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創造世界  作者: ナンパツ
第三章 龍人の里
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第三十八話


 夜が来た。里に来てから二日目の夜だ。

 大樹の中を出てから里の龍人を眺めていると、どこか感慨深くなった。一角龍人や二角龍人がいるのは、遺伝の影響だろうか。見れば、彼らの龍人としての特徴はまちまちで、大人で角が大きい龍人も居れば、子供で同じくらいの龍人がいる。鱗や尻尾から類推するに、大人の龍人よりも早くに、子供の龍人の方が死んでいくのだ。

 龍人というのは、世代を経るごとに寿命が減っていく種族なのだろう。

 つくづく不思議に思いながら、ナキはあれから里が見渡せる丘の上に居座っている訳だ。とても綺麗だけれど、物悲しく自身の影だけが側にいる。人間が珍しいのかたまに話しかけられるが、案山子みたいにしていれば誰も寄り付かなくなる。

 

 「まだいるんだ」


 背後からの声に、顔だけを上げる。顔を上げても空しか見えないので振り返ろうと思ったが、その必要はなかった。声の主が、ナキの視界に入ってくれた。


 「ルフリア」

 「そろそろ寝たら?」


 言いながら、ルフリアはナキの隣へ座った。睡眠を推奨しているのに、ここで寝ろということか。

 ならばそうさせて貰おうと、ナキは背中を草原へ押し付ける。微風が心地よくて、本当に眠ってしまいそうだ。龍人の中にもちらほら外で爆睡しているのがいるので、寝所があるのに外で寝るというのは普通のことなのだ。空気が本当に美味しいから、気持ちが良くわかる。


 「何しに来たんだよ」

 「別に。何も」

 

 不貞腐れたようにルフリアを見る。真夜中とは言わずとも、夜の中の銀髪はよく映えている。透き通った横顔に、靡く毛束が頬を撫でる。

 確か、同じくらいの歳なんだよな。

 なんとなく起き上がって、また案山子に戻る。不思議と気まずくない。


 「セディアさん。ここに残ろうって」

 「まあ、ここしか無いしな」

 「お前はどうする」

 

 聞かれて、息が止まった。丘の上でぼうっとしていた理由を、ルフリアはのっけから刺していく。

 

 「どうするったって、ここに残るしかないだろ」

 「まあそうだ。けど、無関係じゃない?」

 「それは違う」


 食い気味になってしまったことを少し悔いながらも、思い直す。ナキが無関係ならば、ロドス以外の龍人も、ルフリアだって無関係だ。今更何を言っている。

 睨みつけてやると、ルフリアの大きな瞳と目が合った。その目は何を考えているか分からなくて、なんだか居た堪れない。


 「だよね」

 「なんだよ、それ」

 「龍人が何で私達と同じ言葉を話しているか、知ってる?」

 「?」

 「創人っていうのは自分達の文化を大事にしてきた民族らしい。里長が会った少年って奴も、どういう訳だかその民族語を聞き知っていた。ロドスに向かって話したのはアルスダッド語じゃなく、創語だったらしい」


 風に押された髪が輪郭をなぞり、むずむずと痒くなる。苛々して、それを鎮めるようにまた仰向けになった。

 

 「...龍人は?」

 「少年って奴と一緒にいるうち、移っちゃったんじゃないかってトウロウさんは言ってる」

 「ロドスとかいう奴、まだまだ知ってることありそうだよな」

 

 ナキは、ロドスが嫌いなのだと思う。ロドスの顔を思い出すだけで、むしゃくしゃとしてしまう。

 

 「セディアは何か言ってたのか?」

 「そう悲観してなかったよ。だからここに住むんだって。何か企んでそうだったけど」

 「セディアがそう言うならそうか」

 「随分と信じてるんだ」

 「おかしいのかよ」

 「おかしい、とは思わないけど。あの人は優しいし、明るいし、可愛いから」

 

 可愛いかどうかは関係ないだろう。

 けれどルフリアの言う通り、ナキは無条件でセディアのことを信じ切っている。それがおかしいとは、自分では思わないし、思えない。

 ルフリアは欠けた月を眺めている。どこかの芸術品にありそうな風景だ。この少女は月と夜が堂に入っている。


 「お前も、秘密があるんだろうな」

 「...ルフリアもあるだろ」

 「言ってないことはあるけど、お前に関しては自分でも分かってない」

 「なら、ルフリアのことを教えてくれよ」

 「私のことか」


 ルフリアは少し笑った、気がした。実際には笑ってはいないのだが、心の中で微笑んだ気がしたのだ。


 「今は止めておこう」

 「今は?」

 「今は。何せ後ろにお節介がいる」

 

 上半身を曲げるようにして後ろを振り返ると、叢に混じって、男の体がある。ぎくっとした男は、観念したように顔を出した。


 「キノ。何で隠れてるんだよ」

 「いや、頭整理したくってぶらぶら歩いてたら、デートスポットにお前らがいるもんだから。空気読んで隠れてたのよ」

 「何を言ってるの?」

 

 それを言った意味が本当に理解出来ないのだろう。ルフリアは大きな瞳で、下卑たキノを射止めている。キノは居心地が悪くなったか、すぐに話題を変えてしまう。


 「しっかし、凄え話聞かされたよな。お前ら理解出来たの?」

 「全部は無理です」

 「同じく」

 「だよなぁ。俺、多分間違って覚えてる」


 キノはあっけらかんとしている。ナキの隣へ座って、月をみている。やっぱり、皆目が行くのは月なのだ。


 「お前ら、今歳いくつだ」

 「十四」

 「十五です」

 「えっ」


 思わず声が出た。予想はしていたが、歳上と確定してしまうと驚いてしまう。


 「よくもまあその歳で切り替えられるもんだ。俺がお前らくらいの歳だったらと思うとぞっとするよ」

 「馬鹿言うなよ」


 ナキはただ流されているに過ぎない。

 キノはははっと空笑いをして、ちっとも思ってなさそうにそうだな、と同意を吐いている。


 「ゼラニム、まだ寝てるかな」

 

 ゼラニム・アンテールは、ロドスの孫だ。リリーを巡って闘ったが、ゼラニムには闘う理由があったのだ。

 話しておきたいと思いながらも、彼は今も床に伏せている。ゼラニムが起きるまでは見晴らしのいい場所でぼーってしていよう、という思い付きで、この丘の上にいたという訳だ。


 「結構良い蹴りだったしなぁ」


 月を見ながら、キノがあの時の闘いを再生している。  突然、背中に瘤のある大山椒魚が池から飛び出してきた。ぺたぺたと地面を歩き、周囲を見回している。あれも、悪物ではない。ロドスのような注射を受けた無創人が発する思棄によって姿を変えた動物だ。


 「確かに勝てたけど、弱くなってた」

 

 ルフリアが、空を裂くように言った。どきっと心臓が跳ねたのは、図星だったからだ。


 「あの時のお前なら、ゼラニムさんの攻撃は全部耐えられてたと思う」


 分かってないような顔でキノは同意する。それについてはナキも感じていることだ。ルフリアに言われることで形を為したけれど、理由が分からない。創造が弱くなったなんてことはないと思うし、心構えだって同じだ。


 「ほらほらキョウちゃん。行くよ」

 「う、うん」


 またまた背後から、見知った顔が現れる。セディアに連れられ、キョウがおどおどとネリアを連れている。キョウの挙動不審とネリアの圧力の落差が相まって、逆に不気味である。


 「ごめんねぇ、イトちゃんには断られちゃった」

 「断る?」

 「この記念すべき日に祝杯を!だよ」


 両手を勢いよく向けた先にはネリアが陣取っていた。よく見てみると、腕に何かを抱えている。紅の騎士に似つかわしくもなく、キョウの姉は食料を抱えていた。

 龍人は動物を食糧としないので、総じて木の実や茸、野草や山芋などを採っているらしい。トウロウの権限だろうか、ネリア両腕には美味しそうな食料が沢山ある。対してキョウが重そうに持っているのは、お酒と果実の果汁だ。


 「すっきり食べて飲んで、そして寝よー!」

 

 夜だというのに太陽みたいに笑って、セディアはルフリアの隣に座る。キョウやネリアも座り、五人と一体は里の景色を一望する。

 アイザ、ユアン、ジキラ、ロック、カドレア、ヨハネス、ニャニャッチ、ロジィ、ガッチ。

 彼等はどうしているだろう。ナキの現在を見たら、腑が煮え繰り返るのだろうか。ナキは悪魔として映り、問答無用に殺そうとするのだろうか。

 ロドスの話が本当だとするのならば、ロジバルトは無関係ではない。明言こそしなかったものの、ナキは半ば確信している。

 大陸を滅ぼしたのはロジバルトの祖先だ。

 つまり、王の係累。

 無関係などではない。ルフリアも、それでこそナキに問うたのではないか。

 セディアのくれた食糧を食べながら、景色を眺める。

 今はセディアの言うように食べて飲んで、万全の状態で寝よう。明日明後日何が起きてもいいように、何を知っても納得出来るように。

 だが、それが来るのは明日明後日などではなかった。

 ナキは、やはり理解出来ていなかったのだ。

 彼等の罪を。

 己の罪を。

 

 ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!


 地鳴りを伴う鮮烈な轟咆。大気が震え、宿り木がざわざわと揺れ出した。空気が淀むのが目で見える。咆哮は続き、急速に大きくなっていく。耳を塞いでも手のひらの厚みを貫通して耳朶を震わす化け物の正体は、目を開く頃には明かされた。

 森から出でる二体の化け物。一体は里内に雪崩れ込み、爬虫類特有の鱗を地面に接地している。大蛇のような出立ちは、ナキには懐かしく映る。大蛇は巨大にそぐわない速度で里を駆け抜けようとするけれど、背後にいた化け物がそれを阻んだ。

 大蛇なんて気にも止めないくらい圧倒的な速度。夜闇の中に一筋雷が奔る。雷は一つの家を壊した。石で出来た家が、ただの一閃で簡単に破裂する。破裂した瓦礫が地面に落ちるまでの間に、化け物は大蛇の正面に降り立った。握るだけで岩をも砕けそうな程の爪が、里の地面に食い込んでいる。逆立つ鬣を地面につかせ、臨戦体制で大蛇と対面していた。尾は剣のように鋭く、何者をも貫く矛となろう。歴戦の獅子は、決して油断をしない。狙った獲物は外さない。怒り狂った顔相に誓って、目の前の大蛇を倒さんとしている。

 獅神ライギルド。

 かつて守護神と崇めた化体が、目の前に君臨した。

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