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創造世界  作者: ナンパツ
第三章 龍人の里
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第四十一話


 祈ることしか出来ない。力のない私では、出来ることは限られてくる。遠ざかる地上を、仲間達を眺めながら、自身を不甲斐なく思う。


ーー「っセディア!!」


 似ていない。ナキは彼とは似ていない。けれど、不意に出る言葉や所作が、妙に重なってしまう。その度その度、感傷に浸ってしまう。髪の色も年齢も、目の形や声まで違うのに、立ち所に現れる彼の面影。

 首を振り払って、無理矢理に断ち切った。浸っている場合じゃない。振り返って、きっと睨み付けた。

 

 「離して」

 「セディア、いつまで恥を晒すつもりだ。お前の為にお前の仲間が死んでいくではないか」

 「あの子達は死なない」

 「ふふふ」


 余裕の表情で、フツルギドウシは地上を眺めている。言っていた通り、観測者のつもりか。

 私は願う。

 死なないで。


 「ーーーシ!!!」


 複数の腕のある、斧を持った化体が、私のいた場所へ躍り出た。あの場所には四人がいる。

 斧の化体が斧を振り下ろす時、全身の力が強張った。砂塵が舞って何も見えなくなることが、途方もなく苦しい。

 ロジバルト。彼等がここに来ることは予想の範囲ではあるが、こんなに早く来るとは思わなかった。


 「ーーウシ!!」


 ルフリアが、ナキとキョウを抱えて飛び降りていく。彼女には大変なことを頼んでしまったと思っているけれど、今この場で確実に頼めるのは彼女しかいない。

 

 「ドウシ!!」

 「羽虫が五月蝿いな」

 

 心底嫌そうに、フツルギドウシは顔を歪めた。声の出元を見遣ると、そこには老人がこちらを見上げている。


 「ロドスさん」


 大樹の中にいた筈のロドス・アンテールは、服のはだけた姿で走っている。みっともなく、人目を気にしていない。妄念に取り憑かれている。彼には今、セディアすら見えていない。フツルギドウシしか目に入っていない。


 「覚えておるか!?ドウシ!!」

 「...」

 「答えてあげないの?」

 「意味がない」

 「ドウシ!!!覚えておるか!!儂じゃ!ロドス・ゴッドラメア!お前の兄じゃ!!」

 

 ロドスは懸命に、フツルギドウシに語りかける。生き別れた兄弟は、感動の再会を果たしたと言える。けれど、会話をするまでは敵わないとセディアは思う。ましてやロドスの願いは、自分を殺してもらうことだ。フツルギドウシの登場に、満を持して大樹を離れたのだろうか。生き恥を晒し続けている人生に辟易して、自身に今生の恨みを抱いているであろう弟に殺してもらう。

 気持ちとしては理解出来なくもない。私には共感することは出来なかったけれど、懸命に叫ぶロドスの姿には、嘘はないように見えた。


 「すぐに死ぬ」


 フツルギドウシの言う通り、ロドスの背後に、天馬に騎乗したロジバルトの騎兵が迫っている。既にあと数秒もすれば、手のひらに付いた剣の創造物がロドスの首を刈り取るだろう。


 「ドウシ!聞いてくれ!儂は、お前にーー」


 息を呑み込み、ロドスの死を直視した。騎兵の剣は、簡単にロドスの首を切り落とす。首が飛び上がり、命尽きた身体は地面に横たわる。切断面から血液が出始め、騎兵は既に、次なる標的を探し始めている。

 突然、フツルギドウシの腕に力が入る。

 

 「痛っ...」

 「....」


 力が弱まり、異変を感じた私はフツルギドウシを盗み見る。完全なる無表情。何も気にしていないのかと思ってしまうが、私には、違うように思えた。取り繕うように、フツルギドウシは広場の方へ指を指す。


 「セディアよ。仲間達が死んでいく姿をその目に焼き付けろ。自身が何をしてしまったのか、骨の髄まで叩き込め」

 「言ったでしょ。彼等は死なない」

 「ほう。ロジバルトの雑兵ならばいざ知らず、三体の化体までいるのだぞ?」

 

 トウロウと三人の龍人が、斧の化体と周囲の想起士を相手取った。ライギルドと呼ばれた獅子の化体はどうなっているのだろう。

 そして、あの巨大な顔の化体。ルフリアは、あの化体を先に倒してしまうつもりか。

 

 「?」


 勝機はある。やれることはやった。ギャンブルでしかないが、布石は打ってある。ここまで来てしまえば、勝つ以外に命はない。

 ナキを見る。丘の上で、言いたかったことが言えなかったのが心残りだ。敵が来るのが思ったよりも速かった。ただ、私が言わなくても時間の問題なのかもしれなかったし、そもそも予想は外れているのかもしれない。

 けれど、期待せざるを得ない。ロジバルトの思想から離れるという法外なことを成し遂げたナキに、祈らざるを得ない。

 フツルギドウシはセディアの表情を変に思ったのだろう。少し真剣に、地上の戦闘を観測する気になったようだ。

 皆、お願い。

 抜けられない紫色の腕に抱えられながら、私は忸怩たる思いで地上を見つめている。外にいるからこそ、出来ることや分かることはある筈だ。探せ、探せ。


  ◯


 「ガラアアアアアアアアアン!!!」


 どばどばと涙が溢れ出る。無尽蔵に出て来るから、目の前にいるのは本物のガランだ。この神経質そうな挙動は、ガランだ。このマフラーを巻いているならば、ガランなのだ。


 「うるさいなこいつ...」

 「ああ、久し振りに見たな。昔の陽気なキノだ」

 

 そして、ガランの隣にいる人物。男はキノの記憶では声を出すことはない。ただ自分に与えられた役割をこなしていた人物。兄のような存在で、実際になる筈だった人物。


 「ハロドラアアアアア「とはいえ黙っておけ。今は獅子をどうにかしないといけない。ガランの邪魔はするな」

 

 思わず歩み寄ると、手のひらで顔面を覆われた。


 「いっ、いだ、いだい」


 指圧が凄くて、感動が掻き消された。我に帰ったキノを見て、ハロドラは溜息を吐いた。

 

 「事態は一刻を争うんだ。感傷に浸っている場合ではない」


 ぴんと背筋が張り詰めた。我に帰ってみれば、キノ達は今、どでかい獅子に追われているのだ。

 ガランが大蛇(大蛇の名前もガランだが)の頭上に浮き出た時、キノは即座に駆け出した。駆け出したとて何が出来るわけもなく、訳も分からず大蛇に食われ、今、キノは大蛇の頭部の中にいると言う訳だった。

 ガランは今、大蛇と融合している。大声を出して邪魔をしている場合では、本当に無いではないか。


 「す、すまない」

 「良い。そんなことよりお前も考えてくれ。あの獅子をどうにかしたい」


 事は急を要するんだ。そう言って、ハロドラはキノに意見を求めた。

 キノは事態をようやく把握する。龍人の里を襲ったのは、恐らく化体。何も考えずに突っ込んでしまったが、ナキやルフリアは無事だろうか。セディアは、キョウは、ネリアは。イトは生きているのか。無事だとしても、何か起きている可能性の方が高い。


 「言っておくが、地中に潜るのは無理だ。既にやったが、隙をつかれてしまう。胴体を引っ張り上げられて、事実半分程切られた」

 「は、半分?!」

 「ああ、まだ森中駆け回った方が捕まらない。それでも時間の問題だが。切られた分、どうやらスピードが落ちているようだ」


 ということは、大蛇の大きさはあんなものでは無かったということか。遮二無二森の中を逃げ回る事でかろうじて生き延びているが、隙を見せてしまえば、次は半分程では済まない。

 

 「...隙があれば良いのか」

 「行けるだろうな。ただ別の理由もある。出来ればあの獅子は俺達が引きつけた方が良い。そうだろう?」

 「何を言って...」

 「一ヶ月前落ちてきたあいつらの目的を、俺達は知っている。ガランが聞いたんだ、あのセディアという奴に」

 「セディアが?」

 「聞けば、ここには龍人がいるんだったな。俺は興味は無いが、あいつらには目的があって、その為に方舟に来た。あの獅子のことも聞いている。もしかしたら危険かもしれないと。...狙われているんだろう、お前達。獅子以外にも、化体はいた。今は追って来ていないようだが、だとすれば襲われている可能性が高い」


 混乱した。ガランとハロドラが把握済みである事じゃない。セディアがガランに話していたという事でもない。あれだけ無口だったハロドラが、ちゃんとキノの目を見て、話してくれている。その事に、胸が熱くなったのだ。

 場違いにも程がある感傷だ。すぐに切り替えなければならない。けれどそれが、逆にキノの頭を冷静にさせてくれた。

 そうだとしても、突然覚醒出来る訳でも、案がある訳でも勿論無かった。何かないか、何かないかと懸命に頭を回転させても、キノには現状を打開する鍵を持っていない。ロドスの過去を聞いただけで、その中に鍵があるとも思えない。

 キノは天井を見上げた。大蛇の上に顕れたガランを思い浮かべる。

 そうだ。この中にいたのでは情報が無さすぎる。道筋をちゃんと創れなければ、成るものも成らない。


 「外だ」

 「?」

 「大蛇の頭上に通り抜けられないか?俺にも外を見せてくれ」

 「外に?」

 「ああ。ここで待つだけじゃ何も出来ない。目を増やせば、ガランは逃げることに専念出来る。その間に、打開策を練ろう」

 

 打開策と言ったって、ここに来て二日目、ましてや地上に出て二日目のキノが見つけられることなんてあるのかも疑わしいところだ。けれど、やれることなんてこれくらいしか思い浮かべられない。


 「分かった」

 

 大蛇と融合しているガランは、苦しそうにマフラーを押さえている。


 「タイミングは...任せる。時期が来たら、飛べ。何か見つけたら...大声、出して」


 もう一度天井を見上げる。ここを飛べば、大蛇の頭上へ飛び出せるということか。

 

 「よし、五秒数える。零になったら飛ぶぞ」


 ハロドラは即座にそう決めると、ガランは小さく頷いた。目が合うと、キノも即座に頷いた。ハロドラのこんな姿は久しぶりに見た。昔のように、兄貴のような存在に戻っている。熱くなる胸を落ち着かせるように、瞼を閉じた。


 「五、四、三、二、一、ーーー零」

 

 全霊を込めて、精一杯に飛ぶ。ある筈の天井は無くなり、正四角形の穴が開いた。すっぽりと超えていくと、視界が開けた。

 何度見ても新鮮な景色だ。空気が心地良すぎて、体がとても軽い。どこまでも飛んでいけそうだ。

 

 「ーーあれ」


 ふと、不思議に思う。何故俺はこんなに落ちている?すぐに大蛇の頭上へと着地出来ると思っていたのに、やけに周囲が遠くに見える。

 首の回る限りに、キノは森を見回していく。木、木、木。方舟では見たこともない大木達が至る所に跋扈している。獣達がいないのは偶然かもしれないが、しかし大蛇や獅子がいることには立ち寄れないだろう。

 

 「飛び過ぎた...!!」


 これでは馬鹿だ。大馬鹿だ。自分の力のみなぎりを制御出来ないとは、本当に大馬鹿だ。

 今にも大蛇は動いているだろう。上手く着地出来るかはわからないけれど、やるしかない。

 ふと、森の奥に、動くものが見えた。動くものは二つあり、一つは飛んでいて、一つは地上を動いている。それが何かは分からないけれど、キノはそれらを注意深く見つめた。

 白い、馬とそれに乗る人間。

 それに襲われる、人間?

 

 「っ!」


 意識がそこに行き過ぎて、一瞬の衝撃に死んだのかと思ったが、全然違う。全く違う。

 

 「馬鹿、飛び過ぎだ!!」


 ハロドラの創造したロープが、キノの胴体を綺麗に絡め取ったのだ。大蛇の頭上にいるハロドラは、乱暴にロープを引っ張った。

 キノは体勢を整えて、大蛇の頭上へと綺麗に着地する。心臓がどくどくと暴発しそうだ。


 「世話が焼ける!」

 「すまん!でも」


 切れるハロドラに謝罪する。飛び過ぎたことで危うく命を失いかけたかもしれないのだ。馬鹿にも程がある。

 でも、と言い訳のような接続詞を付け加えたのは、取り敢えずの目標を見つけたからである。

 

 「北東方向!襲われてる奴がいた!多分龍人だ!そいつを攫う!」

 

 龍人ならば、この森のことは熟知している筈だ。して貰わなければ困る。目標というのだって、まだ一段にも満たない程の道だ。繋げなければ意味がない。

 現在進行形で追って来る巨大獅子に内心慄きながら、キノは想う。

 こいつを倒して、早くあいつらの所に戻る!

 獅神、ライギルド。当たり前なのだが、怒り狂った巨大獅子を前に恐怖を抱くと同時に、キノは思わず笑ってしまった。

 ナキの仮面に、余りにも似ていたから。

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