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創造世界  作者: ナンパツ
第三章 龍人の里
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第四十話


 ナキは創造する。腕に創造した透明な壁を、カドレアの振るう赤い大剣へと当てがうようにぶつける。


 「カド、レアっ...!」


 じりじりと、振るわれた大剣の重みが伝播する。大気が低くなったような錯覚に囚われ、それでもナキは前を向く。


 「その創造、やっぱりナキだなぁ???!!!」


 狂ったように笑って、カドレアは天馬から飛び降りた。まるで凶戦士みたいに、衝動に従って大剣を振るう。ナキは、また透壁で守りを固めた。会って数秒、されど数秒だった。過去のカドレアと現在のカドレアは、あまりにもかけ離れている。


 「カドレア!話を聞いてくれ!」

 「うらぁ!!」


 大剣で斬る、というよりも、叩く。透壁を壊そうと、狂ったように叩く。攻めることしか考えていない。


 「っ!」

 

 気迫に押されて、ナキは尻餅を付いた。いつものナキであれば反撃もするものを、ただただ受け流すことに徹してしまったからだ。

 それだけではない。カドレアの創造、そして身体能力は、兵舎にいた頃よりも格段に上がっている。通常の訓練では成し得ない程の成長幅。

 火事場の馬鹿力。

 ナキと同じように、カドレアも覚醒したというのか。でないと、この威力は説明が出来ない。ナキの知っているカドレアでは、もうなかった。

 

 「カドレア...話をーー「死ねぇ!!!」


 ナキの言葉をぶった斬り、カドレアは大剣を振りかぶる。問答無用。分厚い剣先が、頭上に襲いかかる。

 ナキは。


 「あぁ...」


 何も出来なかった。


 「?!」


 大剣が振り下ろされる刹那、体は横からの衝撃によってかわされる。体が動かなかったナキの代わりに、何者かの腕がナキの体を攫った。赤い大剣は、虚しく地面に撃ち響く。


 「ごめん、失敗した。一旦合流しよう」

 

 ルフリアの声が、一定の声音が、どうしてか温かく聞こえた。ルフリアは反対側の腕にも誰かを抱えているようだ。ネリアが、巨躯を動かして里の広場に飛び降りた。恐らく抱えられているのはキョウだろう。

 ならば、失敗とはなんだろう。ルフリアは何か失敗したのだろうか。

 

 「この悪魔がああぁぁぁ!!!」


 はっと意識が覚醒した。脳のどこかの神経が、異常なまでに震えていると感じる。ナキの琴線に、その憎しみ奉った声は浸透した。

ーー「この悪魔がぁ!!」

 ガッチが放った言葉が、カドレアの怒声と重なる。

 

 「絶対に殺す!!!」


 遠ざかっていくカドレアの姿が、妙にゆっくりと流れていた。

 もう、分かり合えないのだろうか。

 そんな筈はないだろう?

 ナキにとってはまだ友達でも、カドレアにとってのナキは既に悪魔だ。でも、友達だった。友達だったんだ。

 右腕を向けても、それは変わらない。一度諦めてしまったことが、途轍もなく恥ずかしい。ルフリアに助けて貰えなければ、ナキはあそこで死んでいたのだ。当初の目的を達することもなく、開始地点で死に晒していた。

 

 「油断してる暇なんてないぞ」

 「すまん!」


 ルフリアは少し驚いた気がする。肩がぴくりと震えていたので、なんだか申し訳なくなった。ただ、こうでもしないと切り替えられそうにもなかったのだ。


 「ナキ」

 「なんだ!」

 「...正面の化体と右の化体、どっちが厄介?」

 

 言われて、右の化体を見る。暴神ジャミは、大人しくというのか、絶景の景色の見れる丘の上に陣取っている。カドレアと思しき想起士の他に、三名の想起士が暴神ジャミの周囲にいる。動く気配はなく、まるで何かを待っているように。

 それは正真正銘、前方から来る化体を待っているのだ。前方方向には、明らかな化け物が蠢くように迫っていた。家や崖や草木や湖のような障害物をまるで気にせずに、醜い化体は醜く這う。

 守護神、醜神バマラッタ。

 顔だ。巨大な顔がある。にやついた男の笑みが、しゃっくり虫みたいに迫ってくる。頭皮一つ一つが触覚のように蠢いていて、長髪を絶え間なく地面に垂らしている。四人の想起士がその周囲を天馬に乗って飛んでいる。醜神バマラッタの頭皮部分から、ライギルドやガランのように人間の上半身が現れている。

 獅神ライギルド。暴神ジャミ。醜神バマラッタ。ロジバルトの守護神が、三対もアンテールに集まった。その事実に驚愕する。

 けれど驚嘆している場合ではない。暴神ジャミは醜神バマラッタの到着を待っているのだろうか。だとすればあと五秒も持たないだろう。ルフリアには、この絶望的な状況を打破出来る何かがあるのだ。

 バマラッタとジャミ。厄介なのは、バマラッタだ。


 「正面の化体だ!!」

 「...叫ばなくて良いから」


 透壁を創造する。

 見れば、広場には龍人がごった返している。家から出て来る龍人が醜神バマラッタを見て、慌てふためいている。

 身体能力が高いのに、戦うことを知らないのだ。子供が泣き喚いているのをただ宥めるだけで、腰が抜けてしまっている龍人も、ひいては泣き喚く龍人までいるのだ。彼らは逃げようと、大樹の方へと駆け出した。

 けれど、非業のロジバルトは、弱者の嘆きに容赦はない。


 「ギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ」


 醜神バマラッタの鳴き声が、もうすぐそこまで来ていた。


 「髪だ!バマラッタは髪を操る!」


 滑り込むように叫んだナキの言葉通りに、醜神バマラッタは一つ一つの髪を天に向けた。文字通り一つ一つの髪々が、絡まり合って束になる。

 束になった髪は隕石のように、ナキ達を殺さんとする。吃驚箱みたいに伸びた髪の束は、広場を激突した。

 地面が抉れた。かろうじて避けたナキは、土煙や旋風で視界が晴れない。化体が一度動くだけで、環境ががらりと変わってしまう。ルフリアは、キョウは、ネリアは無事だろうか。

 龍人達の悲鳴が、非業がこだまする。ざわざわと気色の悪い感覚が、気色の悪い血飛沫が、ところどころに降りかかる。

 漸く、土煙が晴れていく。


ーー「醜神バマラッタは、いやーな戦い方をするんだ」

 

 ユアンが話してくれたことを思い出す。身振り手振りで、まだ幼少のナキに熱弁を振るっていた。守護神達がどう戦い、どう殺すのか。


 「まだだ!!!」


 ルフリアが、叫びを受けて一瞬止まる。見計らったように、広場に嵌った髪の束がざわつぎはじめた。急激に沸騰し、爆発は瞬間に、髪の一つ一つが拡散する。

 創造する間もなく、毛が目先に飛び込んだ。時間が止まったような感覚がする。無心に地面へしゃがみ込むと、時間は動き出した。一秒も経っていないのに、息継ぎをせずにいられない。

 即座に顔を上げると、ルフリアはそこにいなかった。血の気が引いて、またも時間が止まったかのように感じた。

 ナキの命の恩人は、何故消えたのか。

 答え合わせは、すぐにナキのもとにやってきた。やってきてくれた。


 「たく。何よあの化け物」


 それは、つい昨日聞き知った声だった。

 ベーレという名の龍人は、ルフリアを抱えて立っている。まるで当然というように、ベーレはナキに問いかけた。


 「私、やっぱり死にたくないわ」

 「ベーレ...?」

 「ドスが死んでた」

 「...」

 「今だって、私達が殺されるべきっていうのは納得してる。けど、そんなの私の気持ちじゃない気がするの。気がするって、ドスが死んで、皆が殺されるのを見て思った」


 周知は、既に死体が溢れかえっている。血の匂いが散布され、胸に靄ついたような気持ちの悪さが込み上げて来た。老若男女関係のない殺戮が、この場で行われている。

 ベーレは、そこまでのことが起きないと分からなかったのだろうか。ロドスが乗せた巨大な荷物は、こうも悲惨な目に遭わないと下ろせないものだったのか。

 いや、違う。今だって降ろせていないはずだ。今もベーレは、遺伝子的な呪いを受け続けている。足掻いて足掻いて、ルフリアを助けてくれた。


 「ベーレさん。あなたの他に気骨のある人、いないですか?」

 

 当然のように質問するルフリア。とても嬉しそうに、ベーレは答えた。


 「分かんないわよ。でも、いくらかはいるんじゃない?」


 ルフリアは満足そうに笑い返すと、ベーレの腕から離れ、醜神バマラッタを見上げた。左手に握った注射器を掲げて、澄まして言った。


 「取り敢えず、あいつにこれを射します。ベーレさん、お願いがーー」

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