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創造世界  作者: ナンパツ
第三章 龍人の里
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第四十八話


 ベーレは雄大な狼に救われた。数秒前に彼女は、キノとルフリアを助ける為に、大蛇の口から飛び出したのだ。ベーレの登場によって一時は凌いだものの、すぐに次が到来する。そこを狼に助けられたという訳だった。ルフリアやキノにも、動物がそれぞれを助け出している。彼らは等しく、里の一員だった。

 狼は、彼女が特に親しくしている獣であり、家族同様の仲だった。小さな頃からの友人で、狼に家族が出来てからは、家族ぐるみで遊ぶことが多かった。

 そんな狼は、ベーレに助力する為に、引き留めようとする父と子を振り切って、この死地に参戦してしまったのである。

 そんな狼は、ジャミの一振りによって、無惨に天上に帰してしまったのである。


 「馬鹿...!」


 湧き出る涙を振り払い、彼女はジャミの一振りに命からがらと避けていた。といっても尻尾は切断され、そこから血液が滝の如くと流れているが。全身には嫌な汗が流れて、もう長くないと悟っている。

 それでも狼は助けてくれた。遅れた父と子の狼までもが、恐怖で逃げ出そうとした己を恥じたかのように、ベーレを生き永らえさせる。彼女の精神はずたぼろに引き裂かれ、声にも出せない絶望を纏わせざるを得なかった。精神が擦り減り消滅しようかという時に、事態は動く。


  ◯


 大蛇には、他の化体とは異なる能力を有している。化体に追われ、逃げて、戦って漸く分かったことだ。

 他の化体に出来なくて、大蛇には出来ること。

 恐らく目的が違うのだ。化体になった目的が違う。目の前の敵は惨殺する目的を持って化体になったであろうし、ネリアであれば弟やセディア達を守る為に化体になったのであろう。大筋がそのような具合ならば、大蛇は何の為に化体になったのか。それを知ることはこの際必要ではない。知るべきは、大蛇が何を出来て、何を出来ないのかだ。

 大蛇に足りないのは、単純な戦闘能力だ。スピードはあるが、パワーが足りないから、目の前の暴君には簡単に剥ぎ取られてしまう。

 大蛇の長所は、他の化体に出来ないことが出来るということ。中では家も創れるし、自由自在に形も変えられる。そして棘が縦横無尽に殺到出来る。残念ながら外にはその能力を放つことは出来ないが、たった一つだけ、身体に穴を開けることが出来るのだ。大きさには限度があるが、これは獅子に追われている時にも、現在暴君と戦っている時にも使えた手だ。しかしガランには、この力を使っても現在の暴君には通用しないことを痛感していた。

 だから、キョウの叫び声が聞こえた時には吃驚した。叩きつけられる度に卒倒する程の衝撃の他に、小さな力点が存在することを知った時は、小さくない希望が湧いてくる。


 「ガランくうううううん!!」


 ガランは懸命に想像する。同じ位置に伝わる、大太刀の感触を捉える。偶然の可能性は高い。が、あの情けない男が自分でそう考えたのなら、たった一日二日でこんなにも変わるものだろうか。

 一筋の願いを込めて、瞼を閉じる。叩きつけられる度に位置が分かる。想像が完璧に構築出来た頃に、ガランはマフラーを握り締めた。


  ◯


 絶対に圧縮している。キョウの身長は百七十五センチだが、今では十センチは縮んでいると確信した。脳汁が、目から耳から鼻から溢れてしまいそうだ。

 ただお陰で、恐怖を感じる余裕が無くなった。揺動をエネルギーにして、キョウは考えることが出来た。


 「ガランくうううううん!!」


 ガランなら、理解してくれると思った。キョウがしたことと言えば、一秒に一回繰り出される大蛇の振り下ろしを防ぐ位置を、出来るだけ等しくすることだけだった。

 上から下へ、振り下ろされる大蛇に変化が訪れたのを、キョウは見逃さなかった。ネリアは大太刀を掲げるのをやめて、雷の如く落ちていく大蛇を受け入れた。

 その瞬間を、ジャミは無表情に理解する。

 大蛇を上へと上げた時、ジャミの黒目は、初めて大きく動く。右へ左へ、ぎょろぎょろと。無機的に動く黒い瞳は、やがて上に動いた。

 紅の騎士は、大蛇を飛び越え、既に大太刀を叩き込もうとしていた。


  ◯


 己の判断に、ガランは深く感謝する。埋葬していなければ、住居部分が障害となったことだろう。

 現在の大蛇の姿は、巨大な蛇そのものであり、特に主だった特徴はない。だがそれは、既に切断していたからである。本来の大蛇は、尾の部分が、本で見るような生き物ツチノコのように太くなっているのだ。そこが住居部分であり、かつてガランが住んでいたところだ。

 彼は地上へ出る前に、その住居部分を、大蛇自身が噛み砕くことで切断した。レディやアラギラ、死んでしまった人達を埋葬する思いで、彼は住居部分を切断し、地中へと残していったのだ。

 ガランは想像した。ネリアに降り掛かる大蛇の細かい地点を確定し、穴を開ける想像をした。

 すると、綺麗にすっぽりと、ネリアは大蛇の中へと招来した。ネリアはそのまま上へ通り抜け、大蛇の背へと、紅の甲冑を顕にする。ジャミの腕が大蛇を振り上げると、勢いに乗じ、キョウは覚悟を決めた。

 大蛇が振り上げられると同時に、跳躍する。己が隕石のつもりで、大太刀で暴君を両断する想像をする。


 「ナキくん...!」


 あんなに泣き荒んだキョウを見て、見捨てることを選択しなかった彼に、彼等に、報いるべきだ。化体を操ることの出来るキョウとガラン、この二人だけが、眼前の敵に抗しうる唯一の術なのだから。

 全力を込めて、想像する。

 

 「両断だ!姉さんっ..!」

 

 ジャミの掲げた腕を貫通し、肩口にまで到達する。ぎりぎりと硬質な塊は、大太刀によって削られていく。

 大太刀が腰まで到達した時に、限界が来た。あれだけ防いでいたのだから当然のことだった。

 ネリアの大太刀が、亀裂を無数に派生させる。暴君の腰の辺りで、亀裂は完全なものとなり、大太刀は爆発四散した。

 ジャミは見逃さず、二本の戦斧をネリアへ差し向ける。

 

 「っ...!」


 一本の戦斧とキョウの間を遮って、一人の龍人が間に参戦した。猛々しい尾が、戦斧と相対する。土塊が火花と化して、巨人の咆哮のような音を披露する。袴は破け、龍人特有の鱗が現れていた。

 

 「ぐあぁ!!」


 力と力が拮抗し、戦斧と尾は弾かれる。しかしジャミには未だ別の戦斧があり、それが舞い降りるのは当然だった。

 キョウが想像し、ネリアはハクビを囲うように庇う。片腕が千切れたが、もう片方の腕によって戦斧の猛攻は鳴りを潜める。ハクビ、キョウ、ネリアは地面と水平に吹っ飛んでいき、意識は断絶された。

 ジャミの戦斧は別の意識へと向き、大蛇の頭部をかち割ろうとしていた。逸早く気付き、ガランは玉砕覚悟に打って出る。ネリアが入れた斬撃の傷口を、蚕食してやろうというのだ。

 二つの意識は対立したが、軍配はジャミに上がった。大蛇は頭部を免れはしたが、胴体の大部分を失うことになった。切断された衝撃により、大蛇の頭部はあらぬ方向へと跳ね上げられてしまう。

 背中に瘤のある大山椒魚は、震えによって動けなくなっていた。勇気を出して助けに行ったは良いものの、自分の挑んだ敵の脅威さにほとほと思い知ったといった様子だった。助けに来てくれた動物に感謝しながら、守るようにジャミと対面していたナキとハロドラは、この日何度目であろうかの慄然を甘受していた。

 ジャミの傷口が、悉く複合を見せたからである。


 「ふぅ」

 

 諦観を現した吐息が、左から聞こえる。ナキは全面的に賛成したいところだった。せめて最後には、誰かと意を共にして死にたい。弱気から出る意に沿わぬ死生観を振り払い、ナキは見つめることしか出来ない。

 ジャミという邪智暴虐の賜物は、切れた腕を再生し、腰にまで至った切断傷を、異常な速度で接合した。

 この場の誰もが悟る。己の死は確立されたのだと知った。どんな権謀術数があれば打開出来るだろうか。そんなことを考えることも申し訳ないことのように、時が流れることを知覚していた。

 ジャミが五本の戦斧を振り上げる。偉大さすら覚える畏怖の塊が最初の戦斧を振り下ろす時、各人は完全に、戦意を喪失していた。

 死を認めた。

 ジャミが標的にしたのが、目の前の昆虫生物であったことに、ナキは理解出来なかった。ジャミは己の視界に有機的な物体がないことを確認した後、暴君にしか分からない針路を取った。

 なんと、暴神ジャミは、ナキ達を見逃したのだった。

 あろうことか、どこかへ去ってしまったのだった。

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