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創造世界  作者: ナンパツ
第三章 龍人の里
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第四十六話


 大蛇に飲み込まれた時にはまた大きく落下するのかと思っていたが、予想は丸々外された。息を詰めていた空気は、壁に打ち付けられて吐き出されたのだ。


 「ごはっ..!」


 お腹にベーレやハクビ、ルフリアが来たので、数秒息が出来ない。息継ぎを懸命にしている中でも大蛇は動いているのだろう。大きく動く振動が伝わってくる。


 「お前ら!大丈夫か!」

 

 ようやく落ち着いてきた頃に、上から見知った声がした。見上げると、そこには茶と灰の虹彩異色を持った男がこちらを見下ろしていた。


 「キノ!」

 「おうナキ。無事で良かった!」

 「キョウさん、大丈夫ですか」

 「...うん」


 ルフリアがキョウを心配する。それもその筈で、キョウはネリアと共に大蛇の体内に挟まっているのだ。あの時ほどの大きさは大蛇には無いのか、ネリアはぴったりと詰まっている。その中にキョウがいて、恐ろしく暗い返事をした。そんな境遇にいるキョウを、ナキは一先ず後に置いた。ハクビとベーレが困惑し切っている中、聞き捨てならない声が聞こえたからだ。


 「ここは...」

 「おう、ここはーーー「お前達、構えろ!!」


 キノの状況説明を、知らない声が遮った。急を要する緊迫感の元を見て、ナキは目を見張る。

 見たことのある風貌だ。知っている顔だ。一ヶ月の間大蛇の中に居候していたのだから、忘れるわけがない。倉庫の前に、死んだような表情で立っていた男だ。ハロドラは、最後の最後にも変わらずに、倉庫の前に立っていた。ナキは会話をしたことが無く、接点も無い。だが、間違いなくハロドラだ。

 涙が出そうになったのは、ハロドラの奥に、背を向けてしゃがんでいる少年がいたからだ。頭布を押さえているのか、片手は顔の方に上がっている。足は融合して、大蛇と溶け合っている。

 ガランだ。

 実感が伴うまでの時間は、やはり残されていなかった。

 恐らく地中に潜っていた大蛇が、急停止したのだろう。がくんと振動が起きて、完全に止まってしまった。


 「捕まった...!」


 ガランの声が、大蛇の中をこだまする。すると、振動が再来した。


 「引き抜かれるっ..止められない!」

 「また何か起きるわけ?!」

 「ベーレ捕まれ!」

 「もう嫌だぁ!!」


 混乱している。今までの散々な思いが組んず解れつと、主にキョウを中心に動いている。ナキは大蛇の体内を力強く掴んで、キョウを求める。彼はネリアの肩に融合しており、大蛇の体内に挟まっているので、頭を抱えてしゃがみ込んだ態勢のままでいる。滑稽な頭頂部を両手で押さえたキョウは、未だ泣きべそをかいていた。


 「キョウ!」

 「ううううぅぅぅ!!」

 「キョウ、聞いてくれ!」

 「うるさいうるさい!黙れ!」

 「助けてくれて、ありがとう!」

 

 震えている頭頂部が、ぴくりと大きく動いて、一瞬だけ止まった。そう思えばまた震え出したが、叫び声は出さなくなっていた。


 「キョウがいなかったら、今ここまで来てない!ロジバルトを出てから一日足らずで死んでた!あんたがネリアを操作してくれたから、俺は今生きてる!」

 

 ナキは今、本当の気持ちを話している。キョウがネリアを操っていなければ、ルフリア達だって死んでいたかもしれないし、ナキだって同じだ。大蛇まで辿り着けずに、遅かれ早かれ幕を閉じた。

 

 「そんなの、僕じゃなくても良いじゃないか!弟が僕じゃなければ!」

 「あんただからだろうが!俺が生きてるのも、どんな窮地が待っていても、信じられるキョウがいる!」

 「じゃあなんでこうなってんだよぉ!!」

 「温存しておいた甲斐があったよ!必殺技だ!」

 

 気付けば、ナキは笑っていた。仮面を被っているから怒っているようにしか見えないので面白くなったのか、自分が人を慰めているのが可笑しかったのか、言えるような人間であるのかが分からなくなったのか。そのどれでも良い。ナキは笑みを絶やさずに、懸命にキョウの頭頂部を見つめている。


 「今諦めてんのも、立ち向かった証拠だろ!大蛇の棘から、何で俺達を助けてくれた!何でセディアを助けようとした!何で!暴神ジャミから守ってくれようとしたんだ!」

 「何が言いたいんだよ!僕は駄目だ!あの時、姉さんじゃなくて僕が化体になればよかったんだ!」

 「あんたが化け物になっても弱いままよ!」

 「黙れベーレ!」


 ハクビが怒髪天の勢いでベーレを叱る。ベーレがしょげているのを視界にも収めないで、ナキはキョウの上がった顔を見た。涙は出ていなかった。


 「なんで?僕は姉さんの弟なのに。こんなに差があるなんて、こんなんじゃ、生まれてくるんじゃなかった」

 「ああもうーー」


 掴んでいた大蛇の体内を離す。勢いよく下に落ちると、キョウは目を見開いて、両手を上げた。連動して両手をあげるネリアの腕を、力強く掴む。紅の鎧の腕の先へ顔を出すと、影に染まったキョウの顔が見えた。


 「うるさい!こんのっ、チリクソぉ!!!」

 「口悪...」

 「センス無..」


 ルフリアとベーレが口々に言うが、ナキには聞こえていなかった。これに関して、ハクビは何も言わない。

 ナキには姉弟も兄妹もいないから、キョウの気持ちは分からないのだろう。察せても、実感が無いし、説得力も無い。


ーー「俺には妹がいるんだが」

 

 カドレアの声が蘇った。ジキラに勝てずにしょぼくれていたナキに、カドレアは身の上話をしてくれた。よく分からない語り口だった。


ーー「幼い頃は何も出来なくて、どこへ行っても転けたり、物を失くしたり、壊したりする奴だったんだけどな。今ではうんと成長して、俺より料理上手で、記憶力も良くなって、几帳面になりやがった」

 「...そうか」

 「今では俺の方が怒られる立場になっちまった。昔はいい顔出来たんだがな」

 「なんか、夫婦みたいだな」

 「殺すぞ」

 「...ごめん」

 「まあよ。ふと思うことがあってな。悔しけりゃそれが溜めになるんだなぁと。思い悩んだ奴が飛んだら、凄えもんが見られるんだな、ってな」

 「...そうか」

 「何で俺がこんな話したか、分かるか?思い悩むことが日常茶飯事なナキよ」

 「...励ましてくれてるんだろ。ありがたいよ」

 「違え」

 「?」

 「俺が話したかったから」

 「...?」

 「お前が必死過ぎたから」


 そこで初めて、カドレアは豪快に笑った。がはは笑いがうるさくて顳顬を寄せたが、ナキはこの笑い声が好きだった。


 「必死って...皆そうだろ。想起士に、一番の想起士になって、王の役に立ちたい」

 「そりゃそうだよ。けど、お前は一番を目指してるが、俺達は一位を狙ってる」

 「...意味が分からない」

 「なんつうかな...お前の欲しいものが、俺達とは違うってことを言いたいんだよ」

 「...??」

 「お前見てると、わくわくしてくるんだ。今まで感じてこなかった熱が、どんどん湧き上がってくる」


 最後まで意味が分からなかったが、カドレアは満足したようだ。


 「俺も、一番目指すぞ。妹に自慢してやりたいからな」ーー


 今は到底分かり合えないし、どころか、言葉すら通じないけれど、カドレアは強くて頼り甲斐のある、兄貴のような存在だ。ナキは手を広げて、ぐっとキョウの眼前に示した。


 「悔しいんだろうが!!でなかったら何で助けた!何でまだ融合してんだ!良いか、今からあの化体をどうにかするから、この手を取れ!!」


  ◯


 レイスダスは、化体の倒し方を分かっている。本体を壊すか、細切れになるまで分解するか。レイスダスは後者を選ぶが、本体を見つければ御の字だ。ただそんなに運良く殺すことは出来ないから、化体を操っている悪魔を先に殺す。馬鹿になった化体を仕留めて終了だ。

 殺し方を決めたところで、当たりが来た。戦斧で掘り進めた地中から、気色の悪い化体の胴が見えたのだ。振り下ろした戦斧を戻し、手で胴を握る。四本の戦斧で土を掻き分けた後、力強く逆方向へと進みたがる蛇の化体を、五本の手で引っ張る。力はジャミの方が圧倒的に強く、あっさりと引っこ抜けた。力み過ぎて、四本の手を離してしまった。最初に掴んだ一本の手が、化体をU字型にしてみせた。頭と尻尾が、空の果てまで飛びそうだ。


  ◯


 戦斧で掘り進めたであろ大穴を見下げながら、ナキは時期を待っていた。今か今かと、目標を注視する。


 「行く!」

 

 キョウの声がすると、ナキは唾を飲み込んだ。飲み込んだと同時に、ネリアは動き出す。ガランが想像し、開いた大蛇の大穴から、噴き出るようにネリアが大蛇の体内を蹴る。

 五臓六腑が浮かび上がる感覚が、ナキを摩滅させていきそうだ。ネリアの蹴りによる速度増加と、単純な重力が、更に脳の荷重を強いている。

 ネリアの長太刀が、天高く上げられる。落ちているのに、どこまでも上がっていきそうな重厚感。それは暴神ジャミの肩越し、つまり想起士のいるところへと、抑々に振り下ろされた。

 ジャミは五本の戦斧で、天高くから振り下ろされた一刀を受け止める。爆風の伴う衝撃が、化体越しからでも十分に重かった。しかしこれで満足してはいけないし、案の定受け止められている。大太刀と戦斧の接触によってつくられた竜巻の中、ナキは急いでネリアの肩から離れる。ネリアの肩を台にして、ジャミの肩越し目掛けて跳躍する。透明な剣を創造し、竜巻の中、目の前にまで近づいた人影を振り下ろした。

 しかし、それは不発に終わってしまった。


 「良い加減にしろ悪魔どもぉ!!」


 ナキの仮面よりも怒りを顕にした想起士が、止んでいく竜巻の中から姿を現した。

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