いそうだ。そして、こんなに長い間、動物に好かれるロックに何の興味もなさそうなリリーにも安心する。醜い安心に罪悪感を抱きながら、やっぱり焦る。

 そんな苦悩にももう飽き飽きだった。四ヶ月である。兵舎に来て四ヶ月。焦りという段階すら消えている。もっと他にやることがある。そんな事も言われる。ただ、どうしても違うのだ。今の乗馬訓練での天馬は、三ヶ月となっては、流石に連携も取れてくるし、人懐っこくもなっている。

 嫌なのだ。甘えられたら、気分が落ち込む。それが耐えられない。これまで犬や猫を撫でても、頭をすりすりされてもこんな思いはしなかったけれど、天馬は駄目だ。何故かは分からないが、どうしても、受け付けられない。

 聞くものがいたら嫌な顔をすると思うけれど、これがナキだ。仕方ない。そう自分を位置付けて、毎日毎日リリーに会いに来ている。リリーには、こんな思いは抱かない。これも、ナキだ。

 三ヶ月目辺りから、飼育員に世話を任される程である。なんでも、リリーは飼育員にとっても扱い難い天馬だとか。飼育員はリリーを見て面倒くさそうに話していた。


 「元々こいつらは人懐っこいんだが、こいつは餌をやっても食べないわ、毛並みを整えてやろうとしても振り払ってくるわ、あげくに俺の顔を見るだけで睨み付けてきやがる。扱いにくくてしょうがねえ。兄ちゃんに任せる」


 と言って、ブラシやら餌やらをナキに押し付けてきた。その態度にもやもやはあるが、とても有難い。

 

 「餌は食べる。毛並みは整えさせてくれる。睨み付けても来ない。飼育員よりは、俺の方が良いんだな」


 声に出してみると、割と元気が出る。リリーは寝ている。ナキなんか眼中に無いのだろう。だけれど、触らせてはくれるし、話しかけてもその場を去ったりしない。思わず、笑みが広がる。こうしている空間が、本当に幸せだった。


 ◯


 「ナキ!」

 「アイザ?!」

 

 翌日、兵舎が終わり、牧場に向かおうと思っていた矢先に、赤髪の少女がナキを待っていた。少女はぷっくりと頬を膨らませて、大きな目を凄めている。


 「な、なんで、ここに?」

 「なんでもなにも!どうしたもこうしたも!」


 肩を怒らせて、右手からパラっと紙をひらひらさせる。ナキの書いた手紙だ。


 「三ヶ月も天馬探してるなんて、長すぎ!」

 

 図星。

 

 「だから私が来たの」

 「た、頼んで無い」

 「知ってる」


 ニマッと笑って、手紙をくしゃっと潰した。そして、大胆不敵にこう言った。


 「ナキ、怠けてるでしょ」

 「怠けてなんか..」

 

 ない、と言いかけて、口を噤む。今までの生活を振り返って、思い澱む。

 兵舎での生活は、本気で取り組んでいる。力を見せつけて、ナキの順位は二十二位にまで上がっていた。だが、これでは圧倒的に足りない。もっと、もっと力をつけて、順位は上がると確信にも似た悔しさがある。

 ただ、天馬については。

 ナキの反応を見て、アイザは嘆息する。そして、横にいるロックの方へと顔を向けた。


 「ごめんなさい。あと一言だけ」

 「う、うん」


 困惑気味のロックが頷くのを見ると、アイザはナキを睨みつける。その目に恐怖を感じて、思わず後退した。


 「さっさと見つけて遊ぼうよ!!!」


 とてつもなく大きな声で、アイザは叫ぶ。赤髪がふわりと上がり、ナキの目には、獣の咆哮のように見えた。その声は、ロックの鈸よりも大きく響いた。

 すっきりした、という顔で、アイザは晴れやかに、真剣にナキを見る。その顔を見たら、なんだか拍子抜けした。

 

 「分かったよ」


 そして、霞が一旦晴れた。


 ◯


 「リリー。...いや、違うか?」


 いつも通りに名前を呼んだが、次第に違和感が募る。そもそも、ナキが名前を付けていること事態、変な話だ。呼びやすいようにそう呼称するだけならいい。むしろ、最初はそうだろう。最初はそうだった。ただ、そこには次第に愛情や親しみが含まれてしまう。天馬においては、ナキには気の毒に思えてならない。


 「俺は、ナキって言うんだ。ナキ。賢いから分かるんだろ。お前、結構賢そうだし。もう三ヶ月って言うのに、名前すら言ってなかった。ごめん」


 天馬は賢いと言っても、人の言葉まで解する訳では無い。何を言っているかも分からないだろう。でも、何を伝えようとしているかは分かるんじゃないか。


 「俺さ、最初ここに来た時、やる気が出なかった。正直今でも出ない。けど、お前を見た時、ちょっと感動した。言い方がわからないけど、感動した」


 天馬は以前眠ったままだ。耳をピクピクさせながら、寛いでいる。多分、聞いていると思う。

 アイザを思い出して、精一杯息を吸う。


 「一緒に行こう」


 どこに?そんな疑問が心の内にひしめいた。ただ、これがナキの気持ちだ。

 三ヶ月もいたというのに、急な展開に心臓がバクバクする。こんなになるまで何故、現状維持を保っていたのか、本当に分からない。これでは、恥ずかしくて俯いたという方が妥当だ。


 「...」


 数秒俯いた後、顔を上げる。天馬は目を開けて、こちらを見ていた。少しやさぐれた目に、妙に親近感がある。

 数秒、見つめ合う。ふと、天馬が目を逸らしてしまうのではないかと、不安になった。その不安は益々増えて、ついにナキは目を逸らしてしまう。


 「ま、また、来る」


 立ち上がって、天馬に背を向ける。まだここいたいと思っていても、懸命に振り払う。そうだ。また来ればいいのだ。また、来れば。


 「ナキ」


 声がして、立ち止まる。見ると、ロックが真剣な顔で、ナキを見ている。


 「一回、振り返ってみて」

 「え?」

 「いいから」


 言われて、振り返る。振り返ってみると、以前のまま、天馬がナキを見ていた。ロックが少女のようにはにかむ。


 「大丈夫だよ」


 ロックの言葉を横に、天馬と見つめあう。そうして、ようやっと、天馬探しは幕を終えたのだった。


 ◯


 馬の嘶きと剣戟が、至る所で鳴っている。天馬が翼をはためかせ、相手の天馬と相対する。天馬の上には、人が乗っていた。馬の背、鞍に乗った人間が、木剣を交える。その木剣が交わる時に、ナキは創造する。木剣が、とても大きくなる。大きくなる。大きくな...。


 「がはっ...!」


 創造の途中に、いつの間にか、胸の辺りに衝撃が来た。ジキラが体をうまく動かして剣を交わし、胴の辺りに剣を打ち込んだのだ。ナキは涎を吐きながら、俯く。また、負けた。

 陸に戻って、天馬から降りると、ジキラが勿体ぶって言った。


 「弱!!」

 「うるさい!」

 「まあまだ慣れてないからな。もう一戦やるか」

 「なんだその配慮は。そんなもの要らないから次も本気でやれよ」

 「分かってる分かってる」


 この試合の規則は、基本的には何もない。ただ、手合わせをするだけの授業だ。中には、新しい創造を試したり、三人組で、二体一などをしていたり、中には死闘を繰り広げる者までいる。もちろん王律法に背くことは出来ないので、死にはしないが、相手が動けなくなるまで試合、なんてのはざらだ。王に認めてもらう為、皆頑張っている。

 ナキとジキラはと言えば、天馬に乗りながら、天空戦を繰り広げていた。これまで三戦して、全敗である。負けが連続して、リリーはなんだか不機嫌な様子だ。ようやく相棒になれたというのに、幸先が悪い。

 そんなことを考えながらジキラを見上げれば、鷹揚に手を差し出してきた。仕方なくその手を握って立ち上がると、ジキラの背後に、黒髪の男、ヨハネスが立っている。


 「ナキ君。次は僕とやらない?」


 ジキラは振り向いて、怪訝な顔をする。


 「ん?今回は俺との試合だぞ」

 「一回だけだから。良いでしょ?」

 「はぁ?」

 「そこをなんとか、お願いです」

 

 ヨハネスの後ろから、肌色の髪の少女が立っていた。確か、ニャニャッチといった筈だ。なんだか居心地が悪そうに、気まずそうにジキラを見上げる。


 「なんだかヨハネスさん、全然集中出来てないみたいで...」


 恐る恐るといった感じで、ニャニャッチはヨハネスを流し見る。当のヨハネスは、ジキラと話しているというのに、ナキの方をじっと見ている。その糸目からは、前のような優しさは感じられなかった。ドキッとして、体が少し硬直した。


 「ナキ、どうする?」


 ジキラは振り返って、ナキに問う。幼馴染というのもあって、分かる。その目は、断れと言っている。これまでは、ジキラと感性が割と合うこともあって、そのようにしていたりしたが。

 ただ。


 「いいよ。やろう、ヨハネス」

 「なっ...」


 想定外の言葉だったのか、ジキラは目を見開いている。こんな所で意表を突いたって何の意味もないのだが、なんだか清々した。

 気持ちが伝わったのか、うっと顔を歪ませた。


 「じゃ、こっちはこっちで一戦やるか」

 「にゃにゃ?!いやいやいやだな、観戦しましょうよ」


 流石に切り替えが速い。ニャニャッチに向き直り、勝手にやってろと背中が言っていた。


 「なんでだよ。あんた強いだろ」

 「凄く嬉しいですが、嫌です」


 先程までの動揺は無かったかのように、ニャニャッチは毅然と断った。その真剣な面差しに渋々、ジキラも納得したようだ。近くに座って、ニャニャッチも隣にちょこんと座る。そして、ナキに呼びかけた。


 「ちゃちゃっと終わらせろよ」


 その声に従うように、ナキとヨハネスはなんとなくの位置に立つ。向かい合うようにして、ヨハネスは以前笑顔のままに、観戦している二人を振り返った。


 「ニャニャッチさん、お願い」

 「あ、は、はい」


 ニャニャッチは慌てたように立ち上がり、では、と一息吐いた。


 「始めー!」


 そういえば、ヨハネスとは試合をしたことが無い。何故だろうか。そんなことを考えた折、ヨハネスが駆ける。天馬は使わないようだ。透剣を創造し、構えて、考える。確か、ヨハネスの戦い方は。


 「...ふ!」


 ヨハネスが拳を繰り出す。それを透剣で防いで、防いで、防ぐ。力が意外と強くて少し怯んだが、何とか立て直した。少し慣れてくると、早速出てきた。

 ヨハネスの拳から、拳が出てくる。拳を創造して、拳から出したのだ。馬鹿みたいになりそうだが、要はそういうことだろう。

 試合はしたことはないが、同期達の戦い方は粗方知っている。時折試合を盗み見て、暇な時に考えたりする。

 ...もちろん、考えるだけである。対策は後回し。脳内で戦いが想像されるだけだ。だから、こんなしどろもどろな戦いになる。


 「...くっ...うぉっ!」


 防ぐだけで精一杯で、反撃に転じられない。ヨハネスの攻撃は逐一距離が変わる。拳一つ分長くなったり、二つ分長くなったり、元に戻ったりするから、とても戦いにくい。でも、防げない程ではない。このまま消耗線に持ち込んで、体力を奪えば。

 そう思えば思う程、油断も隙も出てくる。

 透剣が折れたのだ。折れて、そのままヨハネスの拳がナキの顔面にぶち当たる。ぐちゃ、というような音がした気がして、気が付いたら空を見ていた。


 「もう終わり?」


 ヨハネスの声が聞こえて、妙に怒りが湧いた。立ち上がって、目の前を見据える。鼻血が出ている感覚がするが、そんなことはいつものことだ。


 「まだまだ」


 今度はナキが透剣を創造し直して、振る。ヨハネスはそれを避けて、身軽にナキの懐に入り込んだ。そうして一気に、前のような形成に戻る。


 「あちゃぁ..」

 「ぼろ負けだな」


 観客が好き勝手言っているが、一応の作戦のようなものは頭の片隅にあるのだ。

 常套手段の奇策だ。

 

 「っ...!」


 ヨハネスの猛攻は尚も続いている。それを以前のように防いで、かろうじて凌いでいる。ように見せかける。そして、透剣が折れた。


 「?!」


 透壁を出して、ヨハネスの二連結された拳を受ける。どごん!という大きな音と共に、衝撃がナキを身震いさせる。それを気合いで踏ん張って、足を前に出す。思ったよりも衝撃が強くて不格好になってしまった。だが、ヨハネスの意表はつけたようだ。

 透壁を出す前に、透剣は戻しておいた。そして、透壁を拳に創造する。拳一つ分くらいの四角形の、ごつごつとした透壁だ。それを。


 「左ぃ!!」


 右から殴る。言葉とは裏の言葉で、相手を惑わす。これが効果を為すかは分からないが、やれることはやるのだ。今回は、それが功を奏したようだった。

 ナキの右拳についた透壁が、ヨハネスの左頬に炸裂した。

 当たった。やってやった。そんな気持ちになっていた隙に、ナキの左頬にヨハネスの右拳が炸裂した。


 「っ!!...がっ..はぁっ..!」


 顔に、胸に、腹に、至る所に拳が来る。どん、どん、どん。そんな擬音のようなものが、ナキの内から聞こえてきた。衝撃が、痛さも、考えることも妨げる。

 それでもナキは考えた。怒りが衝撃を妨げたのだ。ヨハネスは、ナキのことが嫌いだと、直感的に判断する。理由は全く分からない。たとえナキの責任だったとしても、何も理由を言わずに嫌うだけのヨハネスに、怒りが湧いてしまう。

 頭の中で透壁を想像して、気合を入れた。


 「ぬん!」

 

 額の辺りに円錐の透壁を創り出し、トンカチの要領で、頭をヨハネスにぶん投げる。

 ヨハネスの創造された拳と交わり、どごん!というような大きな音が鳴り響く。すると、ヨハネスの創造された拳と、ナキの創造した透壁がお互いに砕かれた。ヨハネスは驚いて、動揺している。

 この隙に。

 衝突の衝撃を利用して、回る。そして、右脚をヨハネスの喉元に突きつけた。右の靴裏には、鉛筆程度の透針が、太陽の下で煌々と照っていた。

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